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遼州戦記 保安隊日乗 番外編

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 グリンの言葉に一瞬素に戻る小夏。その目は明らかに誠を見下しているような色を湛えていた。だが隣に師匠と仰ぐシャムの演技と言うよりただ単に楽しんでいる姿を見て役に戻る。
「それじゃあこのおじさんも……」 
「そうだよ。彼が僕をかくまってくれていてね。君の家にお世話になるのにもいろいろ手を尽くしてくれたんだ。そして今では機械帝国の脅威を知って協力をしてくれている」 
 誠の言葉に時々呆れている地を見せながら小夏が明石を見上げた。
「お二方、飲み物は何にする?」 
 相変わらず変なイントネーションでしゃべる明石。
「じゃあ私はオレンジジュース!」 
「シャムったら遠慮くらいしなさいよ!」 
 シャムがうれしそうに叫ぶのを止めようとする小夏。いつもの光景が展開されて誠は噴出しそうになった。
「いいんだ、気にしないでくれたまえ。これからは一緒に戦う仲間になるんだから」 
「神前寺さん、いや殿下の言うとおりだ。僕もいずれは連絡を取らないといけないと思っていたんだ……しかし殿下がこんな身近に……」 
 グリンの言葉に不信感をぬぐいきれないもののこれ以上意地を張れないと思ったように小夏がカウンターに座る。
「じゃあお嬢さんは……」 
「ホットミルクで」 
 つっけんどんに答えた小夏に笑みをこぼすと明石は飲み物の準備を始めた。
「でもカウラお姉ちゃんは知ってるの?」 
 目の前に出されたオレンジジュースを飲みながら誠を見つめるシャム。
「実は……」 
 その言葉に思わず誠は口を開く。そんな彼を明石が抑えた。
「魔力を持たない人に無用な心配をかけないほうが良い」 
 頭を振って明石はそう言うと小夏にホットミルクを差し出す。
「確かにそうかもね。カウラお姉さんは一途だからきっと無茶をするわ」 
「小夏お姉ちゃん!でも何も知らないでいるなんて!」 
 シャムはストローから口を離して明石と小夏に向かって叫ぶ。
「それでも誠一お兄ちゃんいいの?何も知らないで好きな人が戦いに赴くなんて私はやだよ!」 
 そう言うシャムが演技と言うより本音を言っているように見えて誠は地で微笑んでしまった。
「いつかは言うつもりさ。彼女は察しがいいからな、いずれ気づくはずだ。でもしばらくは時間が欲しいんだ」 
 そう言ってコーヒーを啜る誠。彼の言葉に頷きながら小熊のグリンはシャムを振り返る。
「シャム、僕達の戦いは一人の意思でやっているわけでは無いんだ。機械帝国は全世界、いや異次元も含めた領域を支配をしようとしているんだ。個人的感情ははさまない方がいい」 
「でも……」 
「なら君の協力は必要ない。普段の生活に戻りたまえ」 
 そう言ってカウンターから飛び降りるグリン。
「どうするつもり?一人で戦うなんて無理だよ」 
 悲しそうに叫ぶシャムの肩にやさしく手を伸ばしたのは明石だった。
「いつかはシャムにも分かる日が来るはずだ。今は黙っていておいてあげてくれ」 
 そう言うとにっこりと笑う明石だが、その表情が明らかに無理をして作り出した硬いものだったので誠は思わず噴出しそうになるのを必死でこらえた。
「分かった。でも私達だけで戦える相手なの?」 
「ふっ、子供の癖に戦況の分析は得意のようだな」 
 そんな女性の声が聞こえた後、部屋にハーモニカの旋律が響く。
「誰だ!」 
 明石のはいつの間にか開いていた窓に身を任せている革ジャンを来たテンガロンハットの影に向かって叫んだ。
