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遼州戦記 保安隊日乗 番外編

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 そのカウラの言葉にリアナまでもが頷いていた。アイシャの台本を没にする。確かに思い出してみればシャムとランのキスシーンを入れると言うラストの案はさすがに無理があった。
「ちょっと!私の立場は!」 
「好き勝手やったんだ。十分楽しめただろ?」 
 冊子を開いて視線も向けずにランがそう言い切った。肩を落とすアイシャ。
「とりあえず……台詞……」 
「どうせ私の出番は無いわよ!」 
 誠が声をかけるが無視するアイシャは頬を膨らまして部屋の隅に向かう。
「あ、いじけた」 
「しょうがないわよ」 
 サラとパーラもいつものようにはかばってくれないと知ってさらに部屋の隅に座っていた椅子を寄せるアイシャ。
「そう言えば要は?一緒じゃないのか?」 
 そんな何気ないカウラの一言にアイシャが反応した。彼女はそのまま立ち上がるとパーラとサラの手をつかんで引っ張る。
「何すんの!」 
 サラが暴れているが寄せた耳にアイシャが一言二言。すぐにサラの目が輝いてくる。
「あのー?」 
「ああ、誠ちゃんは聞いちゃ駄目!」 
 手を振るサラ。パーラも自然とアイシャのつぶやきに耳を貸す。
「なにがしたいんだか」 
 カウラはそう言うと一人カプセルの中に体を沈めた。誠もアイシャ達の奇妙な行動の意味を詮索するのが無理だと悟ってカプセルに体を横たえた。
「あ!そう言えば小夏ちゃんはどうするの?」 
 シャムの言葉に誠は吉田を見た。相変わらず目の前のモニターを凝視している。
「アイツのボイスサンプルは十分取れたからな。俺が編集で何とかするよ」 
「だったら全員のでやってくれれば良かったんじゃないか?」 
 愚痴るカウラ。誠も苦笑いを浮かべながら一度ヘルメットをしたもののそれを外して起き上がる。
「そう言えば要さんは……」 
 戻る気配の無い要を思い出した誠。その言葉にアイシャとサラとパーラがいかにもうれしそうな顔で誠を見る。
「……どうしたんですか?」 
 明らかに変な妄想をはじめた時の彼女達の輝いている瞳、自然と背筋が寒くなる誠。
「そうだな、西園寺がいないとはじめられないな。アイシャ、呼んで来たらどうだ」 
 こちらも上半身をカプセルから持ち上げているカウラの声。今度はアイシャ達の視線はカウラに向く。三人に浮かぶ明らかに何かをたくらんでいる笑い。
「……気味が悪いな。西園寺が何かやってるのか?」 
「大丈夫。もうそろそろ来ると思うぞ」 
 突然そう言ったのは吉田だった。アイシャが特別うれしそうな顔をする。
「吉田ちゃん!もしかして覗いてたの?一階の北側の女子トイレの奥から二番目」 
「バーカ、勘だよ勘!それにしても細かい指定だな。いるところがわかるならお前等が連れて来いよ」 
 そう言う吉田をパーラが汚いものを見るような目で見ている。
「なんだよ!信用ねえな!見て無いって!女子トイレには監視カメラは無いから。付けてようものなら明華の姐御に殺されるよ」 
「はいはい!わかりました」 
 手を叩くアイシャをにらみつける吉田。
「本当に見てない……あっ来た」 
 吉田の言い訳にあわせるようにいつもよりも明らかにテンションの低い要が入ってくる。そして要は誠を見るなりすぐに視線を落としてしまった。
「ねえ、何をしていたのかな?」 
「テメエにゃ関係ねえだろ?」 
 再びうれしそうな視線を要に向けるアイシャ達。
「あ、こんなところに!」 
 そう言って要のスカートのすそを指差すサラ。要は慌てて視線を落とす。
「なんだよ!何も付いてないだろ!」 
 その言葉に飛び跳ねそうな反応を示す要。誠とカウラはわけも分からず見守っていた。
「あのさー。人数そろったんだからはじめろよ」 
 奥のカプセルからの声。ランが痺れを切らしたのは間違いなかった。
「じゃあ深くは詮索しないからそこのカプセルに……」 
「詮索しないならはじめから言うんじゃねえよ」 
 アイシャの言葉にうろたえて見える要。彼女はなんどかちらちらと誠を見ていた。その頬が赤く染まっているのを見て、誠はいつものように酒を飲んでいたのだろうと安心してヘルメットをかぶりバイザーを下ろした。


