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遼州戦記 保安隊日乗 5

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 エルマの言葉をさえぎったランがまじまじと画面を見つめていた。
「そうとも言えねーよな。うちの明華だって16歳で遼北の人民軍技術大学出て技術畑を歩いてきたって例もあるわけだしな。思ったより天才と言うのは多くいるもんだぜ」 
 ランはそう言うと自分の中で納得したというようにもとの上座に戻ってしまう。
「つまりオメエ等は餓鬼に遊んでもらってたわけだ……同レベルで」 
 同じく自分の鉄板の前に腰を下ろした要。タレ目が誠達を哀れむように視線を送ってくるのがわかる。誠はただ頭を掻くだけだった。
「でも……私達には何も出来ないわよね。この子の人権がどうだとか言うのは筋違いだし、うちの周りをこの子が歩いていたって要みたいに無理にしょっ引くわけにも行かないんだから」 
 アイシャもそう言うと置き去りにされていた豚玉をかき混ぜ始める。
「確かにそうだが、今後、場合によっては連携をとって対処する可能性もある。先日の同盟厚生局と東和軍部の法術研究のが発覚した直後だ。可能性は常に考慮に入れておくべきだろう」 
 エルマの言葉にあいまいに頷くアイシャ。カウラもようやく納得したように皿に乗せてあった烏賊玉に手を付ける。
「でも安心したな。貴様がこんなになじんでいるとは……本当に」 
 手にしたミックス玉の入ったボールをアイシャの真似をしながらかき混ぜるエルマ。その言葉に要は眉をひそめた。
「なじんでる?こいつが?全然駄目!なじむと言う言葉に対する冒涜だよそりゃ」 
 要はそのまま手にしたジンのグラスを傾ける。カウラは厳しい表情で要をにらんでいる。
「ほら、見てみろよ。ちょっと突いたくらいでカッとなる。駄目だね。修行が足りない証拠だよ」 
「そうねえ。その点では私も要ちゃんに同意見だわ」 
 手を伸ばしたビールのジョッキをサラに取り上げられてふてくされていたアイシャが振り向く。その言葉に賛同するように彼女から奪ったビールを飲みながらサラが頷き、それを見てパーラも賛同するような顔をする。
「そうかな。まだやはり慣れているとは言えないか……」 
 静かにつぶやくカウラ。その肩を勢い良くアイシャが叩いた。
「その為の誕生日会よ!期待しててよね!」 
 アイシャはそこで後悔の念を顔ににじませる。誠はすぐに要に目をやった。にんまりと笑い。烏賊ゲソをくわえながらアイシャを見つめている。
「ほう期待できるわけだ。どうなるのか楽しみだな」 
「なるほど。分かった。期待しておこう」 
 納得したように烏龍茶を飲むカウラ。そこでアイシャの顔が泣きべそに変わる。
「良いもんね!じゃあ誠ちゃんのお母さんに電話して仕切っちゃうんだから!」 
 そう言うとアイシャは腕の端末を通信に切り替える。だが、彼女の言った言葉を聞き逃すほど要もカウラもお人よしではなかった。
「おい、アイシャ。こいつの実家の番号知ってるのか?」 
 要の目じりが引きつっている。隣でカウラは呆然と音声のみの通信を送っているアイシャを眺めている。
「実家の番号じゃないわよ。薫さんの携帯端末の番号」 
 その言葉で夏のコミケの前線基地として誠の実家の剣道場に寝泊りした際に仕切りと母の薫と話をしていたアイシャのことを思い出して呆然とした。
「あのー本気ですか?アイシャさん……あのー」 
 アイシャに近づこうとする誠を笑いながら遮るサラとパーラ。呼び出しの後、アイシャの端末に誠の母、神前薫の顔が映る。