「危ないところだったな。私が機械帝国の手先の時代なら貴様等の命はすでに無かった」 
 そう言ってジャンプして誠達の前に現れたのは前のカットでぼろぼろにされていたイッサー大尉役の要の姿だった。
『こてこてだよ!たぶん要さんはかっこいいつもりなんだろうけど……これじゃあ爆笑モノだよ』 
 そんな誠の心の叫びを無視して立ち上がるとハーモニカを吹き始める要。
「機械魔女イッサー大尉。君が来てくれたのか!」 
 誠はとりあえず台詞を言った。要はハーモニカを吹くのをやめ、手にしたテンガロンハットを入り口にある木製の帽子掛けに投げる。それは静かに宙をまい、みごとに帽子掛けに収まった。
 そして素早く誠の前に立つと誠のあごの下をつかんで顔を上げさせる。
「私は必ず借りは返す主義なんだ。力ならいくらでも貸すつもりで来た」 
 そう言ってにやりと笑うが、タレ目の要がそう言う表情をするととても色っぽいことに誠は気がついて頬を染めた。
「マジックプリンスとか言ったな。私に惚れると火傷するぜ!」 
 そう言って颯爽と誠の隣に席を取り、ぴったりと誠に胸を密着させてくる要。
『ああ!駄目だ!要さん完全におかしな方向に向かっちゃってるよ!』 
 誠の焦りと恥ずかしさに流れる汗を勘違いする要の姿がそこにあった。
「マスター。取り合えずワイルドターキー。12年物で」 
「あのー……イッサー大尉。うちは喫茶店だからアルコールは無いぞ」 
 暴走する要に呆れた顔で答える明石。さすがにここに来て自分の勘違いに気づいた要はすごい勢いで顔を赤く染めていった。
「まあいい。これだけの戦力が集まったんだ!」 
 恥ずかしさをごまかす大声。要は手を差し出して周りの人々を見つめた。その殺意すら感じるような視線におびえた誠は反射で彼女の手に自分の手を重ねた。さらにシャム、小夏、明石、その上にグリンまでも手を伸ばして重ねられた手のひら。
「必ず機械帝国の野望を砕いて見せるぞ!」 
 そう叫ぶ明石に一斉に声を張り上げる誠達だった。
『カット!まあ……なんというか……要ちゃん……』 
「あ?何が言いてえんだ?」 
 手を引いた要が明らかに不機嫌そうにつぶやく。
『まあ、良いわ。それじゃあ次のシーンね。今度は私も出るから吉田さん頼めますか?』 
 次のシャムの小学校の担任役で登場するアイシャ。吉田はテキストで『分かった』と返事を出す。恐らくは要の怪演に大笑いをしているんだろう。そう思うと誠は要に同情してしまった。
『じゃあ皆さんはご自由にどうぞ……要ちゃんは自重』 
「うるせえ!」 
 要の捨て台詞が響くと素早く周りが暗くなる。そしてしばらくたって再びカメラ目線に誠の視界が固定される。そこには小学校。特に誠には縁の無かったような制服を着た私立の小学校の教室の風景が広がっていた。シャムは元気そうに自分のスカートをめくろうとした男子生徒のズボンを引き摺り下ろす。そして彼とつるんで自分を挑発していた男子生徒達を追いかけ回し始めた。
『似合いすぎ……』
 あまりにはまるシャムの行動に誠は自然とつぶやいていた。
 チャイムが鳴る。いかにもクラス委員といった眼鏡をかけたお嬢様チックな少女が立ち上がるのを見ると騒いでいた生徒達も一斉に自分の机に戻った。
 その時ドアに思い切り何かがぶつかったような音が響いた。そしてしばらくの沈黙の後、アイシャが額をさすりながらドアを丁寧に開いて教室に入ってくる。
「先生!何したんですか!」 
 先ほどシャムにズボンを下ろされていた男子生徒が指をさして叫ぶ。周りの生徒達もそれに合わせて大きな声で笑い始めた。それが扉を開かずにクラスに入ろうとして額をぶつけた音だと言うのが分かり誠の頬も緩む。