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遼州戦記 保安隊日乗 4

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 カウラの叫びがコックピット内に響く。目の前には東都陸軍の海外派遣軍に一部採用されているアサルト・モジュール07式だった。手には市街地だというのにレールガンまで装備されている。誠はすぐに距離を取ればやられると察知して抜刀した。
 丙種出動では最強の武器である法術反応式サーベルを掲げて誠の機体が07式に斬りかかる。厚生局の機体だが、動きは明らかにランの教導部隊を思わせる的確な動きで荒い誠の斬撃を次々とかわす。
『神前!熱くなるな!』 
 カウラの言葉が響いたと同時に誠は期待が爆発で吹き飛ばされるのを感じた。誠の05式はバランスを崩しかけるが何とか左足を踏ん張らせて体勢を立て直しにかかる。
『空間破砕……相手も法術師か?』 
 おもわず要がつぶやいていた。干渉空間の内部の分子構造を一挙に崩れさせる空間破砕。ランが得意とする法術である。明らかに相手がランの教導を受けた法術師であることがそのことからも誠にも分かった。
『ランの餓鬼の教導を受けた法術使いのパイロット。難敵だな。距離は詰めておけよ』 
 要の言葉を待つまでも無く誠も体勢を整えながら敵のレールガンをけん制するように敵の右手に絡み付ける距離を保ちながら身構えている。
『今クバルカ中佐が突入した!現在例の化け物を捜索中だ。とりあえず時間を稼げ』 
 カウラの言葉で少し気が楽になった誠はじりじりと敵との間合いをつめる。距離が稼ぐのが無理だと悟ったのか、07式はレールガンを放り投げた。
「良い覚悟だ!」 
 その瞬間に07式の右側に回りこんだ誠はそのまま上段からサーベルを振り下ろした。相手も素早くレーザーソードを抜いてこれを受ける。激しい剣のぶつかる光が辺りを照らし出す。
『そのまま押せ!こういう場所でのシミュレーション経験の差を見せろ!』 
 要の叫びに合わせて今度は中段から突きを三回、下段から足を狙っての斬撃をくわえる。
 最後の右足への斬撃が直撃して07式は体勢を崩した。
「これで!」 
 誠は叫びと共に中段に構えたサーベルの突きを07式の頭部に突き立てる。07式の頭部ははじかれるように胴体を離れて路上に転がり落ちた。センサーを失い07式の動きが鈍る。
『右足を取れ!』 
 カウラの言葉が飛ぶと誠はそのままサーベルと07式の右足に突きたてた。動きを止めた敵機を見ながら誠は大きく肩で息をして気持ちを整えた。


