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遼州戦記 保安隊日乗 番外編

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「アタシは機械帝国に忠誠を尽くす者!すべてを血に染め、向かうものすべてを切り裂く定めを持つもの!ブラッディー・ラン!」 
 剣をシャムに突きつけて叫ぶラン。
『いつもよりよっぽど大人に見えるな』 
 要のつぶやきに思わず噴出した明華。誠はただ苦笑いを浮かべて二人の戦いを見つめていた。周りに人の気配が消えたのを知って、シャムのランドセルから飛び出したのは小さなグリンだった。
「今だ!変身するんだ!」 
 グリンの声にシャムは頷くと右手を掲げる。すぐさま手にしていた杖が元のサイズに戻り淡いピンク色の光を放つ。
「天空と地と海を統べる世界よ!アタシに力を!」 
 その変身の呪文が前回とまるで違うことに気づいた誠達の前で、シャムの制服がはじけるように消える。やわらかい桃色の光に包まれたシャムの体に靴やソックスや手袋などが次々と現れて前回と同じ魔法少女の姿が見え始める。
 そして桃色の光がはじけ飛んだときに表れたのは、魔法少女『キャラット・シャム』の姿だった。
『なあ、神前。あいつの呪文ってなんか意味あるのか?前回とかなり違う割には出来上がった姿が同じなんだが』
『ただ前のを覚えてなかっただけじゃないですか?』 
 ただ唖然とする誠。しかし、ランもあえて突っ込みをいれずにシリアスモードで変身したシャムに剣を構えて立つ。
「所詮は素人。戦いを知らないものには、死!あるのみ!」 
 そう言って切りかかるランだが、シャムは桃色の光を放ちながら宙に待ってその剣を避ける。振り下ろされたランの剣はまるで豆腐でも切るようにあっさりと机を両断していた。
「シャム!距離を取るんだ!」 
 そう言うとグリンはランの周りに結界を張る。
「分かった!」 
 シャムはそう言うと割れた窓ガラスをすり抜けて校庭へと脱出した。
「この程度の結界など!」 
 そう叫ぶとランは全身から赤い光を放射してグリンの結界をあっさりと破壊した。
「え!この力!」 
 その赤い炎のように見える力に驚いたグリンはそのまま宙に浮いてシャムの隣に並ぶ。
「こんな小細工なんか、アタシには通じねーんだよ!」 
 そう叫ぶと一気にシャムに飛翔して剣を振るうラン。再びシャムは魔方陣を展開してそれを受け止める。
『熱くなってるな、姐御。素に戻ってるじゃん』 
 そう言う要だが、明らかにバトル展開を楽しんでいるように言葉が弾んでいるのが誠にも良く分かった。
「シャム!どいて!」 
 叫び声と共に火炎がシャムとランを襲う。二人は飛びのいてその技が繰り出された上空を見上げた。そこには青い魔法少女のドレスをまとった小夏が手に魔法の鎌を身構えていた。
「お姉ちゃんだめ!これは私とランちゃんの戦いなの!」 
 そう叫ぶとシャムは杖を構えてランを見つめた。
「そう言うこった!貴様の命はアタシがもらう!」 
 一瞬で距離をつめるラン。だがすでにそこにはシャムの姿は無かった。
「なに!」 
 驚愕するランだが、背中を杖で殴られて吹き飛ばされそのまま隣の神社まで吹き飛ばされた。何とか体勢を立て直すと、その鋭い視線をシャムに飛ばす。そして杖をかざして何かを詠唱しているシャムに剣を向けた。
「そうでなきゃつまらねーな。見せてみろよ!テメーの本気を!」 
 完全にノリノリで剣を振るってシャムに襲い掛かるラン。だがすぐさま三つに増えたシャムに包囲される形となる。
「なんだ?なんなんだ?」 
