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遼州戦記 保安隊日乗 番外編

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「こいつ等の処理速度では私達の技の特定はできないはずだ!行くぞ!」 
 そう叫ぶ要が先頭を切って敵に切り込む。彼女の振るう鞭で次々と倒される手下達。小夏も手にした鎌で次々と手下を倒していく。予想したとおり、どう見ても銃器を使えば要達を倒せるだろうという状況なのにただひたすら白兵戦を仕掛けて吹き飛ばされる手下。
『やっぱり血を見るとまずいだろうからな』 
 そう安心してみていた誠の視界をピンク色の爆発が多い尽くす。
「ランちゃん!助けに来たよ!」 
 笑顔で爆発系の魔法を使って見せたシャム。
『あのー!それまずいと思うんですけど!完全にクバルカ中佐巻き込んでるように見えますけど!』 
 しかし、爆発の煙が収まると一人無事に爆発を避けるためにマントに隠れていたランの姿だけがあった。
 ランはそのまま力尽きたように倒れこもうとする。それを支えるシャム。
「ふっ。アタシが敵に情けをかけられるとはな……」 
 そう言うと手にした銀色に光る剣をそばに来た要に手渡す。
「アタシが生きて貴様達の手に渡れば、アタシを慕ってくれた『赤色の魔法国』の民は皆殺しにされる。これで止めを……」 
「馬鹿!」 
 そう言うとシャムはランに平手をかました。明らかに驚いたような表情のランは瀕死の人物の顔色ではなかった。
「ランちゃんが死んだらその人達は永遠に機械帝国の奴隷なんだよ!間違っている世界、間違った力。生きているからその間違いを正せるんだよ!」 
 熱い手でランの剣を握る手を引っ張って自分の胸に当てるシャム。
「どう、私も生きてるでしょ。だからこうしてランちゃんに会えたの。だから機械帝国を相手に戦えるの。だから死ぬなんて……殺してくれなんて言わないでよ!」 
 そんなシャムを見て要は微笑むと剣をランに返した。
「そう言うわけだ。貴様に戦士の誇りがあるならこの剣を取れ。無いならもう一度機械帝国の黒太子カヌーバの前に行って殺してもらって来い」 
 要はランの視線を感じながら鞭を握り締めた。
「キャプテンシルバー、敵のアジトは分かるのか?」 
 殊勝に小夏が要を見上げる姿が誠には非常に新鮮に見えた。
「ああ、この先の廃鉱山の中に黒太子の秘密基地があるはずだ」 
 そう言うと歩き出そうとした要だが、地鳴りのようなものが採石場全体を覆った。
「なに!なんなの」 
 ランに治療魔術をかけていたシャムが当たりを見回す。採石場の不安定な石は崩れ落ち、森の中から動物達が先を争って逃げ出す。
「私も分からない。何が起こったと……!」 
 要の目の前には信じられない光景が広がっていた。
 そこには巨大な女性の像が廃鉱山のあった場所に立っているのが見えた。正確に言えば立っていたというよりも廃鉱山を壊して姿を現したという状況だった。
『へー、あの設定がこう生きてくるのか』 
 興味深げに誠はより機械的なキャラと言うことでアイシャに頼まれたデザインの巨大化した明華こと機械魔女メイリーンの姿を見つめた。
「これは最後の切り札だが、それを使わせた貴様等には敬意を表するぞ!」 
 巨大になった分良く響く声で明華が叫んだ。
「巨大化魔法を使うか……。あの魔法はを使えばゆくゆくは自滅するというのに」 
 そう言ってこぶしを握り締める要。
「自滅?」 
 小夏が要ことキャプテンシルバーを見上げる。
「ああ、我々機械魔女の体の構成を魔法で組み替えることで巨大化する術だ。だが、これを使えば元には戻れないだけではなく、そのまま魔術に飲み込まれ人格さえ破壊されることになる」 
 そう言った要の視線の先で意味も無く山を崩して暴れまわる明華。
『誠ちゃん出番よ!ここからの台本を表示するから』 
 アイシャが淡々とそう言うと画面の下に文字列が流れ始める。
『無茶ですよ!こんなのすぐ……』 
『やってね!』 
 媚を売るようなアイシャの声に頭を抱えながら誠は自分の出番である場面へと画面を切り替えた。


 突然魔法少女? 25


 それはコックピットのようだった。
 一応、誠もアサルト・モジュールパイロットでありコックピットには慣れていたが、その巨大なコックピットにはなぜか燃えるものを感じた。
『これ!戦隊モノのロボのコックピット!一度座ってみたかったんだ。あそこに』 
 誠は二つとなりのシャムが座るコックピットを羨望のまなざしで見つめた。
「キャラットシャム!キャラットサマー!キャプテンシルバー!ブラッディーラン!こちらはマジューンスペルター!」 
 誠の声に飛行する巨大マシンを見上げるシャム達。
「これが僕達のの切り札だ!転移を!」 
 誠の叫びに頷くシャムと小夏。
「私にはその資格は無い……」 
 うなだれるラン。だが、シャムは叫ぶ。
「そんなわけ無いよ!ランちゃんは一生懸命やったじゃない。この世界を救うために力を貸して!」 
 シャムの言葉。彼女の治療魔術でほぼ傷の癒えたランは静かに頷いて手をかざす。少し恥ずかしそうにランが手を伸ばす。そしてランとシャムの手が重なった瞬間二人の周りの空気が輝き始めた。
 そして瞬時に全員がそれぞれの座席へと転移した。モニターには理性が崩れかけて破壊を繰り返す機械魔女メイリーンの姿があった。
「変形よ!」 
『おう!』 
 シャムの声にあわせて全員で目の前の無駄に大きなボタンを押す。高らかに流れるクライマックスな音楽。
『心配そうな顔しないでよ、誠ちゃん。ああ、この音楽、権利的には大丈夫だからね。吉田さんの曲なんだって』 
 アイシャのあっけらかんとした声が響く。
『おい、俺の曲だからきっちりあとで礼をしろよ』 
 それを無視して超巨大戦闘機のような姿の機体が変形していく。
『いつも思うんだけどなんでこのときに攻撃を仕掛けないかな……』 
 そんな不謹慎なことを考えていた誠だが、やはり同じ意見のような明華はきっちり肩のミサイルポッドからミサイルの雨を浴びせてきた。
「うわ!」 
 お約束は守るだろうと高をくくっていたシャムが顔面からコンソールに頭をぶつける様子が目に入る。笑いをこらえながら誠は叫ぶ準備をした。
「卑怯だよ!」 
「戦いに卑怯も何も無い!油断するな!キャラットシャム!」 
 誠の台詞に元気一杯よみがえるシャム。
「こんな攻撃で変形は止められないよ!」 
 そんな叫び声にあわせて変形が進行する。さらに高鳴る音楽を聴いてさすがの明華も空気を読んでおとなしくしていた。お約束の腕が伸び、首が回転し、ひざが伸びてロボットの形になる。そのままどういう理屈か良く分からないエンジン音を流しながらがっちりと採石場の中央に着地するロボ。
「マジューンシュペルターロボ!見参!」 
 見得を切ってみせるシャム。今後突っ込みどころがあっても完全に出来上がったモードのシャムに誠は黙っていようと心に決めた。
 誠の目の前、五人全員からみえる巨大なモニターにはすでに第二波のミサイルが映し出されていた。
「うわー!」 
 シャムの大げさに過ぎる叫び声を聞きながら巨大ロボはそのまましりもちをつくような感じで倒れた。
「憎し!この世界!憎し!」