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遼州戦記 保安隊日乗 番外編

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「こいつ、おそらく今回も吉田の監修を受けることになると思ってさ。そうなればすべての情報は電子化されているはずだろ?そうなればこっちも……」 
「改竄で対抗するのか?西園寺にしては冴えたやり方だな」 
 カウラはそう言うとキャラクター設定の画像が映し出される画面を覗き込む。
「じゃあ、私はもう少し……」 
 自分の役のヒロインの姉の胸にカーソルを動かすカウラ。
「やっぱり胸が無いのが気になるのか?」 
 生ぬるい視線を要が向けるのを見て耳を真っ赤に染めるカウラ。
「違う!空手の名人と言う設定がとってつけたようだから、とりあえず習っている程度にしようと……人の話を聞け!」 
 ラフなTシャツ姿のカウラの画像の胸を増量する要。
「これくらいで良いか?ちなみにこれでもアタシより小さいわけだが」 
 そう言ってにんまり笑う要。誠はいたたまれない気分になってそのまま逃げ出そうとじりじり後ろに下がった。誠は左右を見回した。とりあえず彼に目を向けるものは誰もいない。誠はゆっくりと扉を開け、そろそろと抜け出そうとする。
「何してるの?誠ちゃん」 
 突然背中から声をかけられた。シャムがぼんやりと誠を見つめている。
「ああ、中尉。僕はちょっと居辛くて……」 
「そうなんだ、でもそこ危ないよ」 
 突然頭に巨大な物体の打撃による衝撃を感じた瞬間、誠の視界は闇に閉ざされた。


 突然魔法少女? 11


 誠が意識を取り戻してまず見上げた天井は白く、ただ何も無く白く輝いて見えた。
「大丈夫か?」 
 覗き込んでいるのは勤務服姿のカウラだった。
「おっお目覚めか、うちのお姫様は」 
 医務官ドムの低い声が響く。誠は首に違和感を感じながら起き上がる。いつも要やカウラに運ばれてくる自分がどう思われているかを考えて苦笑いを浮かべる誠。
「首やっぱり痛むか?なんなら湿布くらいは出すぞ」 
 そう言うドムの表情は諦めにも近い顔をしていた。
「僕は……」 
 誠は飛んできた茶色い巨大な塊に押しつぶされて意識を失ったことを思い出した。
「まあグレゴリウス13世も悪気があった訳じゃないんだろうがな。それにしてもお前、本当にくだらない怪我とか多いな。たるんでるんじゃないのか?」 
 愚痴をこぼすドム。最近わかったことは予算の都合で専任の看護師がつかないことが彼の苛立ちの原因となっていること。事実カルテの管理や各種データの提出に彼の労力がかなり割かれていた。その膨大な作業量に誠でも同情したくなるほどだった。
「湿布は……ここか」 
 カウラは薬品庫を慣れた手つきで開ける。
「それにしても大騒ぎだな、まあいつものことか」 
 そう言うとドムは席に戻って書物を開いた。
「そう言えばドム大尉はお子さんもいるんですよね」 
 ワイシャツのボタンをはずしながらの誠の言葉に振り返るドム。
「まあな、どうだ?今回のは子供向けだろ?」 
 家族の話を振られて珍しくドムがうれしそうに振り向く。
「まあ子供向けというより大きなお友達向けだな」 
 カウラはそう言いながら首をさらけ出す誠のどこに湿布を張るかを決めようとしていた。
「だろうけど、去年の悪夢に比べたらな……」 
 そう言うドムの顔には泣き笑いのような表情が浮かんだ。それを見て誠は意を決してたずねることにした。
「そんなに去年のはひどかったんですか?」 
 ドムの顔が引きつる。乾いた笑いの後、そのまま目をそらして机の上の書物に向き合うドム。カウラも冷ややかな笑いを浮かべながら口ごもった後、ようやく話し始めた。
「確かに去年の作品はひどかった。我々の任務を映像化したわけだが……」 
「まあつまらなくはなるでしょうね。訓練とかはまだ見てられますけど、東和警察の助っ人とか……もしかして駐車禁止車両の取締りの下請けの仕事とかも撮ったんですか?」 
 誠がそこまで言ったところでドムがカウラを見つめた。カウラはしばらくためらった後、表情を押し殺した顔で誠に言った。
「確かにそれもあるが、内容の半分以上をキムの仕事だけに絞り込んだんだ」 
 キム・ジュンヒ少尉。保安隊技術部小火器管理の責任者であり、隊の二番狙撃手である。誠はしばらくそれが何を意味するかわからずにいた。
「それがどうして……」 
 そう言う誠を見てカウラとドムは顔を見合わせた。
「キムは小火器管理の責任者だろ?そしてうちの部隊の銃器の多くが隊長の家から持ってきた骨董品を使ってるわけだ」 
 そう言ってカウラは腰の拳銃を取り出す。SIGーP226。二十世紀末にドイツで開発された拳銃ということは嵯峨から聞かされていた。誠はベッドの横に置かれた勤務服とその隣に下げられた自分のベルトを見てみる。そこにあるのはP06パラベラムピストル。こちらにいたっては二十世紀初頭の銃である。
 そしてこの二つの銃の弾は同じ9mmパラベラムと言う規格のはずだが、キムには絶対にカウラの銃の弾は使うなと誠は言われていた。キムに言わせると誤作動の原因になるという話だった。
「銃は動作部品の集合体だ。ちょっとしたバランスで誤作動を起こすからな。弾薬も使用する銃にあわせて調整したものが必要なんだ。特にお前のP06はかなり神経質な銃だ。市販品の弾を使おうものならかなりの確立で薬莢が割れたり引っかかったりする誤作動を起こすだろうな」 
 カウラはそう言うと誠のP06を手に取りマガジンを抜く。手にした弾薬を誠の前に見せ付けた。
「傷がありますね」 
 誠の目の前の弾丸の薬莢には引っかいたような跡が見えた。
「ああ、これは一回使用した薬莢を回収して雷管を付け直して再生したものだ。P06を市販の同じ規格の弾薬で発射したらどうなるかはキムに聞いてくれ」 
 そう言ってカウラは再びマガジンに弾薬を押し込もうとするが、その強すぎるマガジンのスプリングでどうしようもなくなった。カウラはいったん手にした弾丸を誠に渡して力を込めて弾丸を押し、ようやく隙間を作って装弾する。
「もしかしてその弾と炸薬を薬莢に取り付ける作業を……」 
「延々一時間。薬莢に雷管を取り付け、火薬を計って中に敷き詰め、弾丸を押し込んで固定する。それだけの作業を映し続けたんだ」 
 ドムが苦々しげにつぶやいた。確かにそのような映画は見たくは無かった。しかも一応保安隊の仕事のひとつであることには違いないだけに誠も頭を掻きながら愛想笑いを浮かべるしかなかった。
「で、今度はどれになったんだ?ファンタジーとか、うちの子供が好きでね」 
「魔法少女ですよ」 
 誠の言葉にドムは表情を失う。
「アイシャの奴か?」 
 次第にいつもの不機嫌な調子に戻るドム。カウラは黙ってマガジンをはずした誠のP06を点検している。
「はあ、シャムさんがヒロインでライバルがランさんだとか」 
 誠の言葉に腕を組みしばらく考えるドム。
「吉田に期待だな。あいつ傭兵時代にはフリーの映像作家も兼業でやってたとか言う話も聞くしな」 
 投げやりなドムの言葉に誠は意表を突かれた。
「映像作家ですか?あの人が?」