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遼州戦記 保安隊日乗 番外編

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 立ち上がったラン、それを見ると思い出したように嵯峨がランを手招きする。
「ああ、あと神前も来いや」 
「僕もですか?」 
 不思議に思いながら誠も立ち上がる。それを見てリアナは手を打った。
「ああ、本題の方ね」 
「本題?」 
 リアナの言葉にランが首をひねる。
「この映画を上映するのは今度の節分よ。呼び物は隊長の提案で始まった時代行列。そこで着る鎧兜を選ぶのよ」 
「ああ、そういうこった。まあクバルカのは特注だな」 
 嵯峨の言葉に元々目つきの悪いランの目つきがさらに悪くなる。
「しょうがねえだろ?まあおかげでお前さんの好きな奴を作れるんだからよ」 
「え!鎧兜を作る?」 
 嵯峨の言葉に驚く誠。彼の肩にカウラが手を伸ばす。
「時代行列でうちは源平絵巻の担当だからな。当然甲冑を着て行進することになる」 
「目玉は隊長の流鏑馬よ。本当に凄いんだから」 
 自慢げなリアナ。誠は嵯峨なら乗馬くらいはできるだろうとは思っていたが弓まで使えることははじめて知った。
「ちょっと冷蔵庫で会議しようや。お前等も見るか?」 
 嵯峨にそう言われて吉田と隣で一緒に画面を見つめていたシャム以外がぞろぞろとついてくる。
「源平絵巻ですか……写真の資料しか見たことありませんよ、僕」 
 そう言いながら嵯峨に続いて電算室に入る。嵯峨は素早く端末の前に腰掛けると画面を開いて胡州のネットに接続した。
「やっぱり胡州ですか製作は」 
「そりゃあな。胡州の時代趣味はすげーからな。東和だと何時代の鎧……と言うかそもそもこれ日本の甲冑と違うじゃんと言う奴ができちまうからな」 
 ランの言葉に納得しながら誠は嵯峨が胡州国立文化センターのセキュリティーコードを打ち込んでいるのを眺めていた。
「変わったところに頼むんですね」 
「平安末期仕様の鎧兜って限定して作らせるとなると、こういうところしか無くてな。まあこのこだわりがどれだけ客に受けるかは別なんだけどっと!」 
 そう言いながら嵯峨は歴史物品複製製作のサイトにたどり着いた。
「とりあえず胴丸で……サイズからか……誠!身長は?」 
 嵯峨が突然振り返る興味深げに覗きこんだ端末には徒歩侍の姿が映っている。明らかに雑兵と言う姿に少し誠はがっかりした。
「一応186センチですけど……雑兵役……武将じゃないんですね」 
「ああ、将校クラスは大鎧だが下士官はすべて雑兵の格好になるんだ」 
「そうだよね、誠君下士官だから!」 
 カウラの言葉にサラが乗っかって誠に笑いかける。
「神前、でかすぎだ。特別注文になるな」 
 そう言いながら端末に入力を続ける嵯峨。キーボードを打つ嵯峨をはじめてみる誠だが、それは驚異的なスピードだった。すぐさま鎧の各部分の設定などを入力して完成予想画面が映し出される。
「へえ、様になるわね」 
「良かったわねカウラちゃん」 
 パーラとリアナがなぜかカウラに声をかける。それまで画面を見つめていたカウラは突然の言葉に頬を赤らめて下を向いた。
「で、問題のクバルカ中佐殿……どれにするか?」 
 嵯峨が体を引いてランからも画面が見えるようにする。ランはしばらく頭を掻いた後、仕方が無いというように画面を見つめた。
「あれ?兜は?」 
「おい、女武者は鉢巻とかが普通だぞ。リアナもそうだよな」 
「ええ、私は赤糸縅(あかいとおどし)の大鎧に鉢巻よ」 
