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電脳世界で生きるということ

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 流行のボーイズ・ラブなら男を好きな男が何人も現れて、ジュンのような弱気な男は強気な男に押し切られてしまうのだろうけど、此処は現実。糞食らえな夢は当然差別感情に基づいて弾かれている。彼には彼氏はいない、それどころかろくに友達と呼べるような者もいない。弱気な同性愛者が簡単に開き直ることなどできはしない。気味悪がられているジュンは、一緒に喋るだけでも鬱陶しがられるありさまだ。幼馴染としてはなんともかわいそうではあるが、自分を愛してほしい私の立場からすれば、もっとやってほしいような、微妙なところ。
 虐められる側に責任がある、とはよく言ったもので、全くもってその通りだろう。要するに少し異端な気を覚えられる人間がそう言った対象になるのだろうけど、まぁジュンは格好の的だろう。私ならカミングアウトできない。でも、その虐め云々を救う気にはなれない。面倒だから、というのは言い訳臭いのではっきりさせると、これで私が虐めを救う道理がない。ジュンが虐められている内容は、私にとっても嫌悪感のあること。「救いたい」という感情だけで救ってやるものか。
「……」
 ある意味で、嫉妬のようなものだけど、またそれとも違うのかもしれないこの感情は、ぶつける場所がなく私の中でもやもやしている。
 小さい頃よくジュンと遊んだ水爆弾のように、そのうち爆発するのだろうか。あぁ、こんなものに喩えてしまいたくなかった。忘れることにする。



 電脳世界「キュア」は、あくまで電脳世界だ。つまりはゲームの世界、それ以上の膨らみはないはずだった。
 キュアは安っぽく既存のシステムを盗んでいる訳ではない、有志で集まった何十人ものプログラマがつくったWANのゲーム。インターネットにアクセスできる人間ならどんな人でもプレイできる。
 かなり趣味な部分が大きく、世界観はぐちゃぐちゃながら、きちんと機能はしていた。一方ではファンタジー丸出しなドラゴン討伐のイベントが行われているかと思えば、一方ではサバイバルな世界でミサイルランチャーの音が鳴り響く。全く別のゲームのようではありながら、同じシステム上で動いている。カオスを楽しむことができるゲームといえばいいのだろうか。
 キュアをつくった人間の殆どは暇人だ。金儲けのことなど殆ど考えてはいない。掲示板やSNSの集いが大きくなり、この世界観を生み出すに至った。ベレッタM93Rを使うことができるのは、私からすればほんの少し救いなのだけど、あぁいや、これは私が追加した武器だっけ。

 私はプログラマだ。学生も兼ねている。上手い言葉で表現すればアマグラマだ。そんな言葉はないけれど。
 高校の二年生、とはいえあまり通ってはいない。留年は覚悟しているけど、通え、といわれてケンカになるのも嫌なので、卒業できる程度にだけ通う、所謂不良だ。
 つまらない学業などに勤しむつもりはない。システム言語を操る方がよほど楽しい。この技術は他界してしまった両親が、私の幼い頃に教えてくれたもので、殆ど趣味のようなものながら、手はもうプロのものになってしまっているのだろう。
 キュアに参加するのは暇つぶしだった。どこかの誰かが、こんなゲームをつくると言い出して、私もそれに集った一人だった。
 そもそもキュアの目的は、「救済」だ。世の中で行き場を失っている人たちが楽しめるように、という思いでつくられたものだ。製作者には「学校で不快な思いをした者」が多くいて、そんな人間を少しでも減らしたい、と言うことらしい。
 私が救済されているかどうかはともかく、この目的がためにキュアには、ミーハー受けするような要素があまりない。グラフィックはあまり派手ではないし、凝っている部分と凝っていない部分の差が大きい。アバター編集についてはかなり薄いし、音楽やその他いろいろな部分も、安いといえば安い。
 そのため、コミュニケーションなどの部分はかなり凝っている。ネットゲームの域から少し出るくらいに、学校やその他色々な場所で起きた嫌なことが掲示板やチャットに書かれる。ユーザーはそれに慰めや同情などの声を与える。このキュアという空間が、彼らの救いの場なのは違いない。
 私もまた、世の中に打ち解けない人物の一人で、この空間をつかうことがあった。親身になって考えてくれるユーザーの話もそうでないユーザーの話も目にした。
 私の悩みは、自分の精神年齢と他人の精神年齢が合わず、あまり会話が楽しいと思えないということ。キュアの住民は割と精神年齢が高いので、私に合っているように感じられた。こんなに露骨に精神年齢の低い人物を嫌うのもまたひとつ、子供である証拠だ、と言われ、考えさせられ、納得し、ひとつ大きくなったように思えたのも、この場所があったからだ。キュアには感謝している。
 だから私は、キュアの平穏を脅かす者を許さない。許したくない。
 コードでもウイルスでもなんでも使ってやる。絶対に許さない。そんなのは干渉させない。そんなのはゴミだ。荒らし以下だ。絶対に息の根を止めるまで許さない。
 そう決意して、私は空を走った。ついてくるジュンと共に。
 ジュンと一緒なのには苛々しているさ、時々吐き気すら覚えるさ。だけど、甘えない。それは、私がジュンに対して苛々しているのの数百倍苛々しているものがあるから。
 ふざけるな、なんなんだ、人の命をなんだと思っている、人類を馬鹿にするな、地獄へ落ちろ、地獄へ帰れ、この世のどんな罵倒を用いても罵倒しきれない――。
 殺したい。



 チーン!
 チ、チーン!
 チチ、チチチチーン!
 チチ、チチチ……!

 A!
 AAぁ!
 ああ aAAaaaaAAaaaaaaaAAAaaЭЭЭЭAAAAAээээAααααAAAA……!

 mレオネオrねrんヴぇおろあだmpなえおいcをえw
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 ksなおボアw@『93223c3ん23swxmうぇcん3843

 世界が壊れ始める。
 歪み、揺れ、もやもやした感触が生まれる。
 空間が変わっている。オカシクなってきている。

「南部ドラゴンバレーをA判定・短時間でクリアしたときに発生する特殊なバグ」
 私たちが対峙しているのはこれだ。
 報告によればバグであるものの、これは明らかに意図的に仕組まれているものだ。とある悪魔、それも私のよく知るそれによって仕掛けられている。
 四度目の挑戦、負けるとアカウント削除。攻撃は攻撃力のくくりを凌駕している。しかしだからといってゲームの物理法則に従って動く。だからバグといえばバグだろう。
 このキュア内に存在するユーザーの内誰かが勝つことで消滅するものの、今まで誰も勝てた者はいない。
 そして今回は勝てるのか、
 判らない。

『あら、なな子ちゃん、また来たの?』
「来てやったけど、なにか?」
『あら、おぎやはぎみたい』
「知ってるね、人力舎でしょ」
『そうそう、眼鏡の二人よ』
「へぇ、テレビ見るなんて意外かも」
『此処にいるとね、色んな情報が入ってくるのよ。おぎやはぎくらい知っとかないと、若者にはついていけないものね』
「へぇ、めでたい頭してるね」