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遼州戦記 保安隊日乗 番外編

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 誠の言葉に失望したように大きなため息をつく要。
「ああ、わかってるよ。わかっちゃいるんだが……この有様をどう思うよ」 
 そう言って要は手分けして布にしるしをつけたり、ダンボールを切ったりしている運用艦『高雄』ブリッジクルー達に目を向けた。要を監視するようにちらちらと目を向けながら小声でささやきあったり笑ったりしている様もまるで女子高生のような感じでさすがの誠も思わず引いていた。
「ああ、一応現物を作っておいたほうが面白いとかアイシャが言ったから……はまっちゃって。それに今年の冬のコミケとかには使えるんじゃないの?」
 にこやかに笑いながらのリアナの言葉。大きくため息をつく誠とカウラ。だが黙っていないのは要だった。 
「おい!じゃあまたアタシが売り子で借り出されるのか?しかもこの格好で!」 
 要がモニターを指差して叫ぶ。そうして指差された絵を見てカウラはつぼに入ったと言うように腹を抱えて笑い始めた。
「でも僕もやるんじゃ……ほら、これ僕ですよ」 
 端末を操作すると今度は誠の変身した姿が映し出される。だが、フォローのつもりだったが、誠の姿は要の化け物のような要の姿に比べたら動きやすそうなタイツにマント。とりあえず常識の範疇で変装くらいのものと呼べるものだった。これは地雷を踏んだ。そう思いながら恐る恐る要を見上げる誠。
「おい、フォローにならねえじゃねえか!これぜんぜん普通だろ?あたしはこの格好なら豊川工場一周マラソンやってもいいが、あたしのあの格好は絶対誰にも見られたくないぞ」 
「それは困るわね!」 
 誠の襟に手を伸ばそうとした要だが、その言葉に戸口に視線を走らせる。
 それまで静かにしていたアイシャが満面の笑みをたたえながら歩いてくる。何も言わず、そのまま要と誠が覗き込んでいるモニターを一瞥した後、そのままキーボードを叩き始めた。そしてそこに映し出されたのは典型的な女性の姿の怪物だった。ひどく哀愁を漂わせる怪人の姿を要がまじまじと見つめる。
「おい、アイシャ。それ誰がやるんだ?絶対断られるぞ」 
 要は諭すようにアイシャに語りかける。
「ああ、これはもう本人のOKとってあるのよ!これに比べたらずっとましでしょ!」
 何を根拠にしているのかよくわからない自身に支えられてアイシャが笑う。誠は冷や汗をかきながらもう一度アイシャの指差す画面を覗き込んだ。 
「これって配役は確かあまさき屋の女将さんですか?」 
 誠は恐る恐るそう言ってみた。その言葉に要ももう一度モニターをじっくりと見始めた。両手からは鞭のような蔓を生やし、緑色の甲冑のようなものを体に巻いて、さらに頭の上に薔薇の花のようなものを生やしている。
「おい、冗談だろ?小夏のかあちゃんがこれを受けたって……本人がOKしても小夏が断るだろ」 
 要はそう言うと再びこの怪人薔薇女と言った姿のコスチュームの画像をしげしげと眺めていた。
「そんなこと無いわよ。小夏ちゃんには快諾してもらっているわ、本人の出演も含めて」 
 そのアイシャの言葉が要には衝撃だった。一瞬たじろいた後、再びじっと画面を見つめる。そして今度は襟元からジャックコードを取り出して、端末のデータ出力端子に差し込む。あまりサイボーグらしい行動が嫌いなはずの要が脳に直接リンクしてまでデータ収集を行う姿に誠もさすがに呆れざるを得なかった。
「本当に疑り深いわねえ。まったく……!」 
