灰色の双翼
「夕日、か……」
自分の体に残った僅かな血の跡を見下ろして、微かに呟いた。あれだけ噴き出した血の跡は、ほとんど消えてしまっていた。首筋につけた傷も、すでに塞がってしまっている。
つまりは、そういうこと。
魔封の副作用とは、対象物の時を止め、永遠に腐食させず、傷を受けても自動的に再生するということ。北のグライディル大陸に残されているという古代の聖具、魔具といわれるそれらが、今でも新品同様の状態で保存されているというのは、そういう理由からだ。
そしてその効果は人間に対しても変らず作用した。つまりユイスとレイスは、魔封の影響によって永遠に死のない体になってしまったわけだ。
「ごめんね、レイ……」
また、ユイスはそう呟いた。
あの後、レイスは決してユイスを見ようとはしなかった。
そして最後に、こう告げたのだ。
「悪いけど、独りにしてくれないか……」
と、生気のない声で。
誰も、死を望んでなんていないと思っていた。けれど、それは間違いだったのかもしれない。レイスのあの様子を見ると、とても彼が生を望んでいたようには思えなかった。むしろ自ら死を求めていたようにも思えた。
自分は、とんでもないことをしてしまったのかもしれない。考えれば初めから分かることだった。人を生き返らせるなんて、そんな背徳行為が許されるわけもなかったのだ。
「ごめん……なさい……」
もういちど謝りたくて、ユイスは出てきたばかりの部屋の扉を振り返る。けれど扉は、気が付くと内側からロックされて、赤いランプが点滅していた。
「レイ……」
扉にすがりつくようにユイスはくず折れ、嗚咽をあげる。
この向こうにはレイスがいるのに、その気配はひどく遠かった。