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遼州戦記 保安隊日乗 番外編

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「良いんですよ!こいつはおもちゃだから、アタシ等の!」 
 そう言い切って要はそばに置かれていた唐辛子の赤に染まったピザを切り分け始める。
「マジで勘弁してくださいよ……」 
 要とアイシャに注がれたビールで顔が赤くなるのを感じながらそう言った誠の視界の中で、ビールの瓶を持ったまま躊躇しているエメラルドグリーンの瞳が揺れた。二人の目が合う。カウラは少し上目遣いに誠を見つめる。そしてそのままおどおどと瓶を引き戻そうとした。
「カウラさん。飲みますよ!僕は!」 
 そう言って誠はカウラに空のコップを差し出した。誠が困ったような瞳のカウラを拒めるわけが無かった。ポニーテールの髪を揺らして笑顔で誠のコップにビールを注ぐカウラ。その後ろのアンは喜び勇んでビールの瓶を持ち上げるが、その顔面に要の蹴りが入りそのまま壁際に叩きつけられる。
「西園寺!」 
 すぐに振り返ったカウラが叫ぶ。要はまるで何事も無かったかのように自分のグラスの中のラム酒を飲み干していた。要も手加減をしていたようでアンは後頭部をさすりながら手にしたビール瓶が無事なのを確認している。
「西園寺。オメーはなあ……やりすぎなんだよ!」 
 ランはそう言うと要の頭を叩いた。倒れたアンにサラとパーラが駆け寄る。
「大丈夫?痛くない?」 
「ひどいな、西園寺大尉は」 
 サラとパーラに介抱されるアンに差し入れを運んできた男性隊員から嫉妬に満ちた視線が送られている。誠はこの状況で自分に火の粉がかかるいつものパターンを思い出し、手酌でビールを注ぎ始めた。
「お姉さま。僕も今回はやっぱり要お姉さまが悪いと思います!アン、大丈夫そうだな」 
「そうですね」 
 味方になると思っていた楓と渡辺。第三小隊の隊長としての立場をわきまえている楓まで敵に回り、要はいらだちながら再びラム酒をあおった。
「よく飲むなあ……少しは味わえよ」 
「うるせえ!餓鬼に意見されるほど落ちちゃいねえよ!」 
 ランから文句を言われている要だが、そっと彼女は切り分けたピザを誠に渡した。
「あ、ありがとうございます」 
「礼なんて言うなよ。そのうちオメエが暴れだして踏んだりしたらもったいないからあげただけだ」 
 そう言う要の肩にアイシャが手を寄せて頷いている。その瞳はすばらしい光景に出会った人のように感嘆に満ちたものだった。
「なんだよ!」 
「グッジョブ!」 
 思い切り良く親指を立てるアイシャに要はただそのタレ目で不思議そうな視線を送っていた。
「ったく何がグッジョブだよ」 
 誠は苦笑いを浮かべて注がれたビールを飲み干した。明らかに部隊で根を詰めて絵を描き続けてきた反動か、意識がいつもよりもすばやく立ち去ろうとしているのを感じる。そしてそのままふらふらとカウラを見つめる誠。その目は完全に据わっていた。カウラも少しばかり引き気味に誠を見つめる。ランは誠に哀れみの視線を送っていた。
「あーあ、なんだか顔が赤いわよ。誠ちゃんいつものストレスが出てきたのね」 
 アイシャはラム酒をラッパ飲みしている要を見つめてため息をつく。
「なんだよ、そのため息は。アタシになんか文句あるのか?」 
「ここにいる全員が西園寺の飲み方に文句があるんじゃねーのか?」 
 開き直る要に突き刺さるようなランの一言。要は周りに助けを求めるが、いつもは彼女の言うことにはすべてに賛成する楓もアンの介抱をしながら責める様な視線を送ってくる。
