小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

遼州戦記 保安隊日乗 番外編

INDEX|34ページ/73ページ|

次のページ前のページ
 

 シャムは13年前の遼南内戦での輝かしい功績が目に付き、アイシャは8年前のゲルパルト独立戦争で今の大統領の属した部隊で戦果をあげて受勲して将校に任官していた。そんな経歴を見渡してみても吉田と要の情報はほとんど見つけることができなかった。吉田はネットを住処にしているような情報戦のスペシャリストである。彼の活動が吉田の手で情報操作がされているのもうなづけるので納得ができた。だが、要もそうだろうとあきらめ掛けていたとき、アングラサイトで彼女の情報を拾った。
 それを見つけたのは偶然だった。先輩の島田から聞かされたパスワードでランダムで再生していたアダルトサイトの一件の動画。そこに五、六人の怪しげな男にかこまれている女の姿があった。一人の男が画面を拡大しようと手をカメラに伸ばした瞬間、胸をさらけ出している女に手を伸ばした男が男が悲鳴を上げ、血しぶきが画面を覆った。
 返り血を浴びて画面に映し出される女の顔。それはどう見ても要だった。誰が何のためにその動画をサイトに乗せたのかはわからない。だが、5年前には胡州陸軍の特殊作戦集団の一員として東都にいたと言うことは要の口からも知らされていた。
 当時、胡州陸軍は危機を感じていたとされる。遼南帝国からの薬物や違法採掘資源の密輸ラインが寸断されたことで新たな活路として南方の失敗国家がならぶ大陸ベルルカン。非合法物資ルートをめぐり裏社会や非正規活動の資金を稼ぐためにさまざまなシンジケートと胡州陸軍が抗争劇を繰り広げたことは誠もニュースで散々聞かされたものだった。
 そんな血に彩られた東都湾岸地区のシンジケート達の攻防、俗に言う『東都戦争』に要がかかわるとしたらあの動画のようなことを彼女がしていたとしても不思議ではない。彼女のことは何も知らない。誠はそう言うさびしい気持ちになっていた。
「おい!置いてくぞ」 
 ぼんやりと要の手の動きを目で追っていた誠。残った拳銃弾を保管庫に入れて鍵をかけると声をかけた要が呆れたように立ち上がる。そして誠の目を見ようとせずに、そのまま先に隊舎に向かう要に続いて歩き始める。見ているとどこか消えてしまいそうな細い背中。いつもなら張り飛ばされる恐怖で緊張しながら歩く誠に彼女を支えてあげたいと言うような衝動が目覚めていた。
「西園寺さん」 
 しかし、今目の前にいる要が誠にとっての要のすべてだ。そう思って誠は声をかけた。
「なんだよ、意見でもする気か?」 
 歩みを止めることもなく要は歩き続ける。誠も早足でその後ろに続く。
「要さんは要さんでしょ?」 
 その誠の言葉に要は足を止めた。振り向いた要は何か言いたげに誠をにらみつけてくる。
「なんだ、気になる口調だな。文句でもあるのか?」 
 今度は確実に誠の目を見つめてじりじりと誠に近づいてくる要。そのまま誠の息のかかるところまで近づいた彼女はそのまま豊かな胸の前に腕組みして挑戦的な視線を誠に投げてくる。
「良いじゃないですか、要さんは要さんで」 
「なんだ?ずいぶん達観した物言いじゃねえか。確かにアタシはオメエみてえな日向を歩いてきた兵隊さんとは違うからな」 
「別に僕は……」 
 重苦しい空気が漂う。再び要は視線を落として制服のポケットからタバコとライターを取り出す。
 一瞬だけタレ目の要が誠に向けた視線がいつもの要の不遜なそれに戻っているのを見て誠は安心して微笑んだ。
「ああ、わあったよ!あいつ等とお友達をやればいいんだろ?ハイハイ!」 
 そう言いながらタバコをくわえて肩のラインで切りそろえられた黒い髪を掻き揚げる要。ようやくいつもの調子に戻った彼女に安堵しながら落ちていた石をグラウンドに蹴り上げる要の後姿を見つめていた。


