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遼州戦記 保安隊日乗 番外編

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 そう言いながらすぐにおはぎに手を伸ばして食べ始める西。レベッカもすでに両手におはぎを持って食べ始めている。
「ああ、神前さん何を見ているんですか?」 
 西は不思議そうに誠の端末が黒く染まっているのに目をつける。
「あれだよ、例の映画」 
「ああ、クラウゼ中佐の奴でしたっけ?でもまあ吉田さんも大変ですよね」 
 そう言いながら今度は西とレベッカが春子が居た場所に陣取る。アイシャが二人を出さなかった理由がシャムが書き上げた今度のコミケ向けの少年を襲う女教師の出てくる18禁漫画が原因だとは知ってはいるが口に出せずに愛想笑いを浮かべる誠。
 再び画面に目を戻すと、そこには鎖に縛られた要の姿があった。誠とカウラは目を見合わせた。間違いなく楓達が動き出す。
『うわ!ふっ!』 
 鞭打たれる要の声。誠が目を向ければ予想通り楓と渡辺が立ち上がっている。恍惚とした目で鞭打たれる要を見つめる二人。そこに割って入ろうとするレベッカだがすぐに楓が鋭い視線でにらみつける。
「シンプソン中尉!君達は買出しの任務があるんだろ?」 
 そう言って西とレベッカを追い散らす楓。
「すみません。楓さん達はお昼はどうします?」 
 頭を下げながらおずおずと楓に尋ねるレベッカ。
「ああ、あっさりとぶっかけうどんがいいな」 
「私はミックスサンドで。中身は任せる」 
 力強くそう言うとそのまま画面で拷問を受ける要の姿を目に焼き付ける楓と渡辺。
「よく食べますね」 
 誠が思わずそう言うと楓と渡辺に殺気を込めた視線を投げられて言葉を失う。
『よくもまあ恥ずかしげも無く生きて帰ってこられたものだな!』 
 サディストと言われる明華がまさにそれを証明するかのように要から取り上げた鞭を振り下ろしている。要の悲鳴とにんまりと笑う明華の表情が交互に映し出される。
「これは……ちょっとやりすぎじゃあ……」 
 誠は苦笑いを浮かべるが楓達の反応はまるで違っていた。
「素敵……」
「私も……要お姉さま……」 
 ほんのりと頬を染めて楓が今にも身悶えそうな雰囲気で画面を見ている姿に誠とカウラは頭を抱えた。
「じゃあ、失礼します!」 
 引き時を悟った西とレベッカはそのまま部屋を出て行った。
「賢明な判断だな」 
 西とレベッカが消えたのを見てそう言うとカウラは再びおはぎに手を伸ばした。