「ああ、いいもんね!私切れちゃったもんね!神前!こいつを飲め!」 
 そう言うと要は手にしたラム酒をビールだけで半分出来上がった誠の半開きの口にねじ込んだ。ばたばたと手を振って抵抗する誠だが、相手は軍用の義体のサイボーグである。次第に抵抗するのを止めて喉を鳴らして酒を飲み始めた。
「あっ、間接キッス!」 
 突然そう言ったのはカウラだった。意外な人物からの意外な一言にうろたえた要は瓶を誠の口から引き抜いた。そのまま目を回したように倒れこむ誠。その顔は真っ赤に染まり、瞳は焦点を定めることもできず、ふらふらとうごめいている。
「馬鹿野郎!神前を殺す気か?ちょっと起こせ!」 
 蛮行もここまで来るといじめだった。そう思ったランは手にしていたコップを置くと顔色を変えて誠に飛びついた。そしてそのまま口に手を突っ込んで酒を吐かせようとするが、誠は抵抗して口を開こうとしない。
「仕方ねーな。カウラ!水だ!飲ませて薄めろ!」 
 そう言われて飛び出していくカウラ。アイシャはすぐさま携帯端末で救急車の手配をしている。
「ったく西園寺!餓鬼かオメーは!」 
「心配しすぎだよ。こいつはいつだって……」 
「馬鹿!」 
 軽口を叩こうとした要の頬を叩いたのは真剣な顔のアイシャだった。
「本当にアンタと誠ちゃんじゃあ体のつくりが違うの分からないの?こんなに飲んだら普通は死んじゃうのよ!」 
 アイシャは要の手からほとんど酒の残っていないラム酒の瓶を取り上げた。
「このくらいで死ぬかよ……」 
 そう言った要だが、さすがに本気のアイシャの気迫に押されるようにしてそのまま座り込んだ。
「らいりょうぶれすよ!」 
 むっくりと誠が起き上がった。その瞳は完全に壊れた状態であることをしめしていた。
「ぜんぜん大丈夫には見えねーけど」 
 助け起こすラン。だが、誠の視界には彼女の姿は映っていなかった。誠はふらふらと体勢を立て直しながら立ち上がる。そして要とアイシャに向かってゆっくりと近づき始めた。
「かなめしゃん!」 
 突然目の前に立つふらふらの誠に魅入られて要はむきになって睨み返した。
「は?なんだよ」 
 そして突然誠の手は要の胸をわしづかみにした。その出来事に言葉を失う要。
「このおっぱい、僕を誘惑するらめにおっきくらったってアイシャらんが……」 
 誠の言葉に自分の胸を揉む誠よりも先に要は視線を隣のアイシャに向ける。明らかに心当たりがあると言うように目をそらすアイシャ。
「らから!今!あの……」 
「正気に戻れ!」 
 そう言って延髄斬りを繰り出す要だが、いつものパターンに誠はすでに対処の方法を覚えていた。加減した要の左足の蹴りを受け流すと、今度はアイシャの方に歩み寄る。
「おお、今度はアイシャか……」 
 要は先ほどまで自分の胸を触っていた誠の手の感触を確かめるように一度触れてみた後、アイシャに近づいていくねじのとんだ誠を見つめていた。
「何かしら?私はかまわないわよ、要みたいに心が狭くないから」 
 アイシャの発言に部屋中の男性隊員が期待を寄せたぎらぎらとしたまなざしを向ける。それに心震えたと言うようにアイシャは誠の前に座った。
「あいひゃらん!」 
 完全にアルコールに支配された誠を見つめるアイシャ。だが、誠は手を伸ばすこともせず、途中でもんどりうって仰向けに倒れこんだ。
「大丈夫?誠ちゃん」 
 拍子抜けしたアイシャが手を貸す。だが、その光景を見ている隊員達はわざとアイシャが誠の手を自分の胸のところに当てようとしているのを見て呆れていた。
「らいりょうぶれす!僕はへいきらのれす!」