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ツカノアラシ@万恒河沙
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novelistID. 1469
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人魚の飼い方

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図らずも作ってしまった罪には、償い方があるのだろうか。恐らく王子様は死んでも自分の罪を自覚できなかっただろう。自覚しなければ償うこともできない。自覚できなければ罪は他人がいくら指摘しようとも、本人の中には罪が成立をしないのである。
「じゃあ、また会いましょう警部さん」
玲は多分、この子の人生上で一番早く、そしてあっさりと私を解放すると、自分の生理的欲求を満たすために町へ手に持ったステッキを振り回し、執事を従えて近くの町へ繰り出していった。
二度と帰ってくるな。誰でもいいから、この子を殺してくれ。しかし、このセリフは私の□からでることはついぞなかった。仕方ないので、私は脳味噌が溶けるチーズと化していた私の頭のなかで玲が殺されるトコロを想像することで満足を得た。
……これ以上のエクスタシーが他にあるだろうか?
残念なコトに玲は町の料理で食中毒にもかからず、また誰からも殺されることもなく私の家に逗留し続けた。逗留し続けるおかげで玲の執事が、私の貧しすぎる食生活を格段に良くしてくれたことは良いことの中のひとつである。
その上、どのような風の吹きまわしか、玲が私をかまったのは初日だけで、その後は頻繁に町へでで何かしらしているらしい。毎日、日が暮れる頃に帰ってきては、執事と一緒に自室に篭っているのである。篭って何をしているかは定かではない。
私にとってはささくれ立った精神をこれ以上逆撫でされる事もないので有り難いことではあった。その時は、玲がこの子なりに私に対して気を使っていたとは思いもしなかった。今になって、その頃を振り返って見ると、この頃の私は、他人の好意も疑ってかかってしまうくらいに被害妄想が酷かったのに違いない。
それにしても、玲はこんな鄙びた町で何をしているのだろうか?
私は押しては返す波の音を聞きながら、そう考えていた。そう考えるコトによって私に熱病のように取り憑いていた、人魚の箱への興味も薄れていった。これは私にとって随分良いことだったに違いない。人魚の箱への興味が薄れるにつれて、私の精神状態は平常に戻る方向に向かったのである。