 突然魔法少女? 13


「ったく!アイシャには期待していたのによう……奢りってここのことかよ」 
 数時間前まで深刻な顔をしていた要はそう言いながらもニヤニヤしながら次々とたこ焼きを口に運んだ。そんな彼女の後頭部にお盆の一撃が加えられる。
「うちでなんか文句あるの?今日はアイシャの姉さんからの監視の指示が出てるからおとなしくしているのよ!」 
 お好み焼きとたこ焼きの店『あまさき屋』の一階のテーブル席に座る誠と要とカウラ。要を殴ったこの店の看板娘にしてシャムの舎弟、家村小夏はそう言い残して厨房に消えた。
「まあ、あいつなりに私達に気を使っていると言うことだ。それに私はここのたこ焼きは大好きだがな」 
 カウラはそう言いながら大きな湯のみで緑茶を飲み始める。
 アイシャが言うには撮影はすべて吉田の作った簡易3Dシミュレータを使うと言うことで、その場面やデータの入力の為に吉田とアイシャ、それに運行部の数名が引き抜かれて徹夜で作業をするということだった。当然副長のランが飽きれた顔で部隊長の嵯峨へシミュレータの搬入と施設の使用許可を上申する光景を想像すると誠もデザインとして一枚噛んでいるだけに申し訳ない気持ちで一杯になり自然とビールに手が伸びる。
 そしてアイシャの暴走に不満たらたらの要を取り込むため、アイシャは小夏に連絡を取って『あまさき屋』のたこ焼き定食と大瓶のビール二本で手を打つように仕向けた。いろいろ言いながら、要はさらに自腹でアンコウ肝とレバニラ炒めを頼んだ上に、キープしてあるウォッカをあおりながら誠の隣に座っている。
「しかし今回はセットとかはどうするんだ?去年のようなドキュメンタリーじゃ無いんだろ?」 
 カウラはご飯に豚玉のお好み焼きを乗せた特製その名も『カウラ丼』を口に運ぶ。誠はそんな彼女をいつものように珍しい生き物を見るような視線で見つめていた。同じくどんぶりを口に運ぶカウラに驚いた表情を浮かべる要は思い直したように咳払いをすると説明をはじめた。
「前のあれがドキュメンタリーだったかどうかは別としてだ。まあ説明するとだな。まず場景を立体画像データとして設定するわけだ。たとえば家の台所とかのまあセットみたいなものをコンピュータに認識させるわけ。そしてその中にデータ化された役者を投入する」 
「そこが分からないんだ。どうやってするんだ?」 
 あまり部隊の任務以外に関心を示さないカウラが珍しく要の言葉に聞き入っているのを誠は微笑みながら見つめていた。
「まあ、ここ数年の精神感応系の技術の向上はすごいからな。まあヘッドギアを役者……っつうか素人だからそう呼ぶのも気が引けるけど、アタシ等がつけてコンピュータ内部に入り込んだような状態で中で台詞を読んだり動いたりするわけだ。わかるか?」 
 そこまで言うと要はレバニラ炒めを口に掻き込んでそのままビールで胃に流し込む。特性のカウラ丼を頬張りながらまだ納得できないと言うようにカウラが首をひねっている。
「でもそれじゃあ棒読みとかだとつまらないんじゃないのか?」 
 納得できないと言うようにそう言うとカウラはソースと豚肉、それにお好み焼きを混ぜ合わせたものをどんぶりの中でかき混ぜた。
「それは吉田の技術で解消するつもりだろ?あいつの合成や音声操作とかで棒読みだろうが声が裏声になろうがすべて修正してプロが演じているようにするくらい楽勝だって言ってたぞ」