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遼州戦記 保安隊日乗 番外編

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 すぐに誠は気がついた。今日は第一小隊と第四小隊が待機任務。第三小隊が準待機で第二小隊は非番だった。運行部副長のアイシャと第一小隊の吉田とシャム。この組み合わせで映画の筋を決めるとなれば、当然非番明けの誠達第二小隊にとても飲めないような内容の台本が回ってくるのは確実だった。
「吉田さんとアイシャさん……最悪の組み合わせですね」 
 誠のその言葉に顔色を変えたのは要だった。手にしたトレーを近くのテーブルに置くとそのまま食堂を出て行く。
「それでお前はどうするんだ?」 
 他人事のようにニヤつく島田の顔を見ながら苦笑するしかない誠。考えてみれば昨日デザインした時点でかなりおかしな配役になることは間違いないと誠は思っていた。
 魔法少女モノと言うことだったが、なぜか特撮モノのようなデザインの衣装を着ているキャラが多かったり、本当にこの人が出てきていいのかと思うようなキャラも数名思い出せた。首をひねりながら要のトレーが置かれたテーブルの向かいに座った誠だが、そこに勤務服のワイシャツを着る途中で要に捕まったアイシャが耳を引っ張られながら食堂に連れられてくるのが目に入った。
「なによ!みんな見てるじゃないの!それに痛いし!」 
「んなことどうでもいいんだ!それより……」 
「良くないわよ!」 
 要の手を叩いて耳を離させるとそのまま廊下に消えていくアイシャ。食堂の中の男性隊員はただなにが起きたかわからないと言うように口をあけたまま舌打ちする要を見つめている。
「西園寺さん、それはちょっと……」 
 誠は立ち上がって要が相変わらずアイシャの耳を引っ張って立っている入り口に向かう。どうにかしろと言うような視線を島田が誠に投げてくるのが誠もどうすることもできずにそのまま要を見つめていた。
「なんだ?あ?神前はあいつの……あのアホに台本を公衆の面前で読み上げても平気だとでも言うのかよ。しかも子供が見れるようなものには絶対ならねえんじゃねえか?」 
 そう言いながらそのまま何も言えずに立ち尽くしている誠と島田の目を見てアイシャの耳から手を離すと誠が置いた自分の朝食のトレーの前にどっかりと腰をかけた。そしてそのまま何も言わずに猛スピードで朝食を食べ始める。
「まあ、アイシャさんも多少は常識がありますから」 
 入り口でつかまれていた右耳を抑えて苦痛に顔をしかめているアイシャ。誠はとりあえずしゃべる元気もないというようなアイシャに代わって取り付く島があるかどうかわからない要に口ぞえをしてみる。
「オメエ等の『多少の常識』ってなんだ?登場人物はすべて18歳以上とか言うことか?」 
 明らかに苛立ちながら少しは骨もある鯖の味噌煮を骨ごとバリバリ噛み砕く要。
「まあ、うちは実際最年少のアンが18歳だから本当にそうなんですけどね」 
 そう言った島田に要が汚物を見るような視線を浴びせる。
「あ、すいません」 
 島田もその迫力に押されて黙ってパーラの差し出した朝食の乗ったトレーを受け取り誠の隣に座る。
「じゃあアイシャさんについて行けばいいですね。どうせ暇だし」 
 思わず誠はそう言っていた。要の顔が急に明るくなる。
「そうだな、神前。付き合えよ!それとカウラも連れて行けばなんとかなるだろ」 
 簡単な解決策に気づいた要は瞬時に機嫌を直して白米に取り掛かる。誠はようやく騒動の根が絶たれたと晴れやかに食堂を見回した。
 その時不意に隊員達の顔が怪訝そうなものになる。誠はその視線の先の食堂の入り口に目を向けた。
「おはようございます!お姉さま!」 
 楓の声で思わず要が味噌汁を噴出した。入り口にはサングラスにフライトジャケット、ビンテージモノのジーンズを着込んだ楓と、同じような格好の渡辺が立っていた。
「お姉さま!大丈夫ですか?僕、お姉さまに会いたくって……」 
 そう言って要に駆け寄るとポケットから出したハンカチで噴出した味噌汁で濡れた要のシャツを拭く楓。彼女はテーブルの上を拭こうとふきんを持ってきた誠に明らかに敵意に満ちた視線を送ってくる。
「なんで、テメエがいるんだ?教えてくれ、なんでだ?」 
「それはお姉さまと一緒にお出かけしたいと……」 
 そう言って頬を染める楓。食堂の隊員達すべての生暖かい視線に要は次第に視線を落していった。
「ああ、今日はだな……ちょっと隊に用事があって……」 
 不安そうな誠を見ながらつぶやく要。そのうろたえた調子に笑みを浮かべた楓が輝くような笑顔を浮かべて要に歩み寄ってくる。
「もしかして訓練とかなさるんですか?僕も入れてください!」 
「いや、そう言うわけじゃねえし……」 
 楓に迫られる要が助けを求めるように誠を見つめる。その気配を察して楓が睨みつけるような視線を誠に向ける。誠はただ冷や汗が額を伝うのを感じながら箸を握り締めた。
「嵯峨少佐、ちょっと僕達はアイシャさんの手伝いがあって……」 
 すぐに感じるあからさまな敵意。誠はひやひやしながら要のそばに立って誠をにらみつけてくる楓を見上げていた。
「ああ、神前曹長。クラウゼ少佐の手伝いですか……それじゃあ僕達も手伝います!」 
 あっさりと答えてさらに要の手をしっかりと握り締める楓。要は誠がまったく頼りにならなかったことに呆然としながらじりじりと顔を近づけてくる楓に耐えていた。
「おい!そんなくっつくな!息がかかるだろ」 
「僕は感じていたいんです!お姉さまの吐息や鼓動や……」 
 百合的展開に食堂の男性隊員の視線が泳ぎながらちらちらと要と楓を見ているのがわかる。それを見ながら誠は自分に刺さる視線の痛さに頭を掻く。
「要、貴様の負けだ」 
 いつの間にか要と楓のそばに立っていたカウラの一言に楓の顔が笑みに占められる。島田が冗談で言い出したことから誠が会長にされていた保安隊ポニーテール萌え協議会が押す二大ポニーテールのカウラと楓。そんな二人がそろって自分に視線を向けるのを感じて誠の鼓動が高まった。
 エメラルドグリーンの髪を質素な緑色のバンドで巻いたカウラのポニーテール。戦国時代の姫武将と言った感じに白い布で後ろ髪をまとめ、両のこめかみから垂れる髪を白い髪留めでまとめた和風の楓のポニーテール。ギャルゲーではポニーテールのヒロインを最初に攻略することに決めている誠にとっては天国ともいえる状況だが、周りの視線がその喜びを完全に打ち消す効果を発揮していた。
「なに?手伝いに来てくれるの?」 
 それまでずっと要に引っ張られた痛みで右耳を抑えてうずくまっていたアイシャまでもじっと見つめあう要と楓を眺めている。
「ああ、アタシは心が広いからな。神前も結構やる気みたいだし」 
「え?僕が」 
 要の言葉に唖然とする神前だが、目の前の女性陣の視線が恐ろしくて誠はただ頷くしか出来なかった。
「じゃあ、朝食ね。それとカウラちゃんの車は四人しか乗れないから……」 
「私の車がありますから」 
 黙って状況を見守っていた渡辺の言葉にアイシャが満足げに頷く。