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ツカノアラシ@万恒河沙
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novelistID. 1469
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人魚の飼い方

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案の定、玲は私を揶揄かった。唇の片端をつり上げるような邪気のないアルカイックスマイル。この他人を小馬鹿にするような笑いが、実は全くと言っていいほど玲には悪気がないことを知りながら、いつにもまして私の神経を苛む。だからいつも困ってしまうのだ、この子は。今の精神状態では、いつものように耐えられるとは思えない。できれば、このままおとなしく帰ってくれないものだろうか。それともいますぐ海に落としてしまえば手間が省けるかもしれない。私の胸に、この世が滅びても実行不可能な魅力的なプランが次々現れ、消えする。
「存在してないともいえないぢゃないか。俺は玲君の存在より、人魚の存在の方を信じたいよ」
精一杯の私の厭味。しかし、この反撃もダイヤモンド級を跨る玲の神経に掠り傷さえも与えられなかったのは確かである。ああ何故、私はこうもふがいないのだろう。ああ神よ何故、私と玲の神経を足して二つに割ってくれなかったのですか?
「変なヒトですね貴方も。ボクはもうすこし貴方は現実と常識にしがみついていると思っていましたが、意外ですね。まあそんなことはどうでもよろしい。そもそも人魚と言う奴は温かい地中海育ちなんですよ。こんな夏でも寒いところにいると思います?もし、いたとしたら、たぶんメロウって奴でしょうね。ご存じですか、メロウにはね、男の人魚もいるんですよ。この男の人魚は髪の毛と歯が緑色で、豚と同じ目を持ち鼻が赤いんです。それにボクは何年か前に上半身が魚で下半身が人間という人魚の死体もみたことがありますよ。そんなのが箱に入っていたら興ざめですね。どうしたのですか、げんなりとしたカオをされて」
玲の話はいつもこのように支離滅裂で、言っているそばから内容の主旨がころころ変わっていくことが多い。側で聞いていなければならない者にとっては、この上ない苦痛な話し方ではある。
「玲クンが話を止めて、帰ってくれさえすれば俺の気分も良くなると思うんだけどね」
私は自分のささやかな願い口にした。
「いえいえ、しばらく逗留するつもりですから安心してください」
玲はこれみよがしに、一部の人間から天使の笑みと呼ばれているものを私に向けて大安売りした。実際のところ、天使というものは一般のイメージの優美で優しいモノとは水と油のような冷血の存在であるらしいので、この表現の仕方ははこれでいいのかもしれない