 両手を手を広げていたアイシャの襟首を思い切り要が引っ張り、脇に抱えて締め上げる。
「なんだ?北里アイシャ?シャムの学校の先生で……カウラと誠をとりあっているだ?結局一番普通でおいしい役は自分でやろうってのか?他人にはごてごてした被り物被らせて……」 
「ちょっと!待ってよ要!そんな……」 
 誠もカウラも要がそのままぎりぎりとアイシャの首を締め上げるのを黙ってみている。
「アイシャさん、調子乗りすぎですよ」 
「自業自得だな」 
「なんでよ誠ちゃん!カウラちゃん!うっぐっ!わかった!」 
 そう言うとアイシャは要の腕を大きく叩いた。それを見て要がアイシャから手を離す。そのまま咳き込むアイシャを見下ろしながら指を鳴らす要。
「どうわかったのか聞かせてくれよ」 
 要はそう言うと青くなり始めた顔のアイシャを開放した。誠とカウラは画面の中に映るめがねをかけた教師らしい姿のアイシャを覗き込んだ。
「でも……そんなに長い尺で作るわけじゃないんなら別にいらないんじゃないですか?このキャラ」 
「そうだな、別に学園モノじゃないんだから、必要ないだろ」 
 誠とカウラはそう言ってアイシャを見つめる。アイシャも二人の言うことが図星なだけに何も言えずにうつむいた。
「よう、端役一号君。めげるなよ」 
 がっかりしたと言う表情のアイシャ。その姿を見て悦に入った表情でその肩を叩く要。
「なんだ……もしかして……気に入っているのか?さっきの痛い格好」 
 今度はカウラが要をうれしそうな目で見つめる。
「別にそんなんじゃねえよ!それより楓は……あいつは出るんだろ?オメエの配役だと」 
「あ、お姉さま!僕ならここにいますよ!」 
 部屋の隅、そこでは運行部の隊員と一緒に型紙を作っている楓と渡辺の姿があった。
「なじんでるな」 
 あまりにもこの場の雰囲気になじんでいる楓と渡辺の姿に要はため息をついた。同性キラーの楓は配属一週間で運行部の全員の胸を揉むと言う暴挙を敢行した。男性隊員ならば明華やマリアと言った恐ろしい上官に制裁を加えられるところだが、同性そしてその行為があまりに自然だったのでいつの間にか運行部に楓と渡辺が常駐するのが自然のように思われるようにまでなっていた。
「お前等、本当に楽しそうだな」 
 呆れながら楓達を見つめる要。誠とカウラは顔を見合わせて大きなため息をついた。運行部の女性隊員達が楓の一挙手一投足に集中している様を見ると二人とも何も言い出せなくなる。
「アイシャいる?」 
 ドアを押し開けたのは小柄なナンバルゲニア・シャムラード中尉。いつものように満面の笑みの彼女の後ろにはシャムの飼い熊、グレゴリウス13世の巨体が見えた。
「なに?ちょっと忙しいんだけど、こいつのせいで」 
「こいつのせい?全部自分で撒いた種だろ?」 
 怒りに震える要を指差しながらアイシャが立ち上がる。
「俊平が用事だって」 
 吉田俊平少佐が画像処理を担当するだろうと言うことは誠もわかっていた。演習の模擬画像の処理などを見て『この人はなんでうちにいるんだろう?』と思わせるほどの見事な再現画像を見せられて何度もまことはそう思った。
「ああ、じゃあ仕方ないわね。要ちゃん!あとでお話しましょうね」 
 ニヤニヤと笑いながら出て行くアイシャ。だが要はそのまま彼女を見送ると端末にかじりつく。
「そうか、吉田を使えばいいんだな」 
 そう言うと要はすぐに首筋のジャックにコードを差し込んで端末に繋げた。彼女の目の前ですさまじい勢いで画面が切り替わり始め、それにあわせてにやけた要の顔が緩んでいく。
「何をする気だ?」 
 カウラの言葉にようやく要は自分が抜けた表情をしていたことに気づいて口元から流れたよだれをぬぐった。