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遼州戦記 保安隊日乗 5

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「おう!来たぞ、神前だ」 
 画面を通して上官が見ているというのに、スパーリングワインを空にしてさらに赤ワインに手を伸ばしていた要が顔を上げる。
『なんだ?さっき言ってたイラストか?』 
 ランも興味深そうに誠の手の中の箱に目をやった。その好奇心に満ちた表情はどう見ても見た目どおりの少女にしか見えなかった。
「それは……」 
 ドレス姿のカウラは動きにくそうに誠に振り返る。誠はそのまま箱を手に持つとカウラに突き出した。
「これ……プレゼントです!」 
 一瞬何が起きたのかというような表情の後、カウラは笑顔を浮かべてそしてすぐに周りの視線を感じながら恥ずかしそうにうつむく。
「あ、ええと。ありがとう」 
 小さな声、いつものカウラとは別人のような小さな声でカウラが答える。そしてカウラは静かに箱を受け取るとそのままテーブルの片隅に箱を置いた。まかれたリボンを丁寧に解く。
「どんなの?ねえ、どんなの?」 
 ニヤニヤ笑いながらアイシャが身を乗り出してくる。端末の画面では興味津々と言うようにランが目を輝かせていた。
 リボンが解け、箱が開かれた。
「あ……あのときの私か」 
 箱の中の色紙には宝飾店で見にまとった白いドレスのカウラの姿が描かれていた。すぐに恥ずかしそうにうつむいてしまうカウラ。
『おい、どんなのだ?見せろよ』 
 ランが画面の中で伸びをしているがそれはまるで無意味なことだったのでつい、誠も笑ってしまっていた。
「これは……?」 
 しばらく絵を見つめていたカウラの表情が硬くなった。それを見ていたアイシャがにんまりと笑う。
「アイシャが作っていたゲームのキャラに似てるな。目元が」 
 カウラの一言に誠は冷や汗が流れ出すのを感じていた。恐れていた指摘。にんまりと要とアイシャが笑っている。
「ああ、これって以前に頼んで描いてもらったエロゲのヒロインでしょ?」 
 アイシャの言葉にカウラが固まる。それを見て我が意を得たりとにんまりと笑う要。
「クラウゼ。そいつはどういうキャラクターなんだ?」 
 カウラの声が震えている。さすがのアイシャも自分の言葉にかなり神経質に反応しようとしているカウラを見て自分の軽い口を呪っているような表情を浮かべる。
「ええと、そのー……」 
「いい。私は好奇心で聞いているだけだ。別にそれほど深く考える必要は無い」 
 作った笑顔でアイシャを見つめるカウラ。とても好奇心で聞いているとは言えない顔がそこにはあった。
 誠ははらはらしながら返答に窮しているアイシャを見つめた。
「あれってアタシに『こんなエロゲはこれまでに無いわよ!』とか言ってきた奴じゃなかったか?高校生のうだつのあがらない主人公が、女魔族に自分が魔王の魂を持っていることを告げられて……」 
 要はたぶんデバックか何かを頼まれたんだろう。したり顔で話を続けようとする。
「ちょっとたんま!お願い!勘弁して!薫さんもいるんだから!」
「え?私は別にいいわよ。誠も結構そう言うゲームやってたわよねえ」 
 慌てふためくアイシャ。状況をうれしそうに見ている母、薫。ばれているだろうと思いながらうつむく誠。さらに何を言おうかと考えをめぐらす要。
「それは興味深いな。その女魔族が私……で?」 
 アイシャに聞くだけ無駄だと思ったようにカウラが今度は要に顔を向ける。得意げな表情でアイシャと誠を覗き見ている要。だが、彼女はより面白い方向に場を向けるために饒舌に話し始めるのは間違いないことだと二人はあきらめ始めた。
「まあ最初はSの香りが微塵も無い普通の高校生の主人公が、このどう見ても顔はカウラと言うヒロインのドMな魔族に手ほどきを受けて立派は……」 
「あー!あー!聞こえない!」 
 アイシャが叫ぶ。誠はただ苦笑いを浮かべてたたずむ。
「つまり……そのマゾヒストの魔族のイメージがこいつの頭の中にはあるわけだ……しかもカウラの顔で。ああ、そう言えばあの魔族は胸がでかかったなあ」 
 カウラの軽蔑するような視線が自分に突き刺さるのを感じる誠。誰が見ていようが関係なくはじめるアイシャによりそう言う系統のエロゲがどう展開するのか知り尽くしているカウラ。しかもアイシャの趣味に男性向け、女性向けと言うくくりは関係が無いものだった。
「ああ、しかもヒロインの登場場面は全裸じゃなかったっけ?あれも全部誠が描いたんだよなあ」 
「へえ、そうなんだ」 
 カウラの表情が次第に凍り付いていく。画面では他人事という安心感を前面に押し出しているようないい顔のランが映っている。
「さ!プレゼントは片付けましょ!食事を楽しまないと。ねえ、要ちゃんも雰囲気を変えて……そうだ!ケーキをきりましょうか?あ?ナイフが無い。それなら私が……」 
 慌てふためいてしゃべり続けるアイシャ。だが、カウラの鋭い視線が立ち上がろうとするアイシャに向かう。
「逃げる気か?」 
 低音。カウラの声としては珍しいほど低い声が響いてアイシャはそのまま椅子から動けなくなった。
「でも……アイシャさんが理想の女性を描けばいいのよって言ってましたから……」 
 ポツリとつぶやいた誠の一言。
 それが場の空気を一気に変える事になった。カウラの頬が一気に朱に染まり、それまでびんびん感じられていた殺気が空気が抜けた風船のようにしぼんでいく。一方で舌打ちでもしそうな苦い表情を浮かべていたのは要だった。
「そうよ……ねえ、あくまで理想だから。フィクションだから」 
「誠の理想はベルガー大尉なの?ちょっと望みが高すぎない」 
 ごまかそうとするアイシャとうれしそうな母。誠はただ苦笑いを浮かべるだけだった。
『落ちが付いたところで……良いか?』 
 ようやく切り出せると言う感じでランが口を開く。アイシャはとりあえず気を静めようとグラスのスパーリングワインを飲み干す。
「シャムちゃんの歓迎でしょ?まあこういう時は……」 
 アイシャの一言でしばらく呆けていたカウラが我に返るのが誠から見てもおかしかった。
「シャムの野菜が手に入るならいいんじゃないのか?薫さん、欲しい野菜は?」 
「ええと、クワイはまだ買ってないでしょ。次にレンコンも無い。ごぼうはちょっと足りないわね」 
 ドレス姿のカウラに声をかけられて驚いたように足りない野菜を数え始める薫。
『ああ、それなら後で一覧をメールしてくれねーかな。シャムの猟友会のつてや隊長の持ち込む食材なんかに当てはまるのがあるようなら用意しとくから』 
「良いんですの?」 
 薫はしばらく小さい子供にしか見えないランを見つめる。じっと薫に見つめられて困ったような表情でランはおずおずと頷いた。
「じゃあこれくらいで良いでしょ?切りますよ」 
『おい……それ』 
 続いて何かを言おうとしたランを無視して通信を切るアイシャ。まるで何かを隠そうとしているような彼女の表情に疑いの視線をぶつけるカウラ。
「じゃあ……ケーキはどう?」 
 そう言って立ち上がるアイシャ。カウラは相変わらずアイシャを監視するような視線で見つめている。
「おいおい、一応パーティーなんだぜ。そんなに真面目な面でじろじろアイシャを見るなよ」