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遼州戦記 保安隊日乗 番外編

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「そうね、私にもできることがあれば協力するわ。それよりあなたは誰?」 
 カウラの一言で全員の目が点になる。
『知らないでびんたしたんですか?ちょっと順番間違えてませんか?』 
 まだ止まらないシーンに呆れながら誠はカウラと要を見ていた。
「私はこの子達と志を同じくする者。機械帝国を滅ぼすための正義の使者。キャプテンシルバーとは私のことよ!」 
「あっ。ダサ!」 
「おい!小夏!今、何言った?何言った?え?」 
 要の叔父の嵯峨譲りのネーミングセンスの無さには定評があるが、こうして要の口から出てくるとさらに違和感が漂っていた。小夏は変身を解かずに鎌を掲げて要との間合いを詰めようとする。それを見た要は右手に持っている小さな紐を掲げる。
 銀色の光とともにビキニの水着のようにも見える体と西洋の甲冑を思わせる兜をかぶったキャプテンシルバーの姿に変身する要。手には銀色の鞭が握られている。
「お?やろうってのか?外道!」 
 そう言って小夏も鎌を構える。
「二人とも!喧嘩は駄目だよ!」 
 シャムが慌てて二人の間に立った。小夏は手にした鎌を消して普通の中学生らしいセーラー服に戻る。要も鞭を納めて革ジャンにジーンズと言う普段の要と同じ格好に戻った。
「じゃあ後で訓練を施してやろう!お前も一緒にな!」 
 そう言ってすぐに手を胸の前でクロスして魔法を使って消える要。誠はただ目の前の出来事を呆然と見つめているだけだった。


 突然魔法少女? 23


 あたりの景色がやみに沈みシーンの終わりを告げる。誠はすぐにバイザーとヘルメットを脱いでカプセルから出ようとして縁に頭をぶつけた。
「何やってんだよ」 
 呆れたような感じの要。そして起き上がった誠は腕組みをして薄ら笑いを浮かべているアイシャを見つけた。
「アイシャさん!」 
「ああ、言わなくても良いわよ!じゃあ……」 
 そう言うとカプセルから顔を出す一同を満遍なく眺めるアイシャ。
「典型的なやっつけ。全部私が悪かったです。ごめんなさい」 
 頭を下げるアイシャに全員が白い目を向ける。役に対する不満と言うより明らかにアイシャの趣味だけで構成された物語に要やカウラの視線は殺気までこもっているようにアイシャに突き刺さっていた。
「だってしょうがないじゃない!これ三日で書いたのよ!」 
「期間の問題じゃないと思うがな」 
 あっさり切り捨てるカウラ。
「まあ……がんばれ!」 
 白々しい笑顔を向けるシャム。彼女もオタク歴の長い人物である。設定の矛盾に気づいているのは確かだった。
「私はこういうのは良く分からないからな」 
 とぼけてみせる明華。三人の言葉にさらに落ち込むアイシャ。
「吉田さん、撮り直しは……」 
 ゆるゆると頭をもたげて画面を編集している吉田を見つめるアイシャだが、目で明らかに拒否しているその姿を見てがっくりと肩を落とす。
「そんなに落ち込まないでよ。私は楽しかったわよ」 
 そう言って彼らがアイシャいじめをしている間に起き上がってお茶を入れている春子。だが、彼女が先ほどアイシャの台本の致命的弱点を指摘しているだけに、自分の湯飲みを受け取っても答える気力も無いアイシャがそこにいた。
「意外とこう言うの叔父貴が得意なんだけどな」 
 そうぽつりと言った要に再び目を光らせるアイシャ。
「ホント?」 
「嘘ついても仕方がねえだろ?胡州の斎藤一学って言う作家がいただろ?あれが確か叔父貴と高等予科の同期でいろいろと付き合いがあって、発表していない小説が有るとか無いとか親父が言ってたような……」 
 要の言葉をそこまで聞くとアイシャはそのまま部屋を出て行こうとするが、サラとパーラが身をもって止める。
「だめよ!どうせ隊長は断るに決まってるじゃない!」 
「今からどう変えるのよ!あんたが書いたんでしょ!」 
 胴にしがみつくパーラ。右足を引っ張るサラ。そのどたばたを察したかのように現れたのは嵯峨だった。
「あれ?俺の出番まだ?」 
 明らかに空気を無視した嵯峨の登場に目を潤ませるアイシャ。嵯峨はその尋常ならざる気配に思わず後ずさりをする。
「俺のことなんか噂してた……ような雰囲気だな」 
 頭を掻きながら目にしたのはアイシャの鋭い視線だった。さすがの嵯峨も焦ったように身を引く。
「クラウゼ、ちょっとその目、怖いんだけど」 
 そう言う嵯峨の前まで早足で近づいたアイシャは嵯峨の両手を取って瞳を潤ませた。
「隊長!た・す・け・て・くださいー!」 
 泣きついて来るアイシャにしなだれかかられて鼻の下を伸ばす嵯峨だが、その視線の先に春子と小夏、そして要がいるのを見てアイシャを引き剥がした。
「なんだよ、そんなにひどい出来には見えなかったけどな。予定よりは」 
「見てたんですね!隊長!ひどいですよ!あれでしょ?隊長は胡州の高等予科時代に作家の友達がいたとか……」 
 アイシャの言葉に少し首をひねった後、要に困ったような顔を向ける嵯峨。
「いいじゃねえか。知恵ぐらい貸してやれよ」 
 ニヤニヤ笑いながらそう言う要を見つめてさらに困惑した表情になる嵯峨。
「ああ、一学のことか?あいつは作家と言うより歌人だぞ。あいつの小説は何度か読ませてもらったけど、韻文のセンスは有るけど散文的才能はあいつにはなかったからな」 
「インブン?サンブン?」 
 嵯峨の言葉にいつものように一人でパニックに陥っているシャム。その肩を叩いたカウラがシャムに寄り添うように立つ。
「韻文というのは詩だ。語彙のバリエーションや言葉の響きの美しさを求める文章だ。そして散文は小説や評論なんかだな。意味や内容、構築する技術が求められる」 
 そう言うカウラに分かったような分からないような表情で答えるシャム。誠はどちらかと言えばシャムは理解していないと踏んでいた。
「どっちでもいいけどよー。要するに隊長は多少は物語の良し悪しが分かるんだろ?じゃあなんで前もってこいつに教えてやんなかったんだよ」 
 嵯峨の後ろで腕組みをしながらランがそう言った。会議室の全員が嵯峨に視線を向ける。
「だってさあ、こいつがこう言うことに才能を開花させちゃったりしたら大変だろ?この前だって職業野球のドラフトに引っかかるかもしれないとか言う話も出てきたわけだし。うちにはこいつが必要だからな」 
 そう言って落ち込んでいるアイシャの肩を叩く嵯峨。
「あのー。私はこっちの分野は才能を開花させたいんですけど……」 
「安心しろ!そうなったら俺が全力で潰してやる。なあ、吉田!」 
 嵯峨は満面の笑みを浮かべて窓際でいくつも並べたモニターを眺めている吉田に目をやる。吉田はそれを察して了解したとでも言うように黙って手を上げた。
「ひどい!なんてひどいんでしょう!この上司は」 
 わざとらしくそう言うとアイシャは誠に向かって歩いてくる。
「ひどいと思わない?誠ちゃん。あの人鬼よ!」 
 そう叫ばれても誠は何もできずに愛想笑いを浮かべていた。そのままじりじりと近づいてきて軽くアイシャの胸が誠の手に当たる。ちらりと要が蹴りを入れるようなポーズをとるのをカウラが止めているのが見えた。