 突然魔法少女? 18


 画面の中で明華が十分に要の折檻を楽しみ終えたというところで画像が消えた。
「あっちもお休みみたいですね」 
 そう言って伸びをする誠。画面が消えたのを合図にして楓と渡辺はそれぞれの席に戻る。
「まあ……なんて言うか……」 
 頭を掻きながら嵯峨はそのまま立ち上がった。その隣には真っ暗の画面を凝視して余韻に浸る彼の娘と愛人と呼ばれている士官の姿がある。ただ嵯峨は苦笑いを浮かべていた。
「隊長……大丈夫ですか?」 
 いつの間にか自分のデスクに戻って仕事を続けていたアンが青い顔の嵯峨を見上げた。
「大丈夫だろ?数なら神前の方が食べてるんだ。あーあ、胃がもたれる」 
 嵯峨はそう言い残して部屋を出て行った。残されたのは三段目の半分以上を食べつくされた重箱とポットと急須。
「アン軍曹。悪いが急須の中を代えてくれないか?」 
「了解です!」 
 カウラの言葉に椅子から跳ね上がったアンは、そのまま誠に笑顔を浮かべて急須を持って部屋を出て行く。
「ふう、さすがに腹が膨れますね」 
 これで最後にしようと誠はおはぎを口に運ぶ。さすがに口の中も甘ったるくなって嵯峨の気持ちも理解できるような気分だった。
「今、女将さんはあっちの部屋に居るんだろ?」 
 カウラもさすがに甘さにやられたようで、明らかにペースを落として一個のおはぎをゆっくりと食べ続けている。
「まあアイシャさんは甘いものには目が無いですからね。それとなんといってもナンバルゲニア中尉がいますから」 
 その名前を聞くとカウラも楓も渡辺も頷く。彼女の大食漢は誰もが知るところだった。
「おう、元気しとったか?」 
 そう言いながら急須の茶葉を取り替えてきたアンに続いて明石清海中佐が部屋に入ってくる。先週までは実働部隊隊長兼保安隊副長と言う肩書きでこの部屋の主のような存在だった明石だが、同盟司法局の内勤職員に転属した彼は、まるで借りてきた猫のようにおとなしく開いていた丸椅子に腰掛けた。
「どうじゃ、クバルカ中佐は」 
 アンが気を利かせて明石がここに残していった大きな湯飲みに茶を注いでいる。
「厳しいですけど頼りがいがありますよ。さすが教導部隊の隊長をしていただけに指導は的確ですし……」 
 そう言う誠の言葉には嘘は無かった。柄の悪い小学生にしか見えないランだが、言うことはすべて理にかなっていて新米の自覚のある誠にはその全てが為になるように感じていた。
「まあワシはそう言うことは苦手じゃったからのう」 
 明石は大きな湯飲みを開いているロナルドの机に置く。
「それよりも明石中佐の方が大変ではないんですか?調整担当って同盟軍とか政治部局とかに顔を出さなければいけないわけですから」 
 久しぶりの上官の姿に笑顔を浮かべながらカウラがたずねる。
「まあな、居づらいちゅうかー……何をしたらええかわからんちゅうか……まあ今はとりあえず頭を下げるのが仕事みたいなもんじゃけ」 
 そう言って剃りあげた頭を叩きながら明石はいつもの豪快な笑い声を上げた。
「いつも思うんですが……私達、こんなことしていて良いんですか?」 
 その質問は誠の口ではなくカウラから発せられた。トレードマークのサングラスを直す明石はそのまま視線をカウラに向けた。
「なんでじゃ?」 
 不思議そうにサングラスの中の目はカウラを見つめる。その切り替わりに戸惑ったカウラは誠の目を見た。
「東和軍や警察からいろいろ言われてるんじゃないかって思うんですけど」 
 誠がそう言うと明石は快活な笑い声を上げた。
「ああ、言うとるぞあのアホ共。田舎で農業や野球やって給料もろうとるとかな。まあそう言うとる奴のどたまぶち割るのがワシの仕事じゃけ。まあ本気では殴らんで。半分は事実やからな」 
「明石中佐。くれぐれも暴力沙汰は……」 
 奥の席から顔を出した楓が声をかける。
「あ、姫様。心配及びませんわ。これはいわゆる言葉のあや言うやつですわ」 
 そう言い放って再び笑い出す明石。だが手を出さなくても見たとおりの巨漢。そして勇猛で知られた胡州第三艦隊のエースの明石ににらまれて黙り込むしかない東和軍や同盟の偉い人達の顔を想像すると誠は申し訳ない気持ちになった。
「お、おはぎ残っとるやないか。ワレ等もはよ食わんと、硬とうなってまうど。さあ、神前」 
 そう言って素早く自分の分のおはぎをくわえると次のおはぎを誠に差し出す明石。
「えーと……いただきます」 
 こわごわそう言うと誠はおはぎを受け取る。それを満足げに見ながら明石はすぐにもう一つをカウラに差し出した。
「ありがとう……ございます」 
 複雑な表情でおはぎを受け取るカウラ。それを見てそれまでおはぎに手を出さなかったアンが最後のおはぎを手に取った。