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遼州戦記 保安隊日乗 4

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「何か?アタシ等がいると都合が悪いことでもしてんのか?」 
 弁慶の泣き所を蹴り上げられてそのまま転がって痛がる島田。
「そう言うわけだ。世話になるぜ」 
 そう言ってランはいつの間にか同じようにトランクを持って待機していたサラの手引きで階段に向けて歩き出した。
「どうすんだよ!ちっちゃい姐御が来たら……」 
「みなの緊張感が保たれて綱紀が粛正される。問題ないな」 
「カウラ!テメエ!」 
 カウラと要がにらみ合う。ようやく痛みがひいたのかゆっくりと立ち上がったアイシャがすねを抱えて転げまわっていた島田の襟首をつかんで引き寄せた。
「正人ちゃん。サラが来てた様な気がするんだけど……それも指示書にあったの?」 
「ありました!なんなら見せましょうか?」 
 サラとの付き合いが公然の事実である島田が開き直る。そしてそのままアイシャは胡坐をかいて目をつぶり熟考していた。
「茜さんは元々仕事以外には関心が無い。問題ないわね。ラーナも同じ。そしてサラはいつも私達とつるんでいるから別に問題ない。そうすると……」 
「やっぱちびじゃねえか!問題なのは!」 
 要とアイシャが頭を抱える。ほとんどの隊の馬鹿な企画の立案者のアイシャとその企画で暴走する要にとってはそのたびに長ったらしい説教や体罰を加える元東和陸軍特機教導隊の尾に隊長の保安隊副長クバルカ・ラン中佐と寝食を共にするのは悪夢以外の何者でもなかった。
「まあ、おとなしくしていることだ」 
 そう言うと立ち上がったカウラが要の首根っこを掴む。
「わあった!出りゃ良いんだろ!またな」 
 立ち上がる要。アイシャはぶつぶつ独り言を良いながら立ち上がる。
「まったく。面倒な話だな」 
 島田も彼女達を一瞥するとそのまま立ち上がり、誠の部屋のドアを閉めた。
『だんだん大所帯になるなあ』 
 そう思いながら着替えをしていた誠だが、すぐに緊張して周りを見回した。先ほどの隠しカメラの件もある。どこにどういう仕掛けがあるかは島田しか知らないだろう。そう思うと出来るだけ部屋の隅で小さくなって着替える。
「寒!」 
 思い出してみれば窓が開いたまま。とりあえず窓を閉めてたんすからジーンズを取り出した。そのまま何とか出勤できるように上着を羽織って廊下に出た。いつものようにあわただしい寮の雰囲気。夜勤明けの整備班員が喫煙所から吐き出す煙を吸いながら階段を下りて食堂に入る。
 今日の食事当番はアイシャだった。いつもの事ながら要領よく味噌汁などを配膳しているアイシャを見て誠は日常を取り戻した気がした。
「誠ちゃん!サービスでソーセージ二本!」 
 管理部の眼鏡の下士官からトンクを奪って誠のトレーに一本限定のはずのソーセージを載せる。
「良いんですか?」 
 思わず振り向いた先に嫉妬に狂う同僚達の冷たい視線が突き刺さる。
「良いんだって!」 
 そうアイシャに言われてそのまま味噌汁を受け取り、ご飯を盛り付ける誠。
「おう、これが飯を食う場所か?」 
 ランの声が響くと隊員達は一斉に立ち上がり小さなランに敬礼する。保安隊の副長である彼女は悠然と敬礼を返してアイシャが食事の盛り付けをしているところにやってきた。
「ランちゃんも食べるの?」 
 アイシャに何度注意しようが『ちゃん』付けが直らないことで諦めたラン。
「おー、朝飯なら食ってきたからな。それより今日はここの施設を見て回ろうと思ってな」 
