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遼州戦記 保安隊日乗 番外編

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 東和陸軍の教導部隊のエースであるクバルカ・ラン中佐の指揮する第一小隊。彼女は保安隊副長でもあるので実働部隊全体の指揮官とも言えた。そこには遼南救国の英雄とも言われるナンバルゲニア・シャムラード中尉、伝説の傭兵と語り継がれる『電脳の悪魔』の二つ名の吉田俊平少佐が所属し、事実上の保安隊のエース部隊といえるものだった。
 誠が所属するのは第二小隊。隊長はカウラ・ベルガー大尉。そして隣でぶらぶらしている西園寺要も隊員の一人である。
 そして胡州・遼南の混成部隊第三小隊。ここには胡州四大公の爵位を持ち、保安隊隊長嵯峨惟基特務大佐の次女の嵯峨楓を隊長とした部隊である。まだここに配備される予定のアサルト・モジュール『烈風』が到着していないために実質的には今は事務処理要員扱いを受けていた。
 そして最後の第四小隊になるわけだが、その部隊はこれまでの部隊とは少しばかり性質の異なる部隊だった。第四小隊の小隊長ロナルド・J・スミス上級大尉の席に視線を移す誠。彼の席も部下のジョージ・岡部中尉、フェデロ・マルケス中尉の机もどれも住人はいないと言うのに端末の電源は入りっぱなしでさらに通信まで行われている。
 彼等は現役のアメリカ海軍の軍人である。彼等と技術部の整備班で最新鋭アメリカ海軍採用のアサルト・モジュールM10シリーズの整備を担当しているレベッカ・シンプソン中尉の配属には強い政治的配慮がなされた結果のものだった。
 保安隊隊長、嵯峨惟基特務大佐はどの軍隊でも敵に回したくない人物の上位に顔を出すやり手として知られていた。さらに遼州星系の最高の権威である遼南王朝の皇帝の肩書きを本人は返上したと言ってはいるが、遼南の議会は全会一致で彼の退位を無効とする決議をしていたので彼は遼南皇帝の位も持ち合わせている。
 この星遼州の外を回る第四惑星胡州では胡州貴族の頂点である四大公。家督を娘の楓に譲ったとは言え未だに数多くのコロニーを領邦として所有する有数の資産家として知られ、遼北、西モスレム、東和、大麗、ゲルパルトと言った遼州同盟の主要国に血縁や外務武官時代に作った独自のパイプを持つ人物として知られた。
 そのような人物であればその動静を抑えておきたい。同盟の成立に不快感を隠さない地球の超大国アメリカの意向を遼州同盟は受け入れる決断を下した。
 立場が強いうちにこそ妥協ができる。それが座右の銘ともいえる嵯峨がアメリカ海軍からの部隊員出向を受け入れる見返りに司法機関実力部隊として活動することで得られるさまざまなデータを引き渡す。第四小隊の結成を遼州同盟の政治機構が認めたのはそんな流れからのことだった。
「でも、あいつ等も色々あるんだろうねえ」 
 ポツリと要がつぶやく。05式での運用データの収集がひと段落着いたと判断した開発元の菱川重工業はその稼動データを元に改修してテストを進めていた。より癖の無いプログラムに仕上げるため、テストパイロットは05式の操縦経験の無い第四小隊が担当することになった。しかし、それは最新のアサルト・モジュール開発国である東和のトップシークレットをアメリカに流すと言うことを意味していた。
 そのような上層部の判断は誠にはどういう結果をもたらすものかは理解できなかった。明らかに技術流出につながるこの政治的取引が何で補填されるか。それはランなどの部長級の人々の関心事ではあっても一隊員の誠には分かるはずも無かった。誠は隣の空いた机を見て苦笑いを浮かべながら再び画面に集中する。
 楓は姉の茜から割り振られたデータの整理の仕事を渡辺、アンに振り分けているようで無駄話をやめてそれぞれの事務仕事をはじめていた。そして沈黙が部屋を支配することになった。ただキーボードを叩く音、画面が切り替わるときの動作音、そして端末の放熱ファンの音だけが響く。
「うわー!っ退屈だー!」 
 そう言って要が立ち上がるとそのまま誠の後ろに回りこみ首に腕を回しこんで極める。意外にも事務仕事の得意な要が手持ち無沙汰なのは分かるが、急にそんなことをされては誠はじたばたと暴れるしかなかった。
「なに!なにすんですか!離して……」 
「つまんねえ!つまんねえよ!」 
 叫ぶ要を背負いながら楓達に目をやるが、明らかに要を押し付けられるのを恐れて視線を合わせようとしてくれない。
「アイシャさん達のところに行けば良いじゃないですか。僕は仕事を……」 
 誠がそう言うと要は気が付いたように誠から手を離す。
「そうか、じゃあちょっと待てよ」 
 そう言うと要は首の根元からコードを取り出して誠の端末に差し込む。
「あっ!報告書消えちゃいましたよ!」 
「ああ、後でアタシがやってやるよ……ちょっと時間が……」 
 何度か要が瞬きする間にすさまじい勢いで画面が転換されていく。
「これで、行けるは……ず!」 
 そんな掛け声をかけた要の前にシャムの顔があった。その目の前には子犬ほどの大きさのどう見ても熊と思われる動物が映っていた。


 突然魔法少女? 16


 モニターに大きく写される小熊。それを見て作業をしていたカウラの表情が苦々しげなものに変わる。
『すみません!本当に僕こんなことに巻き込んでしまって……』 
 少年の声で話す小熊が画面の中であまりにも似合いすぎる小学生姿のシャムに謝っていた。周りは電柱は倒れ、木々は裂け、家は倒壊した惨状。どう見ても常識的な魔法少女の戦いのそれとは桁違いの破壊が行われたことを示している。
「おい、なんでこうなったんだ?」 
 要がたずねてくるのだが、誠もただ首を振るだけだった。それでも言える事はアイシャはかなりの『上級者』、いわゆる『マニア』向けにこの作品を作ろうとしていることだけは分かった。
『気にしないで大丈夫だよ!』 
「少しは気にしろ!」 
 シャムの台詞に突っ込む要。誠が思わず生暖かい目を彼女に向けると要の後ろには仕事をサボって覗きに来た楓と渡辺、アンの姿がそこにあった。
『それより世界の平和がかかっているんでしょ?やるよ!私は』 
「世界の平和の前にこの状況どうにかしろ!」 
 そう言って手近な誠の頭を叩く要。誠は叩かれたところを抑えながら仕方なく画面を見つめる。
『ありがとうございます。ですが、僕の与える力は三人分あるんです。だから……』 
『じゃあ……そうだ!おねえちゃんに頼みに行こう!』 
 そう言って小熊を抱えるとシャムは走り出した。半分町が焦土と化しあちこちにクレーターのある状況を後ろに見ながら彼女は走り続ける。
「おい!この状況は無視か?いいのか?ほっといて!」 
 再び要の右手が誠の頭に振り下ろされようとするが、察した誠はそれをかわす。
 画面の中では走っていくシャムの後姿がある。同時にパトカーのサイレンが響き渡る。その画面を見ながら楓と渡辺が大きく頷いてみせた。誠は一体なんでこの二人が頷くのか首をひねりながら再び画面に目を移した。
 すぐにはかったように場面が切り替わった。そこはやはり誠の実家の一部屋だった。主に剣道の大会で役員の人などを泊めていた客間の一つ。そこにシャムと奇妙な小熊もどきを正座して見つめているのはシャムの姉役の家村小夏だった。
『そうなんだ……大変だったのね、グリン君……』