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遼州戦記 保安隊日乗 番外編

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「でけー面してるな西園寺。悪いがアタシはさらに付け加えて気がみじけーんだ。このまま往復びんた三十発とボディーブロー三十発で勘弁してやるけどいいか?」 
 要を締め上げるランの顔の笑みが思わずこの騒ぎを見つけた誠を恐れさせる。
「やめて!アタシは女優よ!」 
「お約束のギャグを言うんじゃねーよ!」 
 そう言ってその場に要を引き倒したランだが、さすがにアイシャとカウラが彼女を引き剥がす。さすがにその行為はただの冗談だったようでニヤリと笑うと制服の襟を整えてランは立ち上がった。
「じゃあさっき言ってたな、茶を入れてくれるって。とっとと頼むわ」 
 そう倒れた要に言いつけるとランは誠の隣に座った。騒動が治まったのを知ってどたばたを観察していた隊員達もそれぞれの仕事に戻った。
「でもすげーよな」 
 気分を変えようとランは誠の絵に集中するさまを感動のまなざしで見つめている。誠は今度はシャムの使い魔の小さな熊のデザインを始めていた。
「こんなの誰が考えたんだ?」 
 そう言いながら後ろに立つアイシャに目を向けるラン。だが、ランは振り返ったことを若干後悔した。明らかに敵意を目に指を鳴らすアイシャ。強気な彼女がひるんだ様子で手にしたラフを落としてアイシャを見上げている。
「あのー……そのなんだ……」 
「中佐。ここでは私は『監督』とか『先生』と呼んでいただきたいですね。それと常に私に敬意を払うことがここでのルールですわ」 
「おっ……おう。そうなのか?」 
 言い知れぬ迫力に気おされたランが周りに助けを求めるように視線を走らせる。だが、この部屋にいる面子は先月配属になった楓と渡辺以外は夏のコミケのアイシャによる大動員に引っかかって地獄を見た面々である。彼等がランに手を貸すことなどありえないことだった。
 明らかにランはと惑っていた。それは誠にとっては珍しくないがランには初めて見る本気のアイシャの顔を見たからだった。明らかに気おされて落ち着かない様子で回りに助けを求めるように視線をさまよわせる。
「ちょっとクラウゼさん。見てくださいよ」 
 ようやくランを哀れに思ったのか、島田はそう言うと会議室の中央の立体画像モニタを起動させた。そこには5台の戦闘マシンの図が示されていた。それぞれオリジナルカラーで塗装され、すばやく変形して合体する。
「ほう、これは姐御がシャムに妥協したわね。合体ロボなんてナンセンスって話してたの聞いたことあるもの」 
「妥協ねえ……」 
 真剣にそのメカを見つめているアイシャに冷めた視線のカウラがつぶやいた。そもそも合理的な思考の持ち主であるカウラには合体の意味そのものがわからなかった。アイシャや誠の『合体・変形はロマンだ!』と言い出して保安隊の運用している05式の発売されたばかりのプラモデルの改造プランを立てる様子についていけない彼女にはまるで理解の出来ない映像だった。
「リアリズムとエンターテイメントの融合は難しいものなのよ。たとえば……」 
「おい!お茶!」 
 演説を始めようとするアイシャの後頭部にポットをぶつける要。振り向いたアイシャだが、要はまるで知らないと言うように手を振るとテーブルにポットと急須などのお茶セットを置いた。
「とりあえず先生に入れてあげて!」 
 アイシャの先には首をひねりながらシャムの役の魔法少女の服装を考えている誠がいた。
「そんなに根つめるなよ。アレだろアイシャ。とりあえずキャラの画像を作ってそれで広報活動をして、その意見を反映させて本格的な設定を作るんだろ?」 
 そう言った要の手をアイシャは握り締めた。
「要ちゃん!あなたはやればできる子だったのね!」 
 そのまま号泣しそうなアイシャにくっつかれて気味悪そうな表情を浮かべる要。カウラは黙ってお茶セットで茶を入れ始めた。
「でもすげーよな。本当によく考えてるよこれ。でもまあ……アタシはもうちょっとかわいいのがいいけどな」 
「違います!」 
 ランの言葉に要から離れたアイシャが叫んだ。突然のことに驚くラン。
「かわいいは正義。これは昔からよく言われる格言ですが、本当にそうでしょうか?かわいい萌え一辺倒の世の中。それでいいのかと私は非常に疑問です!かわいさ。これはキャラクターの個性として重要なファクターであることは間違いないです。私も認めます。ですが、すべてのキャラがかわいければよいか?その意見に私はあえてNo!!と言いたいんです!」 
 こぶしを振りかざし熱く語ろうとするアイシャに部屋中の隊員が『またか』と言う顔をしている。
「なんとなくお前の哲学はわかったけどよー、なんでアタシはへそ出しなんだ?シャムの格好はどう見てもドレスだって言うのに。それと……」 
 ランが自分が書かれているアイシャ直筆の設定画を手に取っている。だが、アイシャは首を振りながらランの肩に手を伸ばし、中腰になって同じ目線で彼女を認めながらこう言った。
「これはセクシーな小悪魔と言うキャラだからですよ。わかりますよね?」 
 思い切りためながらつぶやいたアイシャの言葉にランは頬を赤らめた。
「……セクシーなら仕方が無いな。うん」 
 ランのその反応に机を叩いて笑い出す要。さすがのランも今度はただ口を尖らせてすねて見せる程度のことしかできなかった。
「あの、アイシャさん。この女性怪人、名前がローズクイーンってベタじゃないですか?」 
 誠がそう言いながら差し出したのは両手が刺付きの蔓になっている女性怪人の設定画だった。
「そのキャラはあえてベタで行ったのよ。その落差が良い感じなの!」 
 ついていけないというように自分の分のお茶をすするカウラ。要とランはとりあえず席に座ってお茶を飲みながら誠とアイシャの会話を聞くことにした。一方せっかく用意したシャム陣営の合体ロボの合体変形シーンをスルーされた島田はサラに肩を叩かれながら再び端末でネット掲示板に宣伝の書き込みをする作業を再開していた。
「でも良いんですか?あまさき屋にはお世話になっているのは認めますけど……これって春子さんですよね、演じる人は」 
 誠は涼やかな表情と胸などを刺付きの薔薇の蔓で覆っただけの胸のあたりまで露出した姿の女性の描かれた紙をアイシャに差し出す。
「すげー!本当にオメーが描いてるんだなこれ」 
 声を上げたのはランだった。だが、アイシャはすぐにそれを手に取り真剣な目で絵を見つめていた。カウラの隣で黙っているのに飽きてアイシャの後ろに来た要がイラストを見てにやりと笑う。
「これはいいのか?胸とか露出が多すぎだろ?これじゃあ春子さん受けないんじゃねえの?」 
 そう言って要は誠の頭を叩く。その手を振り払って誠は次のキャラを描き始めた。
「確かにこれはやりすぎだな……」 
「これで行きましょう!」 
 カウラの言葉をさえぎってアイシャが叫ぶ。すぐさまその絵はパーラとサラに手渡された。
「要ちゃんの言うとおりとりあえず軍にはこれを流して宣伝材料にすれば結構票が稼げそうね。シャムちゃんは女性キャラが苦手だから男ばかりでむさくるしい各部隊の票はこちらが稼げるはずよ!あとは……」