 この一言に半数の隊員がびくりと震えた。寮の規則は管理部の基礎を固めた先代の管理部部長、アブドゥール・シャー・シン大尉が作成したものだった。だが規律を重んじる現在は異動になって同盟軍教導部隊副長が作成した寮則も島田の温情で有名無実なものになっており、多くの隊員は寮則の存在を忘れていたところだった。当然同じように規律を重んじるところのあるランが動けばどうなるか。それを想像して食事をしていた隊員達の箸の勢いが鈍るのが誠にも見えた。
「私達は勤務だけど……菰田君?案内は」 
 アイシャの言葉にさらに数人の隊員が耳を済ませているのが分かる。技術部整備班班長の島田正人准尉と管理部経理課課長の菰田邦弘主計曹長の仲の悪さは有名である。島田の車好きにかこつけて寮則違反の物品を部屋に溜め込んでいる隊員には最悪の事態なのが誠にも見て取れた。
「案内なんていらねーよ。それに菰田に案内させると困る連中もいるんだろ?」 
 そう言って子供の姿からは想像もできない意味深げな笑いを浮かべるラン。その姿に隊員達はほっと胸をなでおろした。
「アイシャ!いつの間に来たんだ?」 
 ようやく要が革ジャンを着て現れる。その後ろからはいつもどおり保安隊の勤務服姿のカウラがついてきていた。
「なあに、無駄なことをしないだけよ。誰かと違って」 
 そのまま二人の喧嘩に巻き込まれるのもつまらないと思って誠はそのまま食堂の隅にトレーを運んで行った。
「それじゃあちょっと休むからここ座るぞ」 
 そう言って要達ににらみをきかせるように、小さなランがちょこんと誠の前の椅子に座る。それを見て菰田が彼女を見つめている警備部の禿頭にハンドサインで茶を出すように合図した。
「菰田、気を使いすぎると老けるぞ。なー」 
 ランの言葉だが、一見幼女の彼女が老獪なのは知れ渡っていて指示された隊員が厨房に走る。
「まったく、つまらねー気ばっかり使ってるなら書類の書式くれー覚えて欲しいもんだな」 
 そう言って足が届かないので椅子から足を投げ出してぷらんぷらん揺らすラン。
「やはり器がでかいねえ、中佐殿は。じゃあ……」 
「図書館の件も許してくれるのよね!」 
 隣に座ろうとする要を押しのけてアイシャが顔を出した。
 図書館。本来は島田が部下に許してビデオやゲームなどを集めた一室を作っていたのが始まりだった。本来なら女性に見せたくないその部屋だが、アイシャが誠の護衛の名目でこの寮に居座ると彼女がさらに大量のエロゲーを持ち込んだ。その圧倒的な量でついには壁をぶちぬいて拡張工事を行い、現在図書館はちょっとした秘密基地と呼べるようになっていた。
「ああ、その件ならサラから聞いてるぜ。勝手にしろよ。ただし……」 
 ランはそのまま菰田に目を向けた。
「アタシの写真を加工してみろ。どうなるか分かるだろ?」 
 遼南内戦末期の共和軍の切り札と呼ばれた彼女の鋭い眼光に、菰田が周りのシンパを見回す。
 ランの保安隊副長就任以来、菰田率いる貧乳女性『ぺったん娘』を信仰する秘密結社『ヒンヌー教』は以前からのネ申であるカウラ・ベルガーをあがめる主流派とロリータなクバルカ・ラン中佐を愛好する反主流派の派閥争いが続いていた。
 菰田が周りを見回すと同意する主流派と目をそらす反主流派の隊員の様子が誠からも見て取れた。
「おう、分かれば良いんだ。なんだ、神前。食えよ。遠慮するな」 
 そのテーブルのメンバーを覚えたと言うように一瞥したランの一言で菰田達が乾いた笑顔を浮かべてるのを気にしながら誠はソーセージに食いつく。
「でも中佐殿が来てここの寮の名前がかなり看板に偽りありになってきたな。『男子下士官寮』って言うが男子でも下士官でもないのが増えすぎだよ」