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遼州戦記 墓守の少女

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 そう言うとまるで生徒を引率する教師のように、明華は先頭に立って格納庫の隙間から中へと入る。クリスとハワード、キーラが続く。その後ろにはぞろぞろと御子神達野次馬連が続く。
 薄暗い光の中、そびえ立つ12.05メートルの巨人。
「これが通称『二式』。北兼軍の誇る最新戦力よ」 
 誇らしげに明華の声が響く。退屈そうに偽装作業を進めていた隊員がクリス達を眺めている。
「じゃあ、写真撮らせてもらうんで!」 
 そう言うとハワードは点検中のレールガンを避けるようにしてそのまま六機の二式に向かって歩いていく。
「これが東和製?」 
「そうですよ。整備性重視の中国や遼北の機体には見えないでしょ?あくまでパワーと運動性の上昇のために各部品の精度はかなりシビアにとってあるわ」 
 誇らしげに言う明華。確かに見慣れたアメリカの旧式輸出用アサルト・モジュールM5と比べると無骨に見えるその全景。だが、間接部などどちらかと言えばクリアランスを取ることが多い遼北の機体とは一線を画すタイトな作りが見て取れた。
「確かにどこかしら東和やアラブ連盟のアサルト・モジュールっぽいと言えなくも無いような」 
 頼りなげにつぶやくクリスをかわいそうなものを見るような目で見つめる明華。にらみつけるような明華の視線に困って逸らした目の先にクリスはオリーブ色の二式の機体の向こうに黒い大型のアサルト・モジュールがあるのを見つけた。
「あれは何ですか?」 
 二式を撮りつづけているハワードを置いて、クリスは歩き出した。
「ああ、あれね。隊長の四式よ」 
「四式?」 
「まったく遼北と胡州は型番の呼び方が同じだから混乱するわよね。四式試作特戦。先の大戦で胡州が97式特戦の後継機として開発を進めていた機体よ。結局、その当時としてはコンパクトな機体に、おさまるエンジンの出力不足が原因で開発は中止。そのまま胡州軍北兼駐留軍に放置してあったのを前の大戦で使ってからあれがしっくり行くって言う隊長の為に何とか予備部品を見つけてレストアした機体ですよ」 
 黒い、二式より一回り大きな機体。頭部のデュアルカメラが胡州のアサルト・モジュールらしさをかもし出している。
「そう言えば、前の戦争では嵯峨中佐は試作のアサルト・モジュールを愛用したと言うことですが、それがこれですか?」 
「違うわよ。隊長の愛機だったのは三号機。でもこれは人民軍に鹵獲された一号機よ」 
 明華はクリスに寄り添うように付いてくる。クリスは彼女の顔を見た。何かに気づいてもらいたいとでも言うように、わざとらしくクリスの視線を漆黒の巨人に導こうとしている。
「すいません!許中尉!ジャコビン曹長!それに御子神中尉」 
 そんなやり取りをしていたクリス達に格納庫の入り口で角刈りの少年兵が叫んでいる。
「おい、柴崎!なんで俺だけとって付けたように言うんだ?」 
 御子神は入ってきた少年をにらみつける。だが、気が強そうな伍長の階級章をつけた少年は逆に皮肉めいた笑みを浮かべて突っ立っている。
「ああ、紹介しておくわ。第二小隊の二番機の専属パイロット柴崎浩二伍長。うちでは隊長が太鼓判を押した期待の新人よ」 
「へっへっへ。どうも」 
 どこか粗野な雰囲気のある少年士官が右手を差し出す。クリスは彼の握手の申し出に応じた。
「外人さんですか。わざわざうちに来るとは変わってますね」 
 言葉のどこかに棘があるような語調に少しばかりクリスは嫌悪感を感じた。
「それと紹介しておいたほうが良いかしら?」 
 そう言うと明華の言葉を察したと言うように二人の女性士官と小柄な一人の男性下士官が前に出た。
 色黒で、がっしりとした体格の青年下士官。赤い髪を肩の所で切りそろえたような長身の女性士官。そして紺色の髪を後ろで編み上げた女性士官が敬礼をしている。
「まず彼が飯岡小十郎軍曹。胡州出身で海軍のアサルト・モジュール部隊に在籍していたベテランよ。それに柔道家なんですよね」 
「自分はそれほどでもありません!」 
 頑丈そうな腕をさらして敬礼する飯岡。そして隣で赤い髪の女性士官が釣られて敬礼する。そんな様子を見ながら紺色の女性士官は笑いをこらえていた。
「そして、彼女がルーラ・パイラン少尉。遼北の周大佐が先の大戦で率いた『魔女機甲隊』は有名でしょ?パイロット不足ということでそこから私のコネで見つけてきたのよ。二式の試験ではパイロットでは一番良い成績だったわね」 
 静かに敬礼するルーラ。そして自分の番だと言うように敬礼する紺色の髪。
「じゃあ柴崎君。何で私達を……」 
「紹介してくださいよ!」 
 取り残された准尉の階級章の女性士官が叫ぶ。仕方が無いというように明華は咳払いをした。
「彼女が……」 
「レム・リスボン准尉です!第一小隊三番機担当です!みんな拍手!」 
 周りを取り巻く隊員達がいかにも仕方が無いというように拍手を送る。目を細めてその歓声に答えるレム。 
「遊んでると怒られんじゃないですか?明日の作戦の説明があるとかで楠木少佐が待ってますよ!」 
 その言葉を聴くと、女性陣はなぜか大きくため息をついた。


 従軍記者の日記 3


「あのスケベ親父、帰ってきてるの?」 
 レムが露骨に嫌そうな顔をしながら柴崎を見つめる。彼女の脅迫するかのような顔に恐る恐る頷く柴崎。その状況が滑稽に見えて思わずクリスは思わず後ろに立つキーラの顔を見つめた。彼女もレムの言葉に同意するように首を縦に振っている。じりじりと近づいてくるレムに柴崎は諦めたように叫ぶ。 
「俺に言っても仕方ないじゃないですか!まあ、あの人の情報は確かだって、隊長も言ってますし」 
「確かに情報網は認めるけど……この戦争が終わったら訴えましょうよ、セクハラで」 
 そう言うと明華はハンガーを後にする。クリスは彼女達の態度で招かれざる情報将校の人となりを知った。
「クリス!俺はしばらく写真を撮らせてもらうよ!」 
 ハワードは相変わらず、整備兵に案内を受けながら二式の撮影を続けていた。
「楠木少佐。もしかして名前は伸介じゃないですか?」 
 当たりをつけてクリスは明華に聞いてみた。先頭を歩いていた明華がその言葉で立ち止まる。めんどくさそうに明華が彼を見上げる。
「そうですよ。先の大戦時に当時の胡州陸軍特別憲兵隊遼州派遣隊の副官をしていた人物」 
 明華はそこまで言うと言葉を止め、クリスを振り返る。
「そして上級戦争犯罪被告人」 
 先の大戦。強権政治で戦争に踏み出した遼南皇帝ムジャンタ・ムスガ。革命勢力を糾合する遼北系ゲリラと民主化を要求する親米派ゲリラ達により悪化した治安を引き締めるために、胡州から呼び寄せた『悪魔』の異名を持つ特殊部隊があった。情報収集と拠点急襲に特化した恐怖の憲兵部隊は『人斬り新三』の異名を取る嵯峨惟基に率いられ、多くのゲリラやレジスタンスの殲滅活動を実行した部隊だった。
作品名:遼州戦記 墓守の少女 作家名:橋本 直