 焦って周りのシャム達を見回すラン。だが、すぐに下から発せられた稲妻に巻き込まれて吹き飛ばされる。
「下ががら空きだよ!ランちゃん」 
 そう言ってそのまま空中で体勢を崩したままのランに杖を振り上げるシャム。
「そーはいかねーよ!」 
 ランは上半身だけでシャムの一撃を受け止めると、そのまま後退して距離を稼ごうとする。シャムは再び距離をつめようとするが、動物的勘の持ち主と言えども飛ぶことに慣れていないシャムにランを捕らえることは難しかった。直線的飛行と直角の変化ではランの流れるような軌道にはついていけなくなり、じりじりと間合いを広げられる。
「それじゃあ!」 
 そう言ってシャムを援護するために魔法を使おうとするグリン。だが、その前には先ほど喫茶店で別れた要、この物語の名前で言えばイッサー大尉が立ちはだかった。機械的な上半身から炎のような魔力をたぎらせる要ににらまれてもグリンはひるまなかった。
「邪魔だよ!キャプテン・イッサー!」 
『キャプテン・イッサー……語呂合わせ?それとも思いつき?』 
 誠は時々見せるアイシャのすさまじいネーミングセンスに口を開けたままこの画面を見つめていた。
「おい、これは女と女の信念をかけた戦いなんだ。野暮なことはよしにしようや!」 
 再びわけのわからないベクトルでの自己陶酔モードに入った要がやけに良い笑顔でグリンを見つめる。
「そうだよ!これはアタシとランちゃんの戦い!誰にも邪魔はさせないよ!」 
 そう言うとシャムはランに一直線に飛んでいく。
「なるほど!アタシに本気を出させたいわけだな!」 
 ランもまた力の限り自分の身長を超える剣を振りかざす。二人の得物が激突し、強烈な光があたりを覆った。
「なに?なにが起きたの!」 
 上空でまぶしさに目をつぶってしまう小夏。
「シャム!」 
 思わず叫んでいるグリン。そして強力そうなこぶしを握り締めて笑みを浮かべる要。
 三人に見守られる中、強烈な光がいくつもの稲妻で当たりを染めながら次第に薄くなっていく様子が見て取れた。
「やるもんだな……」 
 肩で息をしてシャムの桃色に輝く杖に受け止められた剣を腰の鞘に収めるラン。その赤いドレスはぼろぼろに破れ、頬にはいくつもの傷が見て取れた。
「ランちゃんもね」 
 同じく魔法少女の衣装をぼろぼろにしながら杖を掲げるシャム。そのまま息を整えながら二人は上空で見詰め合った。
『青春だねえ』 
 突然抜けたような声が響いたので誠は驚いた。いつの間にか会議室に紛れ込んでいた嵯峨がウィンドウ越しに割り込んでくる。
『惟基さん。良いんですか?お仕事は』 
 春子の言葉に誠もいくつか付け足したい気分だった。
『ちょっとくらい匿ってくれたっていいじゃないですか』 
『サボるな!』 
 女性としてはハスキーな張りのある声。それが遼州同盟司法機関特務実働部隊、通称『特務公安隊』隊長の安城秀美のものであることは誠にもすぐに分かった。昨日同盟本部に法務司法執行機関および治安関係団体幹部会議を『頭が痛い』と言って欠席して隊長室で刀を研いでいたところは誠も目撃していた。 
『春子さん、嵯峨特務大差はお借りしますから』 
『どうぞご自由にお使いください』 
 春子に見放されて落ち込んでいるだろう嵯峨の顔を想像して思わず笑いそうになる誠。再び誠が画像に意識を向けるとすでに逃げ去ったランを見送るシャムの姿があった。
「シャム!せっかく捕まえられるチャンスだったのに!」 
 すでに戦いは引き分けに終わりランが逃げ去った後だった。小夏はシャムのところまで降下すると責め立てた。でも口を真一文字に結んだシャムは謝るつもりはないというように小夏をにらみつける。