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遼州戦記 保安隊日乗 4

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 そう言って嵯峨はタバコをもみ消した。誠が周りを見るとすでにランは携帯端末の画面を開いてカウラと要を両脇にすえて小声で打ち合わせを始めているところだった。
「当たり前だが指揮官はつけるよ。カウラが指揮を担当でバックアップは要だ。文句は無いよな?」 
 嵯峨の言葉にまだ誠は納得できずに呆然と立ち尽くしていた。
「確かに第二小隊の編成ならそうでしょうけど……」 
 ためらう誠の肩に嵯峨が手を置いた。
「一応隊長命令だ。よろしく頼むぞ」 
 嵯峨はそのままソファーに身体を沈める。
「じゃあ行くぞ」 
 打ち合わせが終わった要に引きずられるようにして誠はそのまま明石の執務室を後にした。


 魔物の街 36


「お待たせしました!」 
 先頭切って小走りでカウラはトレーラーの隣に展開された仮設テントに入った。
「遅いわね」 
 テーブルで部下の技師達から報告を受けていた保安隊技術部部長の許明華大佐が視線も上げずに誠達を迎え入れる。
「マジで市街地で起動かよ?大丈夫なのか」 
 要はそう言いながら手前の端末を操作していた技術下士官をどかせてその端末を乗っ取る。
「一応、丙種出動許可は出てるわよ。治安維持活動と言うことだから使用できる機能に制限があるけどね」 
 そう言って笑いながら明華は隣で作業をしていたレベッカに声をかける。彼女は敬礼をするとそのままテントを出て行った。
「重力制御装置の使用禁止。パルス動力系統システムの封印。レールガンをはじめとする重火器の使用禁止……まあ当然といえば当然ですが」 
 カウラはポニーテールの後ろ髪を右手で撫でる癖を見せた。こういう時は彼女はかなり悩んでいることを誠も知るようになっていた。
「二次被害を出すわけには行きませんからね。でも本当に市民の避難の誘導とかは……」 
「馬鹿ねえ、神前曹長はそんな気を回す必要は無いのよ。それはマリアや安城隊長のお仕事なんだから。それよりそこ!」 
 明華の視線の先には端末を要に奪われておたおたしている整備員の姿が見える。仕方が無いと敬礼して見せた彼は要を指差す。
「いいわよ、西園寺大尉がシステム管制を担当するんだから。彼女はそこで管制を担当してもらうわ。でもまあ……」 
 ふとテントの入り口に歩き出した明華。そこにタイミングよくパイロット用ヘルメットと作業服を持ってきたレベッカが立っていた。
「一応こちらに着替えてね。どうせこの状況では対Gスーツなんて要らないでしょ?」 
「はあ」 
 まくし立てる明華に圧倒されるようにして誠はそのままテントから出ようとする。
「どこ行くの?」 
「ちょっと着替えを……」 
 そこまで誠が言ったところで明華は大きなため息をついた。
「酒が入るといつも脱いでるじゃないの。そこの奥なら場所があるからそこで着替えなさい」 
 どこかぴりぴりした雰囲気の明華に逆らえずに誠はそのままテントの奥に置かれた銃器の間でジャンバーを脱いだ。
「がんばれよー」 
 明らかにやる気の無い調子で小火器管理の責任者として使用火器のチェックをしていたキム少尉が声をかけてくるのに愛想笑いを浮かべながら誠はベルトに手をかけた。
「でもムジャンタ・ライラ中佐のレンジャーは何をしているんですか?」 
 着替えている誠を完全に無視しているカウラの言葉が聞こえる。
「ああ、ライラもバックアップで動いてくれるわよ。隊長が……気を利かせているみたいだけど……」 
 誠は上着のボタンをつけている。見ているわけではないのだが明華が苦笑いを浮かべているのが想像できた。
「隊長に父親を殺された傷はそう簡単には癒えないでしょうから私が窓口で話を進めたのよ。最初は正面から突入するなんて言い出して結構焦ったわね」
「まあ……でもあれは隊長の弟のバスバ帝の遼南からの分離独立を止めるためでしたよね。仕方ないんじゃ……」 
「そうは言うけど分かりきっていても心の整理はつかないものよ。人間って」
 作業着に着替え終わり装備を身につけている誠。暗い話も一段落したようなのでそのままヘルメットを手に二人の前に立つ。
「ああ、早かったわね。行きましょう」 
 そう言うとそのまま明華は誠とカウラをつれてテントを出た。トレーラーには巨大な保安隊の切り札の人型兵器アサルト・モジュール05式乙型が搭載されていた。
「じゃあ指揮だけど、そこの軽装甲車両でいいかしら?」 
 明華が指差したのは治安出動用として導入されたもののまるで使用機会の無かった軽乗用車に装甲を施した車両だった。
「では遼州同盟司法局所属、実働部隊第二小隊、出動します!」 
 カウラはそう言って明華に向けて敬礼すると走って車両へと向かう。誠はそれを見ながら05式のコックピットに乗り込んだ。
『おう、おせえぞ!』 
 システムを起動するとすぐに要の声が響いた。モニターには相変わらず私服で作業を続ける要の姿が見える。
「すいません!それより進行状況は?」 
 シートベルトを締める。起動したシステムが全集モニタを起動して同盟司法局ビルの周りの闇を映す。
『現在はレンジャーと同盟機動隊が厚生局に続く道の封鎖を始めたところだ。マリアの姐御は上空でヘリで待機中。作戦開始と同時に合同庁舎にラベリング降下で突入する準備は万全だ』 
 ニヤリと笑う要。隣のモニターが開き要の不謹慎な笑顔に頭を抱えるカウラが映し出された。
『神前曹長、すぐにデッキアップ。それから西園寺には最新のデータを私の手元に送るように』 
『人使いの荒い隊長さんだこと』 
 ぶつぶつとつぶやきながら首筋のスロットからコードを出して手前の端末に差し込んでいる要の姿が見える。
『クバルカ中佐達が動き出したな。狙いは合同庁舎の地下か……神前曹長!』 
 カウラの言葉に合わせてトレーラーのデッキアップが開始される。それまで寝ているような体勢だった誠も次第に垂直に起き上がっていく感触で興奮してくるのを感じていた。
 目の前には官庁街らしく煌々と光る窓からの明かりに照らされながら灰色の地に美少女キャラがたくさん書かれた『痛特機』が司法局の裏庭に聳え立つ。
『なるほど都会は良いねえ。これが豊川だったら町を破壊しながら進むことになるからな』 
 ニヤニヤと笑う要を一瞥した後、誠はそのままトレーラーから伸びるコードを愛機からパージして自立させた。
『とりあえずこのまま合同庁舎まで進行するぞ』 
 足元を走るカウラの軽装甲車両の先導で進む誠の『痛特機』。避難する官庁街の人々の視線が痛々しく突き刺さるがそれが誠には痛快だった。
『見られてるぞ、神前』 
 呆れたようにつぶやく要。だが、誠はそれに満面の笑顔で答える。
『現在地下通信ケーブルの中をクバルカ中佐の部隊が進行中だ。とりあえず視線をこちらに集めることが当面の目的になるな』 
 カウラの言葉が終わるまもなく目に入った合同庁舎からロケット弾が05式に浴びせられる。
『厚生局の対麻薬取締り部隊か。重火器はほとんど持っていねえはずだから余裕で……』 
 そう言う要の一言が思い込みだというのが誠は目の前の巨大な影ですぐに分かった。
『07式だと?こんなのも持っていたのか……神前とりあえず抜刀だ!』