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遼州戦記 保安隊日乗 番外編

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 噛み付きそうな要の表情を見ると不器用で何度も釣の感情を間違えているカウラの受付で苛立った客達もするすると会館のロビーへと流れて行く。
「そこ!タバコ!」 
 そう叫んで要が一人の迷彩服の男に近寄っていく。誠もこれはと思いそのまま要の後をつけた。
「禁煙ですか……消します」 
 要の迫力に負けて男はすぐに持っていた携帯灰皿に吸いかけのタバコをねじ込む。それを見ると不思議そうな顔をして要は誠の待つロビーの前の自動ドアのところに帰ってきた。
「くそったれ、もう少し粘ったらタバコを没収してやろうと思っていたのに」 
 そう言うと今度は自分でポケットからタバコを取り出しそうになってやめる要。その様子を誠に見られていかにもばつが悪いと言うように空を見上げる。次第にアイシャの交友関係から発展して集まった人々はいなくなり、町内の見知った顔が列に加わっているのが見える。
「おい、もう大丈夫だろ?戻ろうぜ」 
 そう言うとまるで誠の意思など確認するつもりは無いと言うように要は受付へとまっすぐに向かっていく。誠もそれにひきづられるようにして彼女の後を追った。
「あ!外道がサボってますよ」 
 劇場の中から甲高い声が響く。そこにはフリフリの魔法少女姿の小夏が要を指差して立っていた。
「おい、ちんちくりん!人を指差すなって習わなかったのか?」 
 そう言ってずんずんと近づいていく要。小夏の周りには慣れている誠ですらどうにも近寄りがたいオーラをまとった男達と小夏の友達の中学生達が遠巻きに立っていた。
「とう!」 
 突然の叫び声と同時に、誠の目の前では要の顔面に何かが思い切り飛び蹴りをしている姿が見えた。その右足は要の顔面を捉え、後ろへとよろめかせる。そして何者かが頭を振って体勢を立て直そうとする要に向かって叫んだ。
「やはり寝返ったな!イッサー大尉。このキラットシャムが成敗してあげるわ!」 
 それはピンク色を基調としたドレスを着込んだシャムだった手にステッキを持って頭を抱えている要に身構える。
「テメエ……テメエ等……」 
 膝をついてゆっくりと立ち上がる要。サイボーグの彼女だから耐えられたものの、生身ならばいくら小柄のシャムの飛び蹴りといっても、あの角度で入れば頚椎骨折は免れないと思いつつ、誠はシャム達の様子をうかがった。
「さすが師匠!反撃ですよ」 
「違うわ!サマー。私はキラットシャム!魔法で世界に正義と愛を広める使者!行くわよ……グヘッ!」 
 シャムの顔面をわしづかみにして締め上げる要の顔には明らかに殺気が見て取れた。
「卑怯だよ!要ちゃん。ちゃんとこういう時の主人公側のせりふが続いているときは……痛い!」 
「ほう、続いているときはどうなんだよ?良いんだぜ、アタシはこのままお前の顔面を握りつぶしても、なあ誠」 
 そう話を振ってくる要に観衆は一斉に眼を向ける。
 明らかに少女を痛めつけている軍服を着た女とその仲間。群集は要の譴責をを大の男である要求していた。
「あのー、二人ともこれくらいにしないと……」
 何も知らない群集ではなく誠は要の怖さは十分認識していたのでできるだけ穏便にと静かに声をかける。 
「おお、そうか。神前もここでこいつの人生を終わらせるのが一番と言うことか。安心しろ、シャム。痛がることも無くすぐに前頭葉ごと握りつぶして……」 
 そこまで要が言ったところで今度は竹刀での一撃が要の後頭部を襲った。
「いい加減にしろよな!馬鹿共!とっとと引っ込んで持ち場に戻ってろ!」 
 再び幼女ランの登場。しかし、彼女は黒をベースにしたゴスロリドレスと言った格好をしており、よく見ると恥ずかしいのか頬を赤らめている。要もさすがにシャムの顔面を握りつぶすつもりは無いと言うようにそのまま痛がるシャムから手を離すと、今度はランに目を向けた。
「これは中佐殿!ご立派な格好で……ぷふっ!」 
 途中まで言いかけて要は笑い始めた。こうなると止まらない。ひたすら先ほど指をさすなと言った本人がランを指差して大笑いしている。
「おい、聴いたか?あの子……中佐だってよ」 
「すげーかわいいよな。でも中佐?どこの軍だ?保安隊は遼州全域から兵員集めてるからな……遼南?」 
「でもちょっと目つき悪くね?」 
「馬鹿だなそれが萌えなんだよ。わからねえかなあ……」 
 周りのカメラを持った大きなお友達に写真を撮られているラン。そのこめかみに青筋が浮いているのが誠にも分かった。
「すいません!以上でアトラクションは終了ですので!」 
 そう言うと誠はランと要の手を引いてスタッフ控え室のある階下の通路へと二人を引きずっていった。シャムと小夏も誠の動きを察してその後ろをついていく。
 関係者以外立ち入り禁止と書かれた扉を開いた。そのまま舞台の袖が見えるがそちらには向かわず舞台の裏側に向かう通路を一同は進んだ。そしてそのまま雑用係をしているらしい警備部員が雑談している前を抜けて楽屋の扉を開いた。
 そんな誠の前に立っていたのはこれまた派手な金や銀の鎧を着込み、そのくせへそを出したり太ももを露出させているコスチュームを着た第三小隊隊長、嵯峨楓少佐だった。
「ああ、今着替えたところだが……これからどうすれば?」 
 何度か右目につけた眼帯を直しながら誠に聞いてくる楓。だが、その視線がシャムに手を引かれて入ってきた要に気がつくとすぐに頬を染めて壁の方に向かってしまう。
「お姉様が来てるって何で知らせないんだ!」 
 小声で誠につぶやく楓。
「そんなこと言われても……」 
「はいはーい。要ちゃん!これ」 
 雑用に走り回る警備部の面々にジュースを配っているリアナ。どう見ても軍の重巡洋艦クラスの保安隊の所有する運用艦『高雄』の艦長とは思えないような気の使い方である。
「リアナさんこっちもお願い!」 
 そう言って手を上げるのは、音響管理端末を吉田と一緒に動作確認をしているリアナの夫である菱川重工の技師鈴木健一だった。
「ったくめんどくせえなあ」 
 そう言いながらジュースのプルタブを開けた要。そんな彼女を見て大変なものとであったとでも言うような表情でサラとパーラ、そしてレベッカが箱を抱えて近づいてきた。
「西園寺さん。これ」 
 おずおずとレベッカが箱を差し出すが、中身を知っている要は思い切りいやな顔をした。
 これから上映されるバトル魔法少女ストーリー『魔法戦隊マジカルシャム』のメインキャストでの一人、キャプテンシルバーの変身後のコスチューム。ぎらぎらのマント、わざとらしくつけられたメカっぽいアンダーウェア、そしてある意味、要にはぴったりな鞭。
「やっぱやるのか?終わったら」 
 約二時間の上映が終わったら開催される予定の撮影会。昨日もこのイベントが嫌だと寮で暴れていた要である。
「ここまできたらあきらめなさいよ」 
 そう言ったのは保安隊技術部部長、そして影の保安隊の最高実力者とも言われる許明華(きょめいか)大佐だった。彼女もまた肩から飛び出すようなとげのがる鎧と機械を思わせるプリントのされたタイツを着ている。
「あのー、姐御?なんか怖いんですけど」 
 そう言ったのは要だった。