『もしもし……ってクラウゼさんじゃないの!いつも誠がお世話になっちゃって』 
「いいんですよ、お母様。それと私はアイシャと呼んでいただいて結構ですから」 
 微笑むアイシャをにらみつけるカウラ。烏賊ゲソをかじりながらやけになったように下を見ている要に焦りを感じる誠。
『でも……あれ、そこはなじみのお好み焼き屋さんじゃないですか。また誠が迷惑かけてなければいいんですけど』 
 そこでサラとパーラが大きくうなづく。誠はただその有様を笑ってみていることしかできなかった。
「大丈夫ですよお母様。しっかり私が見ていますから」 
「なに言ってるんだよ。誠の次につぶれた回数が多いのはてめえじゃねえか」 
 ぼそりとつぶやいた要をアイシャがにらみつける。
「なんだよ!嘘じゃねえだろ!」 
 怒鳴る要。だがさすがに誠の母に知られたくない情報だけに全員が要をにらみつけた。いじけて下を向く要。
『あら、西園寺のお嬢さんもいらっしゃるのかしら』 
 薫の言葉にアイシャは画面に向き直る。
「ええ、あのじゃじゃ馬姫はすっかりお酒でご機嫌になって……」 
「酒で機嫌がいいのは貴様じゃないのか?」 
 今度はカウラ。再びアイシャがにらみつける。
『あら、今度はベルガー大尉じゃないですか!皆さんでよくしていただいて本当に……』 
 そういうと少し目じりをぬぐう薫。さすがにこれほどまで堂々と母親を晒された誠は複雑な表情でアイシャを見つめる。
『本当にいつもありがとうございます』 
「まあまあ、お母様。そんなに涙を流されなくても……ちゃんと私がお世話をしますから」 
 そう言ってなだめに入るアイシャをただ呆れ返ったように見つめているラン。その視線が誠に向いたとき、ただ頭を掻いて困ったようなふうを装う以外のことはできなかった。
「それじゃあ誠さんを出しますね」 
「え?」 
 そういうと有無を言わさず端末のカメラを誠に向けるアイシャ。ビールのジョッキを持ったまま誠はただ凍りついた。
「ああ母さん……」 
『飲みすぎちゃだめよ。本当にあなたはお父さんと似て弱いんだから』 
 そう言ってため息をつく薫。
「やっぱり脱ぐのか?すぐ脱ぐのか?」 
 ニヤニヤ笑いながら顔を近づけてくる要を押しやる誠。カウラも要を抱えて何とか進行を食い止める。
『お酒は飲んでも飲まれるな、よ。わかる?』 
「はあ」 
 母の勢いにいつものように誠は生返事をした。
「おい、クリスマスの話がメインじゃなかったのか?」 
 思い出したようなランの言葉にわれに返ったアイシャ。誠達に腕の端末の開いた画像を見せていた彼女はそのまま自分のところに腕を引いた。
『クリスマス?』 
 不思議そうに首をひねる薫。
「いえ、カウラちゃんの誕生日が12月24日なんですよ」 
 アイシャはごまかすように口元を引きつらせながらそう言った。その言葉に誠の母の表情が一気に晴れ上がる。
『まあ、それはおめでたい日にお生まれになったのね!』 
「ちなみに八歳です」 
「余計なことは言うな」 
 要の茶々をにらみつけて黙らせるカウラ。それを聞いて苦笑いを浮かべながら要はグラスを干した。
『じゃあ、お祝いしなくっちゃ……ってクリスマスイブ……』 
 そう言うとしばらく薫は考えているような表情を浮かべた。
「そうですね。だから一緒にやろうと思うんですよ」 
 アイシャの言葉にしばらく呆然としていた薫だが、すぐに手を打って満面の笑みを浮かべる。
『そうね、一緒にお祝いするといいんじゃないかしら?楽しそうで素敵よね』 
「そうですよね!そこでそちらでお祝いをしたいと思うんですが」 
 ようやく神妙な顔になったアイシャ。その言葉の意味がつかめないというように真顔でアイシャを見つめる薫。