 リアナの言葉で凛々しく騎馬で疾走する姿を想像して納得する誠。カウラや要、アイシャも将校であるところから考えれば、彼女達も恐らく源平の女豪傑の巴御前のような姿になるだろうと思って心が躍るのを感じた。
「やっぱり兜がねーと格好がつかねーよ」 
「贅沢言いやがって」 
 苦笑いで再び端末のキーボードを叩く嵯峨。
「納期を考えると……緋縅の甲冑の部品が余ってるみたいだからこれで行くか?」 
「仕方がないんじゃないっすか?」 
 ランの一言でようやく落ち着く。
「ああ、そうだ。島田も今回は将校扱いだな……」 
「私が連れてきます!」 
 嵯峨の言葉に飛び出していくサラ。誠は嵯峨の横から手を出して自分の鎧の完成予想図を見た。
「やっぱり雑兵だな」 
 カウラの一言。誠は大きく落ち込んだ。
「良いじゃないの。乗馬の練習とかしなくて良いし、それに大鎧は結構動きにくいのよ」 
 リアナのフォローだが、所詮は祭りのコスプレである。格好が良い方を選びたくなるのが人情だった。
「まあ、がんばれ」 
 肩を叩く嵯峨。そこで再びドアのロックが解除された。
「どこに隠れた!アイシャ!」 
 そう言ってずかずかと部屋に乱入する要。だが、その視線が誠の目の前の画面に落ち着くとにんまりと笑って誠の頭をぽかぽか叩き始めた。
「おう、立派な雑兵じゃねえか!」 
 要はそのまま誠の頭をぺたぺた叩き続ける。誠は苦々しい笑顔を浮かべながら見つめてくる要のタレ目に答えた。
「武将は将校だけなんですよね。じゃあ要さんも馬に乗るんですか?」 
 逆襲のつもりで誠が話をそちらに向けるが要は平然としている。
「アタシは一応胡州の公家の出なんだよ。当然乗馬なんざ必須科目だね。そして……」 
 にやけた要のタレ目がカウラに向かう。カウラは思い出したように顔を赤らめるとうつむいてしまった。
「馬と相性の悪い将校さんもいるからさ、ちゃんと二人で歩いてついて来いよ」 
 嫌味たっぷりに要が言うとそのままじっと話題が変わるのを待つことにしたようなカウラ。
「なんだ、馬?簡単だよあんなの」 
 そう言うと目をきらきらさせてランがカウラの手を握る。
「そうは行かないのよランちゃん。カウラさんの場合本当に不思議なくらいお馬さんに嫌われちゃうの」 
 困ったような顔のリアナ。そう言われて腕組みをして考え込むラン。
「普通ならくつわを取る人さえいればじっとしていれば済むんだけどな」 
「俺もあんなに馬に嫌われる奴は見たことが無いな」 
 嵯峨の言葉が止めを刺したようにカウラは深刻な顔をする。
「おい、追い詰めてどーすんだよ!何でも練習だ!近くに乗馬クラブとかねーのか?この辺は」 
 自分の言葉で部下が落ち込むのを見て慌ててランが全員に顔を向ける。
「確かアイシャが去年通ってたわよね」 
 サラが首をひねりながら答える。こういうイベントには異常な情熱を注ぐアイシャが乗馬の特訓くらいならやりかねないと思って誠は笑みを浮かべた。
「じゃあやっぱりアイツが必要に……」 
 そう言った時にドアのロックが開いて入ってきたのはアイシャ本人だった。要の顔を見ると逃げようとするアイシャだが、素早く飛びついたランがアイシャを押さえ込む。
「ごめんなさい!」 
「おい、そっちの話は終わりだ。それよりこいつに乗馬を教えるところはねえのか?」 
 ころころ機嫌の変わる要を知っているアイシャがおびえた表情から素に戻る。話題がトイレで要が何をしていたか言うことから変わっていると知るとそのまま部屋に入ってくる。
「三つあるけど……節分の時代行列で乗るためでしょ?そうするとここかしらね」 
 そう言うとアイシャはすぐに端末を操作して豊川市の企業情報のサイトを検索する。そこには小さな牧場の写真が映っていた。
「おい、これは誰だ?」