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遼州戦記 保安隊日乗 番外編

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 カウラの言葉に誠は言葉を失った。この寮には50人以上の男性隊員が暮らしている。そこに裸の美女が現れたら……しかし、考えてみればこの寮に軍用義体のサイボーグである要をどうこうできる度胸のある隊員はいるわけも無いわけで、できる限り彼女を避けて動いている諸先輩の苦労に誠は心の中で謝罪した。
「それよりなんで……って僕がなぜ全裸か……はいつものことだからいいんですけど、なんでお三方が僕の部屋に……」 
「そんなことは重要なことじゃないの!ついに我々は勝ったのよ!」 
 高らかに携帯端末を掲げるアイシャ。カウラと誠は何のことかわからず呆然と目の前で今にも踊りだしそうな様子のアイシャを眺めていた。
「勝ったって……何がです?」 
 誠の間抜けな質問に呆れるアイシャ。カウラもようやくジーンズと現在放映中の深夜枠の魔法少女のTシャツを着た誠の肩に手を乗せた。
「こいつのわがままが通ったってことだ」 
「わがままなんて言わないの!これは夢よ!ドリームよ!」 
 そう言って大きく天に両手を広げ自分の紺色の携帯端末をかざしてみせるアイシャ。まだ誠は訳がわからず二枚目のシャツのボタンをはめるながら得意満面のアイシャを眺めていた。
「夢って……?」 
「私達は昨日なんで大騒ぎしたんだ?」 
 カウラに言われて誠は思い出した。アイシャのオリジナル魔法少女映画化計画に巻き込まれてキャラクターの絵を描きなぐった昨日を。そして合体ロボ推進派のシャムと吉田の連合と支持層を求めてあちらこちらのサーバーに進入を繰り返した島田達の戦いを。
「アレって本当だった……でも吉田さんがそう簡単には引かないと思うんですけど」 
「お前はまだまだだな。あの人は極端に飽きっぽいんだ。それにシャムに神前の描いた絵を見せたらはじめは色々文句を垂れていたみたいだが……」 
 そう言いながらカウラはアイシャの端末を奪い取って誠に見えるようにして画面を開く。そこには吉田の『飽きたからよろしく!』という言葉が踊っていた。
「本当に飽きっぽいんですね。でもなんで僕は要さんに蹴られたんですか?」 
 そう言ったとたんアイシャの目が輝く。同時にカウラの顔に影がさす。
「さっき要ちゃんが言ってたじゃないの。寝ぼけて誠ちゃんが要の胸を……」 
「そんなことよりだ!貴様が今日の朝食当番だったろ!さっさと行け!」 
 カウラが顔を真っ赤にして突然そう言うとそのまま誠は部屋を追い出された。
「なんで……ここ僕の部屋なんですよ……」 
 そう言いながら未練タラタラで自分の部屋の扉から目を放すとそこには島田がいた。日差しの当たらない寮の廊下は暗く誠からは島田の表情がよく見えなかった。
「おはようございます?」 
 恐る恐る切り出す誠。誠達の東塔ではなく西塔の住人島田が目の前にいるのには訳があるに違いないと誠は思った。島田はこの寮の寮長である。お調子者だが締めるところは締めてかかる島田がこの状況をどう考えるか、誠はそれを考えると頭の中が真っ白になった。
「大変だな。お前も……」 
 島田の顔は同情に染まっていた。そのまま大きくため息をついてくるりと方向を変え、そのまま廊下を階段へと向かう。誠はとりあえず怒鳴られることも無かったということで彼の後ろについて行った。
「ああ、アイシャさんが勝ったそうですよ、今度の自主制作映画」 
 そう言った誠にまったく無関心というように島田が階段を下りていく。
「そうなんだ……どうせ吉田さんが飽きたんだろ?執念深さじゃクラウゼ少佐に軍配が上がるのは見えてたからな」 
 降りていく島田。そこに香ばしい匂いが漂ってくるのに誠は気づいた。
「あの、朝食の準備。僕が当番でしたよね?」 
 誠の言葉に頭を掻く島田。
「おはよう!神前君!」 
 廊下をエプロン姿で駆け出してきたのはサラだった。思わず得意げな島田を見てニヤリと笑う誠。
「島田先輩、隅には置けないですね!」 
 島田は誠に冷やかされて咳払いをしながら一階の食堂へと向かう。誠も日ごろさんざんからかわれている島田に逆襲しようと彼に抱きついているサラを見ながらその後に続いた。
「班長!お先いただいてます!」 
「班長!サラさんの目玉焼き最高です!」 
「班長!味噌汁の出汁が効いてて……、この味は神前の馬鹿には真似できないっす!」 
 入り口にたどり着いた島田に整備班員達が生暖かい視線と冷やかす言葉を繰り出してくる。彼は入り口の隣、シャムがとってきたと言う山鳥の剥製の隣に置かれていた竹刀を握り締めるとそのまま部下達の頭を叩いて回る。叩かれても整備班員はニヤニヤした顔で島田を見あげるばかり。他の部署の隊員も食事を続ける振りをしながら顔を真っ赤にして竹刀を振り回す島田を面白そうに眺めていた。
「島田先輩大変ですねえ」 
 とりあえず整備班の隊員を全員竹刀で叩いた後の島田の肩に手を伸ばした誠だが、振り向いた島田の殺気だった目に思わずのけぞった。
「正人……迷惑だった?」 
 瞳に涙を浮かべていれば完璧だろうという姿でエプロンを手に持って島田を見上げるサラ。
「そ……んなこと無い……よ?」 
 そこまで言いかけた島田だが、思わず噴出した整備班員に手に取ったアルミの灰皿を投げつける。
「なんだよ、サラ。来てたのか?飯にするぞ、神前」 
 秋も深いというのに黒のタンクトップにジーンズと言う姿の要が頭を掻きながら現れる。彼女を見つけるとサラはすばやく要の手をとって潤んだ目で見つめた。
 はじめは何が起きたのかわからない要だが、しくしくと泣きながらちらちらと島田を見つめるサラに少しばかり戸惑ったように島田に目をやった。
「おい、島田。なんかしたのか?」 
 一度は威厳を持ち直したかに見えた島田だが、そんな言葉と共に要のタレ目に見つめられてはすべては無駄だったと言うように手にしていた竹刀を入り口の元の位置に置いた。整備班員は小声で囁きあいながら上官である島田の萎れた様を生暖かい目で見つめている。
「まああの明華の姐御とタコ明石が婚約する世の中だ。別にテメエ等がくっつこうがアタシには関係無いしな。サラ、泣くなよ。あとで島田は締めとくから。まずは飯だ。出来ればこいつの分も」 
 そう言うと誠の手を引いて食堂のカウンターに向かう要。厨房にはサラとセットとでも言うように同じ運用艦『高雄』のブリッジクルーの火器管制主任のパーラと操舵士のエダが当然のように味噌汁と鯖の味噌煮を盛り付けていた。
「そう言えば、今日は第二小隊は非番でしたっけ?どうするんですかねえ」 
 今度は逆に要の足元をすくおうと島田が要に話を向ける。
「ああ、そうだな。今日はどうするか……なあ、神前」 
 エダから鯖の味噌煮を受け取ってトレーに乗せた要が誠を振り返る。誠は要の胸の揺れから彼女がブラジャーをしていないことに気づいて頬を赤らめた。
「僕は……一昨日冬コミの原稿も上げましたから予定は……」 
「神前。いいのか?アイシャさんは今日出勤だぞ」 
 島田は誠を見つめている。その同情がこもった瞳に誠は少し戸惑った。
「そうですね。それが……!」