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遼州戦記 保安隊日乗 番外編

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 誠の魂に火がついた瞬間だった。伊達にアニメヒロインで彩られた『痛特機』乗りでは無いところを見せよう。そう言う痛々しい誇りが誠の絵師魂に火をつける。
「アイシャさん。当然他のキャラクターの設定もできているんでしょうね!」 
 そう言いながら誠は腕をまくる。ブリッジクルーが宿直室から持ってきた誠専用の漫画執筆用のセットを準備する。
「そうね。あちらがインフラ面で圧倒しようとするならこちらはソフト面で相手を凌駕すれば良いだけのことだわ!」 
 高笑いを浮かべるアイシャ。こういうお祭りごとが大好きな要はすでに机の上にあった機密と書かれた書類を見つけて眺め始めた。
「魔法少女隊マジカルシャム?戦隊モノなのか魔法少女ものなのかはっきりしろよ」 
 そう言いながら読み進めた要。だがすぐに開いたページで手を止めて凍てつく視線でアイシャを見つめた。
「おい、アイシャ。なんだこれは」 
 片目の魔女のような姿の女性のラフ画像をアイシャに見せ付ける要。
「ああ、それは要ちゃんの役だから。当然最後は誠ちゃんと恋に落ちてかばって死ぬ予定なんだけど……」 
 何事もないように言うアイシャに要はさらに苛立ちはじめた。
「おい、なんでアタシがこいつと恋に落ちるんだ?それに死ぬって!アタシはかませ犬かなにかか?」 
「よく分かったわね。死に行く気高き騎士イッサー大尉の魂がヒロインキャラット・シャムの魂に乗り移り……」 
「お姉様が死ぬのか!そのようなもの認めるわけには行かない!」 
 背後で机を叩く音がしてアイシャと要も振り返った。
 そこには楓と渡辺が立っている。楓はそのままアイシャの前に立つと要の姿が描かれたラフを見てすぐに本を閉じた。
「あのー、楓ちゃん。これはお話だから……」 
 なだめようとするアイシャの襟首をつかんで引き寄せる楓。楓はそのまま頬を赤らめてアイシャの耳元でささやく。
「この衣装。作ってくれないか?僕も着たいんだ」 
 その突然の言葉に再び要が凍りついた。誠はただそんな後ろの騒動を一瞥するとシャムが演じることになるヒロインの杖のデザインがひらめいてそのままペンを走らせた。
「楓ちゃん!」 
 濡れた視線で楓を見つめていたアイシャがそう叫んでがっちりと楓の手を握り締めた。
「その思い受け止めたわ!でも今回はあまり出番作れそうにないわね」 
「おい!今回ってことは二回目もあるのか?」 
 要が呆れながらはき捨てるように口走る。そんな要を無視してアイシャはヒロイン、シャムのデザインを始めている誠の手元を覗き込んだ。その誠の意識はすでにひらめきの中にあった。次第にその輪郭を見せつつあるキャラット・シャムの姿にアイシャは満面の笑みを浮かべた。
「やっぱり誠ちゃんね。仕事が早くて……」 
「クラウゼ少佐!」 
 叫んだのは島田だった。アイシャは呼ばれてそのまま奥のモニターを監視している島田の隣に行く。
「予想通り来ましたよ、シャムさんの陣営の合体ロボの変形シーンの動画……ここまでリアルに仕上げるとは……こりゃあ明華の姐御が仕切ってますね」 
 頭を掻く島田。アイシャは渋い表情で画像の中で激しく動き回るメカの動画を見つめていた。
「メカだけで勝てると思っていたら大間違いと言いたいところだけど……あちらには吉田さんがいるからねえ。それにああ見えてレベッカは結構かわいい衣装のデザインとか得意だから……」 
「あちらはレベッカさんとシャムさんですか」 
 下書きの仕上げに入りながら誠が口を開く。そこに描かれた魔法少女の絵にカウラは釘付けになっていた。アイシャのデザインに比べて垢抜けてそれでいてかわいらしいシャムの衣装に思わず要と誠の押さえ役という立場も忘れて惹きつけられているカウラ。
「でもまあ、合体ロボだとパイロットのユニフォームとかしか見るとこねえんじゃないのか?」 
 そう言った要の顔を見て呆れたように首を振るアイシャ。
「あなたは何も知らないのね。設定によっては悲劇のサイボーグレディーとか機械化された女性敵幹部とか情報戦に特化したメカオペレーターとかいろいろ登場人物のバリエーションが……」 
「おい、アイシャ。それ全部アタシに役が振られそうなキャラばかりじゃねえか!」 
 要はそう言ってアイシャの襟首をつかみあげる。
「え?大丈夫よアタシの頭では全部構想はできているんだから」 
 得意げに胸を張るアイシャに要は頭を抱える。
「オメエのことだからもうすでに設定とかキャスティングとか済ませてそうだな、教えろよ……さっきのは却下な。悲劇のヒロインなんかやらねえからな」 
 挑発的な表情でアイシャに顔を寄せる要。だが、アイシャは要の手を払いのけて襟の辺りを直すと再び誠の隣に立った。
「やっぱりいつ見ても仕事が早いわよねえ。この杖、やっぱり色は金色なの?」 
 アイシャは会議机の中央に箱ごと並んでいたドリンク剤のふたをひねると誠の隣に置いた。夏コミの時と同じく誠はその瓶を右手に取るとそのまま利き手の左手で作業を続けながらドリンク剤を飲み干した。
「ちょっと敵役の少女と絡めたデザインにしたいですから。当然こちらの小さい子の杖は銀色でまとめるつもりですよ」 
 ドリンク剤を飲み干すと、誠は手前に置かれたアイシャのラフの一番上にあった少女の絵を指差した。 
「これってもしかして……」 
「ああ、それはクバルカ中佐よ。あの目つきの悪さとか、しゃべり口調とか……凄く萌えるでしょ?」 
 アイシャに同意を求められたカウラは首をひねった。誠の作業している隣では楓と渡辺がアイシャが作ったキャラクターの設定を面白そうに眺めていた。
「あの餓鬼が受けると思うのか?」 
 散々アイシャの書いたキャラクターの設定資料を見ながら笑っていた要が急にまじめそうな顔を作ってアイシャを見つめる。
「ええ、大丈夫だと思うわよ。ああ見えてランちゃんは部下思いだから」 
 真顔で答えるアイシャを挑発するように再び腹を抱えて笑い始める要。タレ目の端から涙を流し、今にもテーブルを殴りつけそうな勢いに作業を続けていた誠も手を止める。
「あのちびさあ……見た目は確かに餓鬼だけどさ。クソ生意気で目つきが悪くて手が早くて……それでいて中身はオヤジ!あんな奴が画面に出ても画面が汚れるだけだって……」 
 腹を抱えて床を見ながら笑い続ける要が目の前に新しい人物の細い足を見つけて笑いを止めた。
 要は静かに視線を上げていく、明らかに華奢でそれほど長くない足。だが、それも細い腰周りを考えれば当然と言えた、さらに視線を上げていく要はすぐに鋭い殺意を帯びたつり目と幼く見える顔に行き当たった。
「で、ガキで生意気で目つきが悪くて手が早くて中身がオヤジなアタシが画面に出るとどうなるか教えてくれよ」 
 淡々とランは要を睨みつけながらそう言った。要はそのままゆっくりと立ち上がり、膝について埃を払い、そして静かに椅子に座る。
「ああ、誠とかが仕事をしやすいようにお茶でも入れてくる人間がいるな。じゃあアタシが……」 
 そう言って立ち上がろうとする要の襟首をつかんで締め上げるラン。