 魔物の街 37


「信管が……っと抜けました」 
 島田は額の汗を拭い後ろで作業を見つめていたランに笑顔を向けた。ゆっくりと対人地雷の信管を取り上げて後ろのランに見せる。
「茜、上はどうなってる?」 
 ランは目をつぶり精神を集中して周囲の思念を感じ取り敵の動静を探っていた茜に声をかけた。
「四人……まだ増えそうですわ。でもかなり焦っているみたい……おそらくシュバーキナ隊の降下作戦が始まったんではないかしら」 
「じゃあこっちもオタオタしてられねーな」 
 ランはそう言うと背負っていたライフルのストックを伸ばして肩につける。ブービートラップが仕掛けられていた合同庁舎の地下に出るケーブルの検査用通路の扉にゆっくりと手を伸ばすラン。
「アタシの合図で突入だ……って島田?」 
 幼く見える彼女が見つめた先では慌ててシャムが愛用するショットガンを慣れない感じで構えている島田がいた。
「おい、大丈夫か?小便したいとか抜かしたらぶん殴るからな!それと銀色のマガジンの中の弾が対法術師のシルバーチップだ。間違えるなよ」 
 ランに言われて島田は慌てて自分の銃のマガジンを見た。そしてそれがいつもの黒い色だと確認すると大きくため息をついた。
「正人、慣れないなら下がっていても……」 
 サラにまで言われて目を見開く島田だが、背中をランに三回叩かれてようやく我に返ったように銃の安全装置を解除した。
「そうだ、それで良い。オメーがポイントマンだ。とりあえずここを出たらバックショットを乱射して弾幕を張れ」 
「バックショット?」 
 不思議そうな顔でランを見つめてくる島田に呆れたようにサラが耳元に囁く。
「それ、マガジンに赤いテープが張ってあるでしょ。それは中の弾が散弾で……」 
「分かってるよ!」 
 そう叫ぶと島田は合同庁舎の地下駐車場に続くドアに張り付く。そのまま続いて突入するつもりのランが島田の背中を触った。
「アタシから離れるなよ。茜、頼むぞ」 
 ランの言葉と共に茜が腰の刀、伊勢村正を抜いた。
「囮は得意なんですの」 
 ニヤリと笑った茜が正面に銀色の干渉空間を展開してそこに飛び込む。同時にランは島田の背中を思い切り叩いた。
「うぉー!」 
 飛び出した島田、目の前にいた三人の厚生局の武装局員が驚いて島田に目を向けるが、島田の散弾の乱射で手前の兵士がボディーアーマーに直撃を食らって吹き飛ばされる。上へと続く階段に立っていた兵士の後ろには転移した茜が立ち、素早くその肩に峰打ちでの一撃を与えた。
「ラーナ!サラ!」 
 残りの兵士の腹部に二発ずつ7.62mm弾を叩き込んだランが開いた扉の中にいる二人に進撃のハンドサインを出した。
「こちら地下突入隊!侵入に成功!これから探索に移ります!」 
 ラーナは走りながら腕にくくりつけられている通信機でカウラに向けて叫んだ。


 魔物の街 38


 同盟本部合同庁舎に強行着陸した兵員輸送ヘリから、ゆっくりとその長身にコートを突っかけて、保安隊警備部部長マリア・シュバーキナ大尉は降り立った。すでに警備の為に配置されていた厚生局の武装局員は銃創の治療を受けるか、後ろ手に縛られた状態で彼女の部下が確保していた。
「ランの部隊が突入か……准尉!」 
 マリアが叫ぶとすぐに頬に傷のある士官がマリアに駆け寄る。
「状況は?」 
 そう言うとコートのポケットからタバコを取り出すマリア。
「現在4階から上は完全に無力化されています。厚生局保安部のフロアーで現在抵抗を受けている状況ですが……」 
 准尉はそのまま前の大通りの方に視線を投げた。そこには厚生局の虎の子の07式の機能停止作業に映っている神前誠曹長のアニメの美少女の絵が一面に描かれた痛特機が活動中だった。
「士気は落ちるだろうな、あれを見れば。だが油断はしない方が良い」 
 タバコに火をつけるとそのまま捕虜達の隣に設置された通信機器に向かう部下達のところへ向かった。敬礼する金髪の男性オペレーター二人が不審そうな顔で自分を見上げていることを知るとマリアは彼女に付き従う准尉に笑顔を向けた。
「厚生局の職員はずいぶんと仕事を愛しているようね。自腹で胡州浪人を警備兵に雇ってまで自分達の研究の隠匿に努めるとは……どこかの誰かさんにも見習って欲しいわね」 
『おーい。聞こえたぞー』 
 通信機器からは間抜けな嵯峨の声が聞こえる。画像が開くとそこには狭い彼の愛車のスバル360の後部座席で踏ん張っている上司の哀れな姿が目に入った。
「隊長。別にそこで受けを取らなくても良いんですよ」 
 呆れたマリアの声に思わず隣の准尉が噴出す。すでに画像には映っていないが、運転をさせられているらしいアイシャ・クラウゼ少佐の笑い声がマイクに飛び込んできていた。