 突然魔法少女? 29


「でも本当に何をしていたんだ?」 
 カウラの言葉を完全に無視する要。
 バイザーを降ろした画面には夕暮れの河川敷が写されていた。魔法少女のコスチュームのシャム、小夏、ラン、そして要。その隣には悠然とパイプを吹かしている明石の姿がある。さらになぜかカウラ、リアナ、嵯峨の姿まであった。
「ランちゃん……」 
 夕焼けの中、シャムを見つめて立ち尽くしているラン。手を伸ばされてもしばらく躊躇していた。
「貴様も私も裏切り者ってわけだ」 
 そう言って二人の手を握らせてランを見つめる要。いつの間にかランがシャムと同じ制服を着ていることに気づいて誠は突っ込みたい衝動に駆られながら黙っていた。
「機械魔女が機械帝国に逆らうとは……いつか消されるぞ」 
 ランの搾り出した言葉に要は笑みを浮かべる。
「所詮アタシは機械だ。寿命がくれば壊れるものさ」 
 そう言うと要はランの手を握り締めた。
「よし、シャムだけじゃ心もとないものね!」 
 そうしてその手を上に載せる。
「プリンス!」 
 シャムが誠を見つめてくる。全身タイツの誠もそこに手を乗せた。
「いつか……きっと救えるよ。諦めなければ!」 
 シャムの言葉に全員の決意の表情が画面に映る。それを満足げに見つめる明石。そこで画面が途切れた。
「あれ?これだけ?」 
 シャムは起き上がって吉田を見つめた。
「あっさりしすぎてないか?それともいろいろといじるのか?」 
 シャムを無視して画面を見つめている吉田にランも声をかける。
「まあ、そんなところかな……」 
「なんだよ、これだけならオメエが編集してつくりゃあ良いじゃねえか」 
 ようやくいつもの調子に戻った要が愚痴る。
「さあ、それじゃあ見せてもらうわよ。吉田さんの実力と言う奴を」 
 挑発的な言葉のアイシャだが、吉田はまるでかまうつもりは無いと言うように相変わらず画面を覗いていた。
「そう言えば要はさっき……」 
「カウラ。何も言うな……ってその目はなんだ!アイシャ!」 
 要は再びニヤニヤしているアイシャを怒鳴る。
「寂しいのね、そうなのね、要ちゃん」 
 その言葉を聞くと顔を真っ赤にした要はカプセルから飛び起きた。部屋を出て逃げ出すアイシャ。猛然と襲い掛かる要。
「元気があっていーねー」 
 もはや呆れたと言う状態を超えたと言うようにわらうランの姿がそこにはあった。誠はアイシャと要の行動の意味がわからずに呆然としている。
「何か言いたそうね」 
 顔を出すサラ。誠は頷くが口に手を添えて忍び笑いをするだけでサラは何一つ答えるつもりは無いように見えた。諦めた誠は廊下の外の要の叫び声を聞きながら苦笑いを浮かべていた。
「なんだ、ありゃ?」 
 駆け出していく要とアイシャ、そして入れ替わりに嵯峨が顔を出す。それまでアイシャに何かを吹き込まれてニヤニヤしていたサラとパーラが突然の闖入者に思わず目をそらす。
「隊長、何か用が?」