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遼州戦記 保安隊日乗 5

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 カウラの皮肉に振り返りにんまりと要は笑った。
「本当においしいわね。アナゴがふかふかで……」 
 満足そうに茶碗を置くアイシャ。戻ってきた要が茶をすすっている。
「でもよく食べたな」 
 誠並みに五本もえびを食べたカウラを要が冷やかすような視線で眺めている。そう言われてもわざわざニヤニヤ笑って喧嘩を買う準備中の要を無視して湯飲みに手を伸ばすカウラ。
「そう言えば父さんは明日から合宿でしたっけ」 
 そんな誠の言葉に誠一は大きくうなづいた。要もカウラもアイシャも誠一に目をやった。親子といえばなんとなく目も鼻も眉も口も似ているようにも見える。だがそれらの配置が微妙に違う。それに気づけば誠のどちらかといえば臆病な性格が見て取れる。そして誠一はまるで正反対の強気な性格なのだろうと予想がついた。
「まあな。正月明けまでは稽古三昧だ……どうする?誠も来るか」 
 すぐにアイシャと要に殺気にも近いオーラが漂っているのが誠からも見えた。
「全力でお断りします」 
 二人のの射るような視線に誠はそう言うほか無かった。いつものように薫は笑顔を振りまいている。カウラは薫と誠を見比べた。実に微妙だがこれも親子らしく印象というか存在感が似ていることにカウラは満足して手にした湯飲みから茶をすする。
「今頃は隊は大変だろうな」 
 カウラの一言にアイシャが大きくため息をつく。
「そんなだから駄目なのよ。ともかく仕事は忘れなさいよ。思い出すのは定時連絡のときだけで十分でしょ?」 
 そう言って薫から渡された湯飲みに手を伸ばすアイシャ。だがまじめ一本のカウラが呆れたように向かいでため息をついているのには気づかないふりをしていた。
「本当にお世話になって……でも本当に誠が迷惑かけてないかしら?」 
 そんな母の言葉に黙り込む誠。
「そんなお母様、大丈夫ですよ。誠ちゃんはちゃんと仕事していますから」 
「時々浚われたり襲撃されたりするがな」 
 アイシャのフォローを潰してみせる要。そんな要を見て薫はカウラに目を向ける。カウラはゆっくりと茶をすすって薫を向き直った。
「よくやってくれていると思いますよ。神前曹長の活躍無くして語れないのが我が隊の実情ですから。これまでも何度危機を救われたかわかりません」 
 にこやかにフォローするカウラ。だが薫はまだ納得していないようだった。
「でも……気が弱いでしょ」 
 その言葉にすぐに要が噴出した。アイシャも隣で大きくうなづいている。
「笑いすぎですよ。西園寺さん」 
 誠は少しばかり不機嫌になりながらタレ目で自分を見上げてくる要にそう言った。
「誠ちゃんは確かに気が弱いわよねえ。野球の練習試合の時だってランナーがでるとすぐ目があっちこっち向いて。守っていてもそれが気になってしかたないもの」 
 アイシャはまたにんまりと笑って誠を見つめてくる。そんな彼女の視線をうっとおしく感じながら誠は最後に残った芋のてんぷらを口に運ぶ。
「蛮勇で作戦を台無しにする誰かよりはずいぶんと楽だな、指揮する側にすればだがな」 
 たまらずに繰り出されたカウラの一言。要の笑みがすぐに冷たい好戦的な表情へ切り替わる。
「おい。それは誰のことだ?」 
「自分の行動を理解していないのか?さらに致命的だな」 
 カウラの嘲笑にも近い表情に立ち上がろうとした要の前に薫が手を伸ばした。突然視界をふさがれて驚く要。
「食事中でしょ?静かにしましょうね」 
 相変わらず笑顔の薫だが、要は明らかにそのすばやい動きに動揺していた。そんなやり取りを傍から眺めていた誠はさすがと母を感心しながらゆっくりとお茶を飲み干した。
「ご馳走様。それじゃあ僕は……」 
 誠が立ち上がるのを見るとアイシャも手を合わせる。予想していたことだが少しばかりあせる誠。
「ご馳走様です。おいしかったわね。それじゃあ、私も誠ちゃんの部屋に……」 
「なんで貴様が行くんだ?」 
 カウラの言葉にただ黙って笑みを浮かべてアイシャが立ち上がる。その様子を見てそれまで薫の動きに目を向けていた要も思い出したような笑みを浮かべる。
「じゃあアタシもご馳走様で」 
「貴様等は何を考えてるんだ?つまらないことなら張り倒すからな」 
 誠達の行き先が彼の部屋であることを悟ったカウラが見上げてくるのを楽しそうに見つめる要。
「ちょっと時間がねえんだよな、のんびりと説明しているような」 
 そう言って立ち上がろうとする要を追おうとするカウラを薫が抑えた。
「なにか三人にも考えがあるんじゃないの。待ったほうが良いわよ、誠達が教えてくれるまでは」 
 カウラは薫の言葉に仕方がないというように腰掛けて誠達を見送った。
「なあ、悟られてるんじゃねえのか?」 
 階段を先頭で歩いていた要が振り向く。
「そんなの決まってるじゃないの。誠ちゃんが画材を買ったことはカウラちゃんも知ってるのよ。問題はその絵のインパクトよ」 
 そう言ってアイシャは誠の肩を叩いた。
「なんでお二人がついてくるんですか?」 
 さすがの誠も自分の部屋のドアを前にして振り返って二人の上官を見据える。
「それは助言をしようと思って」 
「だよな」 
 あっさりと答えるアイシャと要。おそらく邪魔にしかならないのはわかっているが、何を言っても二人には無駄なのはわかっているので誠はあきらめて自分の部屋のドアを開いた。
「なんだ変な匂いだな、おい」 
「エナメル系の塗料の匂いよ。何に使ったのかしら」 
 部屋を眺めている二人を置いて誠は買ってきた画材が置いてある自分の机を見つめた。とりあえず椅子においてあった画材を机に並べる誠。
「あ!こんなところに原型が」 
 幸いなことにアイシャは以前誠が作ったフィギュアの原型に目をやっている。誠はその隙にと買って来た並べた画材見回すと紙を取り出す。
「しかし……凄い量の漫画だな」 
 本棚を見つめている要を無視して机に紙を固定する。誠は昔から漫画を書いていたので机はそれに向いたつくりとなっていた。手元でなく漫画に要の視線が向いているのが誠の気を楽にした。
 そして紙を見て、しばらく誠は考えた。
 相手はカウラである。媚を売ったポーズなら明らかに軽蔑したような視線が飛んでくるのは間違いが無かった。胸を増量したいところだが、それも結果は同じに決まっていた。
 目をつぶって考えている誠の肩をアイシャが叩く。
「やっぱりすぐに煮詰まってるわね」 
 そんな言葉に自然と誠はうなづいていた。それまで本棚を見ていた要もうれしそうに誠に視線を向けてくる。
「まあ、アタシ等の方が奴との付き合いが長いからな」 
「そうよね。あの娘が何を期待しているかは誠ちゃんより私達のほうが良く知っているはずよね」 
 自信満々に答えるアイシャに嫌な予感がしていた。完全に冗談を連発するときの二人の表情がそこにある。そしてそれに突っ込んでいるだけで描く気がうせるのは避けたかった。
「じゃあ、どういうシチュエーションが良いんですか?」 
 誠は恐る恐るにんまりと笑う二人の女性士官に声をかけた。
「まず、ああ見えてカウラは自分がお堅いと言われるのが嫌いなんだぜ。知ってるか?」 
「ええ、まあ」