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遼州戦記 保安隊日乗 番外編

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「俺もまた聞きだけど傭兵だって戦争が無い状態でも飯は食うからな。それにあいつの高性能の義体のメンテにどれだけの金がかかるか……それなりに稼げる仕事じゃないと生きていけないってことだろ?」 
 カウラが誠の首に湿布を貼るのを見終わるとドムは再び机の上の書物に目を向けた。
「もう平気だろ?西園寺を放置しておいたら大変だからとっとと行ってこいよ」 
 ドムの言葉を背中に受けると誠はすばやく置いてあった勤務服の上着とベルトを手にした。
「あのーカウラさん……」
 誠の一言に納得したようにカウラは白い病室のカーテンを閉める。
「アイシャの馬鹿か……」 
「違うベクトルで見に行きたくなくなる作品になるでしょうな」 
 ドムとカウラが外で愚痴をつぶやいている間にジーパンを脱いで勤務服のスラックスに足を通す。急ぐ必要は無いのだがなぜか誠の手は忙しくチャックを引き上げボタンを留めベルトを通した。そして上着をつっかけて、ガンベルトを巻くと誠はそのままカーテンを押し開けてため息をついているカウラとドムの前に現れた。
「お大事に」
 そう言うとドムは机の上の端末の前の椅子に腰掛けて仕事を始めた。誠達はそのまま一礼して医務室を出ると一路実働部隊の詰め所へと向かう。
「すいませんさっきは……」 
 実働部隊の詰め所のドアを開けた誠はそこまで言って口を閉ざした。目の前に立って金色の飾りの付いた杖を振り回しているのは第一小隊二番機パイロット、ナンバルゲニア・シャムラード中尉である。彼女が着ている白とピンクの鮮やかな服をデザインしたのが誠だけに、それが目の前にあるとなると急に気恥ずかしさが襲ってきた。
「おい、神前。アタシはこれでいいのか?」 
 黒っぽいその小さな肩を覆うような上着とスカートの間から肌が見える服を着込んでいる少女に声をかけられてさらに誠は驚く。ランは気恥ずかしそうに視線を落とすとそのまま自分の実働部隊長席に戻っていく。
「作ったんですか?あの人達」 
 誠は運行部の人々の勤勉さにあきれ果てた。そして誠の机に置かれたラーメンを見つめた。
「あ、もう昼なんですね」 
 そう言う誠に白い目を向けるのは彼の正面に座っている要だった。
「もう過ぎてるよ。伸びてるんじゃないのか?」 
 要の言葉に誠はそのままラップをはずしてラーメンを食べ始める。汁を吸いすぎた麺がぐにぐにと口の中でつぶれるのがわかる。
「伸びてますね、おいしくないですよ」 
「それだけじゃないだろうな、あそこ。大分……味が落ちたな」 
 そう言いながらじっと要は誠を見つめている。隣の席のカウラも誠に付いていたために冷えたチャーハンを口に運んでいた。
「おい、神前。なんとかならねーのかよ!」 
「何がです?」 
 麺を啜りながら顔を向ける誠にもともと目つきの悪いランの顔が明らかに敵意を含んで誠をにらみつけている。
「えー!ランちゃんかわいいじゃん!」 
「そうだ!かわいいぞ!」 
 シャムと要がはやし立てる。それを一瞥した後、ランのさらに凄みを増した視線が誠を射抜いた。
「でも、このくらい派手じゃないと……ほら、子供に夢を与えるのが今回の映画の趣旨ですから」 
「まあ、演じている二人はどう見ても自分が子供だからな」 
 要のつぶやきにあわせてランが手にした杖を思い切り要の頭に振り下ろした。先端のどくろのような飾りが要の頭に砕かれる。
「ああ、この杖強度が足りねーな。交換するか」 
「おい!糞餓鬼!何しやがんだ!」 
 真っ赤になって迫る要を落ち着いた視線で見つめるラン。二人がじりじりと間合いを詰めようとしたとき、詰め所のドアが開いた。
「はーい!こんどは完全版の台本できました!」 
 アイシャの軽やかな声が響く。全員が彼女のほうを向いた。
「ちょっと待て、いくらなんでも早すぎるだろ?それにアタシ等の意見もだな……」 
「吉田さんが協力的だったから。やっぱりあの人こういうこと慣れてるわね。今回は誠ちゃんが嫌がったプロットを組み合わせたら結構面白く出来から。それじゃあ配りますよ!」 
 そう言ってサラとパーラが手にした冊子を次々と配っていく。
「題名未定ってなんだよ」 
 受け取った要がつぶやく。
「プロットを組み合わせただけだからしょうがないのよ。なに?それとも要ちゃんが考えてくれるの?」 
 アイシャが目を細めるのを見てあからさまに不機嫌になった要は仕方なく台本を開く。
「役名は……ここか」 
 カウラはすぐに台本を見て安堵したような表情を浮かべる。深刻な顔をしていたのはランだった。彼女はしばらく台本を自分の机の上に置き、首をひねり、そして仕方がないというようにページを開いた。
「ブラッディー・ラン。血まみれみてーな名前だな」 
「いいじゃねえか。……勇名高き中佐殿にはぴったりであります!」 
 いやみを言って敬礼する要をにらみつけるラン。そして誠も台本を開いた。
『マジックプリンス』 
 まず目を疑った。だが、そこには明らかにそう書いてあった。そしてその下に『神前寺誠一』と名前が入る。
「あの、アイシャさん?」 
「なあに?」 
 満面の笑みのアイシャを見つめながら誠は言葉に詰まる。
「僕もあれに変身するんですよねえ?」 
「そうよ!」 
 あっさりと答えるアイシャ。昨日調子に乗ってデザインしたあからさまにヒロインに助けられるかませ犬役。そして自分がその役をやるということを忘れて描いた全身タイツ風スーツの男の役。
「ざまあみろ!調子に乗っていろいろ描くからそう言う目にあうんだよ!」 
 要が誠の肩を叩きながら毒を吐く。その後ろで魔女姿のランが大きくうなづいている。
「じゃあアタシの憧れの人が誠ちゃんなんだね!もしかしてそのままラブラブに……」 
 そんなシャムの無邪気な言葉が響き渡ると三人の女性の顔色が青くなった。そんな空気を完全に無視して誠の腕にぶら下がるシャム。口元を引きつらせながらそれを眺めるアイシャ。
「あ!そうだった!じゃあ台本書き直そうかしら」 
 そう言ってアイシャが要の手から台本を奪おうとする。要は伸ばされたアイシャの手をつかみあげると今度はシャムの襟をつかんで引き寄せた。
「おい、餓鬼は関係ねえんだよ……ってカウラ!」 
 シャムの言葉にいったん青ざめた後に、頬を真っ赤に染めて誠を見つめていたカウラが要に呼びつけられてぼんやりとした表情で要を見つめていた。
「オメエが何でこいつの彼女なんだ?」 
 カウラを指差す要。誠は台本の役の説明に目を落とす。
『南條カウラ、ヒロイン南條シャムの姉。父、南條新三郎の先妻の娘。大学生であり自宅に下宿している苦学生神前寺誠一(神前誠)と付き合っている』 
 自然と誠の目がカウラに行く。カウラもおどおどしながら誠を見つめた。
「アイシャ。さっき自分が神前の彼女の役やるって言ってなかったか?」 
 大声で叫ぶ要に長い紺色の髪の枝毛をいじっているアイシャ。
「そうよ、そのつもりだったけどどこかの素直じゃないサイボーグが反対するし、どうせ強行したら暴れるのは目に見えてるし……」 
「おい、誰が素直じゃないサイボーグだよ!」