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灰色の双翼

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 しかし、それ以外の人物像などはまだ分からない。先程からのアルスとレイスのやりとりを見ている限りでは、結構和気藹々としていてそんなに悪い環境にいるようには思えなかったが、もし万が一、その人が自分のかつての主であったような人間だったら。そう思い始めると体は自然にこわ張り、せめて震えないようにすることで精一杯になってしまう。
 そんなユイスの心配を見透かし、一蹴するように、アルスはほほ笑んだ。
「大丈夫ですよ。ヴァシル様は優しい御方です。現に僕はもともと孤児ですが、あの方に拾われて今は様々なことを学ばさせて頂いています。それに、レイ兄さんだって奴隷としてではなく普通に人としてヴァシル様から仕事を任されているんです。本当ならむしろヴァシル様は奴隷制には反対の立場の御方ですし、それになにより身分なんて気にしない方ですからね。たしかオークションの方も王都の知人の方にたまたま誘われて参加されていたそうです。そこで偶然レイ兄さんを見つけたとおっしゃっていました。ヴァシル様には人を見る目がおありですから、何か感じ入るものがあったのではないでしょうか。実際レイ兄さんの実績は高いんですよ。うちでも一、二を争うほどですからね」
 そう、アルスは自分の事のように嬉しそうに話した。その辺りは本当に、年相応の子供の笑顔を見せて。
「そういえば、あなたの事もレイ兄さんからはいろいろ聞いています。ヴァシル様もその話を聞いて、レイ兄さん一人だけでは寂しいだろうって、あなたを引き取るおつもりでご自分で探されていたんですよ」
 その台詞に、え、とつい驚きの声を上げていた。それまでの話だけでもヴァシルという人が普通の人間にはめったにいないすごい人物なのだと思い初めていたユイスにとって、これ以上無いくらいうれしいことだった。まるでサラザードにいるルクレアと同じ。やはりほかにも素晴らしい人はいたのだと心の底から喜びが込み上げてくる。
「レイは……いいご主人様に出会えていたんですね……」
 彼が自分のような目には会っていなかったというそれだけで救われる心地がするのに、レイスはそれ以上の恩を受けていた。胸がつまった。そんな温情を与えてくれたまだ見ぬヴァシルが、まるで神のようにまで思えてきて。
 自分も早く会ってみたい。強くそう願ったとき。
「ああ、そろそろ見えてきます。あの館です」
 アルスがちょうど、窓の外を指し示す。示されたその館を見て、すごいとユイスは感嘆の声を上げた。闇の中、高い崖の上に城とも言えそうな大きな館がそびえていた。辺りは皆真っ白な石造りなのに、闇に遮られてあまりよくは見えないがそれだけが違っている。背後に月を背負い、それだけがまるで別世界にあるような特別な感じ。
 あそこに行けば、きっともうすぐ自分のこの苦しみも終わりを告げるはず。
 その強い期待にユイスは胸を膨らませていた。
 ヴァシルの館は、すぐ目の前まで迫っていた。
 
 
作品名:灰色の双翼 作家名:日々夜