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遼州戦記 保安隊日乗 番外編

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 カウラの役は魔法少女姉妹のシャムの姉で誠の恋人の役だった。誠の設定ではアイシャがこの役をやると言うことでデザインした原画を描いたのだが、隊に来て車を降りたときに要がアイシャの首を絞めていたことから見て無理やり要がその役からアイシャを外させたのだろうと言うことは予想がついた。
 そして要。彼女は敵機械帝国の尖兵の魔女と言う設定だった。しかも彼女はなぜか失敗を責められて破棄されたところを誠一に助けられるという無茶な展開。その唐突さに要は若干戸惑っていた。しかも初登場の時の衣装のデザインはかなりごてごてした服を着込むことになるので要は明らかに嫌がっているのは今も画面を見て苦笑いを浮かべているのですぐにわかる。
「そうだ普通が一番だぞ、ベルガー。アタシは……なんだこの役」 
 ランがそう言うのも無理は無かった。彼女自身、誠の原画を見てライバルの魔法少女の役になることは覚悟していたようだった。しかし自分のどう見ても『少女』と言うより『幼女』にしか見えない体型を気にしているランにとっては、その心の傷にからしを塗りこむような配役は不愉快以外の何モノでもないのだろう。魔法の国以前に機械帝国に侵略されて属国にされた国のお姫様。誠としては興味深いがランにとっては自分が姫様らしくないのを承知しているのでむずがゆい表情で時折要や誠、そして吉田と密談を続けているアイシャを眺めている。
「じゃあ、よろしく頼むわね」
 その時ようやく話にけりがついたと言うように渋々首のジャックにコードを挿して作業を始めようとする吉田の肩を叩いて立ち去ろうとする。
「まあ……いいや。アタシはちょっと運行の連中に焼きいれてくるわ……アイシャ!オメーも来い」 
 そう言って部屋を出ようとする要のまとう殺気に、誠とカウラはただならぬものを感じて立ち上がり手を伸ばす。アイシャはにこやかな笑みでにらみつけてくる要の前で黙って立ち尽くしていた。
「穏やかにやれよ。あくまで穏便にだ」 
「分かってるよ……ってなんで神前までいるんだ?」 
「一応、デザインしたのは僕ですし」 
 そんな誠の言葉を聞いてヘッドロックをかける要。
「おう、じゃあ責任取るためについて来い。痛い格好だったらアタシは降りるからな」 
 そう言ってずるずると誠を引きずる要。
「西園寺!殺すんじゃねーぞ!」 
 気の抜けた調子でランが彼らを送り出す。そして三人が部屋を出て行くのを見てランは大きなため息をついた。
「ったく、なんでこんなことになったんだ?」 
「去年のあれだろ」 
 愚痴る要をカウラが諭す。だが要は振り返ると不思議なものを見るような目でカウラを見つめた。
「去年のあれってなんですか?」 
 誠をじっと見つめた後、要の表情がすぐに落胆の色に変わる。そのまま視線を床に落として要は急ぎ足で廊下を歩いていく。仕方が無いと言うようにカウラは話し始めた。
「去年も実は映画を作ったんだ。保安隊の活動、まあ災害救助や輸送任務とかの記録を編集して作ったまじめなものだったわけだが……」 
「なんだかつまらなそうですね」 
 誠のその一言にカウラは大きくうなづいた。
「そうなんだ。とてもつまらなかったんだ」 
 そう言い切るカウラ。だが、誠は納得できずに首をひねった。
「でもそういうものって普通はつまらないものじゃないんですか?」 
 誠の無垢な視線に大きくため息をついたカウラ。彼女は一度誠から視線を落として廊下の床を見つめる。急ぎ足の要は突き当たりの更衣室のところを曲がって正門に続く階段へと向かおうとしていた。
「それが、尋常ではなく徹底的につまらなかったんだ」 
 力強く言い切るカウラに誠は一瞬その意味がわからないと言うようにカウラの目を見つめた。
「そんなつまらないって言っても……」 
「まあ神前の言いたいこともわかる。だが、吉田少佐が隊長の指示で『二度と見たくなくなるほどつまらなくしろ』ってことで、百本近くのつまらないことで伝説になった映画を研究し尽くして徹底的につまらない映画にしようとして作ったものだからな」 
 誠はそう言われると逆に好奇心を刺激された。だが、そんな誠を哀れむような瞳でカウラが見つめる。
「なんでも吉田少佐の言葉では『金星人地球を征服す』や『死霊の盆踊り』よりつまらないらしいって話だが、私はあまり映画には詳しくないからな。どちらも名前も知らないし」 
 頭をかきながら歩くカウラ。誠も実写映画には関心は無いほうなのでどちらの映画も見たことも聞いたことも無かった。
「で、どうなったんですか?」 
 その言葉にカウラが立ち止まる。
「私にその結果を言えと言うのか?」 
 今にも泣き出しそうな顔をするカウラ。アイシャはただ二人の前を得意げに歩く。カウラもできれば忘れたいと言うようにそのままアイシャに従って正面玄関に続く階段を下りていく。
「あ、アイシャ。帰ってきたんだ」 
 両手に発泡スチロールの塊を抱えているエダ。それを見ると要は駆け足で運行部の詰め所の扉の中に飛び込んでいく。カウラと誠は何がおきたのかと不思議そうに運行部の女性隊員達の立ち働く様を眺めていた。エダが両手に抱え込んだ発泡スチロールの入った箱を持ち上げてドアの前に運んでいく。
「ベルガー大尉。ちょっとドア開けてください」 
 大きな白い塊を抱えて身動き取れないエダを助けるべく、誠は小走りに彼女の前の扉を開く。
「なんだよ!まじか?」 
 運行部の執務室の中から要の大声が響いてきた。誠とカウラは目を見合わせると、立ち往生しているエダをおいて部屋の中に入った。
 誠は目を疑った。
 運行部のオフィスの中はほとんど高校時代の文化祭や大学時代の学園祭を髣髴とさせるような雰囲気だった。女性隊員ばかりの部屋の中では運び込まれた布や発砲スチロールの固まり、そしてダンボール箱が所狭しと並べられている。
 誠はなんとなくこの状況の原因がわかった。
 運行部部長の鈴木リアナ中佐を筆頭に管制主任パーラ・ラビロフ中尉、通信主任サラ・ラビロフ少尉、が仮想用のように見える材料を手に作業を続けていた。
「シュールだな」 
 思わずカウラがつぶやく。彼女達は戦闘用の知識を植え付けられて作られた人造人間である。学生時代などは経験せずに脳に直接知識を刷り込まれたため学校などに通ったことの無い彼女達。何かに取り付かれたように笑顔で作業を続ける彼女達の暴走を止めるものなど誰もいなかった。
 そんなハイテンションな運行部の一角、端末のモニターを凝視している要の姿があった。
「おい!神前!ちょっと面貸せ!」 
 そう言って乱暴な調子で手招きする要。仕方なく誠は彼女の覗いているモニターを見つめた。
 その中にはいかにも特撮の悪の女幹部と言うメイクをした要の姿が立体で表示されている。
「ああ、吉田さんが作ったんですね。実によくできて……」 
「おお、よくできててよかったな。原案考えたのテメエだろ?でもこれ……なんとかならなかったのか?」 
 背中でそう言う要の情けない表情を見てカウラが笑っている声が聞こえる。誠は画面から目を離すと要のタレ目を見ながら頭を掻いた。
「でもこれってアイシャさんの指示で描いただけで……」