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遼州戦記 保安隊日乗 番外編

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 要をまじまじと見つめるアイシャ。その雰囲気にいたたまれないように周りを見回す。だが、要の周りには彼女を見るものはほとんどいなかった。それどころか一部の彼女の視線に気がついたものは『がんばれ!』と言うような熱い視線を送ってくる。
「いつアタシがそんなこと……」 
 そう言う要をアイシャが睨みつける。要が一斉に『お前がやれ』と言う雰囲気の視線を全身に受けると頭を掻きながら身を引く。アイシャは誠が修正した設定画をめくってその中の一つを取り出した。
「それ、アタシだな」 
 そんなランの言葉に再び厳しい瞳をランに向けるアイシャ。だがすでにランは諦めきった様子を見せていた。それを満足げに見下ろすアイシャ。
「なんだよ、アタシがなんかしたか?え?」 
 最後の抵抗を試みるラン。だがアイシャの瞳の輝きにランは圧倒されて黙り込んでいた。
「中佐。お願いがあるんですけど」 
 その言葉の意味はカウラと要にはすぐ分かった。要は携帯端末を取り出して、そのカメラのレンズをランに向ける。カウラは自分が写らないように机に張り付いた。
「なんだ?」 
「ぶっきらぼうな顔してくれませんか?」 
 アイシャの意図を察した要の言葉にランは呆然とした。
「何言い出すんだ?」 
 ランは呆れながら要を見つめる。
「そうね、じゃあ要を怒ってください」 
「は?」 
 突然アイシャに怒れといわれてランは再び訳がわからないという顔をした。
「あれですよ、合成してイメージ画像に使うんですから。さあ怒ってください」 
 すでにアイシャの意図を察している上でアイシャの狙いに否定的なカウラまでそう言いながら笑っている。気の短いランは周りから訳のわからないことを言われてレンズを向けている要に元から悪い目つきで睨みつけた。
 合成されたシャッターの音がする。要はすぐさまそれをアイシャに渡した。
「これ結構いい感じね。採用」 
「なんだよ!いったい何なんだよ!」 
 ランはたまらずアイシャに詰め寄った。
「静かにしてね!」 
 そう言ってアイシャはランの唇を指でつつく。その態度が腹に据えかねたと言うようにふくれっつらをするランだが、今度はカウラがその表情をカメラに収めていた。
「オメー等!わけわかんねーよ!」 
 ランは思い切り机を叩くとそのままドアを乱暴に開いて出て行った。
「怒らせた?」 
「まあしょうがねえだろ。とっとと仕事にかかろうぜ」 
 そう言うと要は誠の描いたキャラクターを端末に取り込む作業を始めた。それまで協力する気持ちがまるで無かった要だが、明らかに今回のメインディッシュがランだと分かると嬉々としてアイシャの部下を押しのけて画像加工の作業を開始するために端末の前に座っていた。
 そんな騒動を横目に正直なところ誠はかなり乗っていた。
 夏のコミケの追い込みの時にはアイシャから渡されるネームを見るたびにうんざりしていたが、今回はキャラクターの原案と設定が描かれたものをデザインするだけの作業で、以前フィギュアを作っていた時のように楽しく作業を続けていた。
「神前は本当に好きなんだな」 
 ひたすらペンを走らせる誠を呆れたように見つめるカウラ。だが、彼女も生き生きしている誠の姿が気に入ったようでテーブルの端に頬杖をついたまま誠のペンの動きを追っている。
「なるほど、これがこうなって……」 
 パーラとサラの端末に取り込んだ誠の絵を加工する様子を楽しそうに見ているのは楓と渡辺だった。
「やってみますか?」 
 そんなサラの一言に首を振る楓。
「これ、もしかして僕かな」 
 画面を指差して笑う楓に思わず立ち上がったカウラはそのままサラの前の画像を覗き込んだ。そこには男装の麗人といった凛々しいがどこか恐ろしくも見える女性が映し出されていた。
「役名が……カヌーバ黒太子。アイシャ。悪役が多すぎないか?」 
 カウラの言葉にアイシャは一瞬天井を見て考えた後、人差し指をカウラの唇に押し付けた。
「カウラちゃんこれはあれよ……凛々しい悪役の女性キャラってそれだけで萌え要素なのよ」 
「そんなお前の偏った趣味なんて聞いてねえよ」 
「要ちゃんはちゃんと今回出番をたくさん用意するからがんばってね」 
 壁に寄りかかってぶつぶつとつぶやいている要にアイシャが笑いかける。
「ケッ!つまんねえな」 
 そう言い残して要は出て行った。カウラは追った方がいいのかと視線をアイシャに送るが、アイシャは首を横に振った。そして要が放置していった端末を覗いたサラは手でOKと言うサインを送っている。たまたま生き抜きに頭を上げていた誠は要がなんやかんや言いながら仕事をしていたことに思わず笑みを浮かべていた。
「島田君!そっちの宣伝活動はどうよ」 
「ええ、まあ順調ですね。あちらもうちと同じでシャムさんやレベッカさんの絵を使ってキャラクターの設定を始めたみたいですけど……」 
「ちょっと見せて」 
 アイシャはすっかりこの部屋の指揮官として動き回っている。誠は再び頭を上げた。さすがに集中力が尽きてアイシャが島田の端末の画像を見て悪い笑いを浮かべるのを見ながら首を回して気分転換をしてみる。
「これなら勝てるわね。シャムちゃんやレベッカの絵は女性向けっぽいところがあるから。遼北軍みたいに女性の多いところだと危なかったけど……東和軍は男性比率は80パーセント以上!逃げ切れるわよ」 
 勝利を確信するアイシャ。確かに彼女が『東和限定』と言う設定に持ち込んだ理由が良くわかってきた。遼北軍は70パーセント以上、外惑星のゲルパルトなどでも60パーセントは女性兵士、人工的に作られた兵士である『ラストバタリオン』で占められていた。
 アイシャと運行部での彼女の部下であるサラとパーラはその『ラストバタリオン』計画の産物だった。他にもカウラや楓の部下と言うより愛人と言われる渡辺かなめも同じように人工的にプラントで量産された人造女性兵士である。
 先の大戦で作られた人造兵士達は技術的な問題から女性兵士が多く、保安隊の配属の『ラストバタリオン』の遺産達もほぼすべて女性だった。それを知り尽くしているアイシャに不敵な笑みが浮かぶ。
「でもあちらにお姉さんがついたのは痛いわね」 
 アイシャが独り言のようにつぶやいた。カウラと楓の顔色が変わる。
「鈴木中佐があちらに?菱川重工を押さえるつもりか?」 
 そんな楓の言葉に再び作業に戻ろうとした誠が視線を向けた。
「お姉さんは泣き落としに弱いからしょうがないわよ。それにあちらが軍と警察だけに限定していた範囲を広げるならこちらも攻勢をかけましょう」 
 アイシャは笑顔で島田の耳元に何かを囁いた。
「マジですか?」 
「大マジよ!」 
 島田の顔色が変わったのを見て誠はそちらに目を向けた。そんな彼の視線を意識しているようにわざと懐からディスクを取り出したアイシャは島田にそれを手渡した。
「なんだそれは?」 
 場に流されるままのカウラが島田が端末に挿入するディスクを見つめる。そのディスクのデータがすぐにモニターに表示された。数知れぬ携帯端末のアドレスが表示される。カウラはそれを見てさらに頭を抱えた。
「それって……」