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遼州戦記 保安隊日乗 4

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 そう要に言われて誠も納得した。
「じゃあ行くぞ!」 
 マリアの笑顔を見ながら誠は商店街のアーケードに飛び込んだ。平日の日中と言うことで客の数は思ったよりも少なかった。
「はやってるんですかね」 
 誠の言葉に答える代わりに指をさすアイシャ。そこには腰に手を当てて胸を張るランが見えるが、隣にセーラー服姿の小夏の姿があった。彼女は部隊のたまり場『あまさき屋』の看板娘で、要とは犬猿の仲として知られていた。
「おい、小夏!学校はどうした!」 
「へーん!今日はテストで午後は休みですよーだ!」 
 いつものように突っかかる要に舌を出す小夏。いつもの事ながらすぐに同レベルで喧嘩を始める要にあきれ果てたという顔のマリア。
「おう、アイシャ。やっぱり気づいてて二人を呼んだんだな」 
「そうであります!中佐殿!」 
 そう言うとアイシャは素早く暖簾をくぐって店に消える。誠は『讃岐うどん』と書かれたのぼりを見ながら店の中に入った。
「ラン、いい加減うちを会議場にするの止めてくれないかな」 
 店に入ると出汁の香りが広がるが、そんな中、厨房から顔を出したのは嵯峨が情報屋として使っている久間次郎の脂ぎった顔だった。
「別に良いじゃねーか!ちゃんと代金は払っているし……なんならショバ代でも払おうか?」 
 それほど大柄ではない久間を見上げている有様が親子のようでほほえましいと思いながら誠はそのまま奥のどんぶりに向かった。
「いっちばーん!」 
 いつの間にか脇をすり抜けてきた小夏が飛び出してどんぶりを手にする。
「春子さんのところの娘か……いいのか?」 
「なあに、もうすでにアタシが隊長になったときのための内々定が出ているから良いんだよ」 
 そう言いながらランは列の最後尾に着いた。
「外道は昆布出汁だからアタシは鰹味にしてー……」 
「いつまで人を外道扱いするんだよ」 
「そりゃあ店を壊さなくなったらよ」 
「最近は壊してねえだろ?」 
「じゃあ神前の兄貴を苛めなくなったら」 
「苛めてるわけじゃないぞ!」 
「じゃあ、何?……ははーん」 
「なんだよその目は!」 
 小夏の後ろに割り込んできた要。小夏は二玉、要は三玉のうどんを取り、ゆで汁に入れた。そしてすぐに取り出す要をしり目にじっくりゆでる小夏。要は昆布汁の色の薄い出汁を、小夏は色が濃い鰹出汁を選ぶ。そして要は油揚げ、ねぎ、春菊のてんぷらをトッピングし、小夏はコロッケとちくわを乗せた。
「ここで!」 
 誠も知っていたが、遼南風うどんは最後に一味唐辛子と青海苔をかける。小夏は大量にどちらも染まるまでかけるが、要は一味唐辛子をぱらぱら振っただけでそのまま代金をメモしている割烹着の若い女性の前を通り過ぎた。そして青海苔をかけるのに手間取っている小夏に向けて勝ち誇った笑みを浮かべた。
「西園寺。貴様は子供か?」 
 うどん一玉に鰹出汁、そして厚揚げとさつま揚げ、ごぼう天をトッピングしたカウラが一言言うと奥の座敷に向かう。微笑むリアナはうどん二玉に昆布出汁。トッピングはかき揚げだけだった。マリアはうどん三玉。トッピングはせず、昆布の出汁に大量に青海苔をかける。
「私はこれよ!」 
 アイシャが大げさに叫んでみたのはうどん二玉にえび天とアナゴ天。そして一味唐辛子で真っ赤に汁が染まったものだった。
「アイシャさん。それはやりすぎじゃあ……」 
 誠はそう言いながらニヤニヤと誠のチョイスを見つめているアイシャを見ながらどんぶりを手にした。
「じゃあ僕は……」 
 誠はどんぶりを手に取る。とりあえず二玉のうどんを取ってみた。
「二玉で足りるのか?」 
 カウラがつぶやく。仕方なくもう一玉とって茹で始めた。
「じっくり茹でた方がおいしいわよね」 
 今度はアイシャだった。本当は硬めがいいのだが言われるままにしばらく茹でている。そして昆布出汁。
「別にアタシに気を使う必要もねえのにな」 
 要に言われてつい愛想笑いが浮かんでいる。そしてトッピングはイカ天と春菊のてんぷら。
「なんか趣味がコアよね」 
 そこにリアナから声がかかる。誠は肩を落としてわざわざ誠の選択を見に戻ってきた人々と共に奥の座敷に入った。
「今頃はタコとライラが面つき合わせているだろうな。タコの奴も茜に恩は売りたいだろうし、ライラは叔父貴憎しで情報はなかなか手放さないだろうし……」 
 自分のどんぶりを手にした要はそうつぶやくと割り箸を口で割った。誠は自分達の謹慎がおそらくはタコこと元保安隊副長明石清海中佐を介しての情報がまとまるまでの時間稼ぎだったことにようやく気づいた。
「そうだな、たとえ主要任務が敵支配地域での情報収集が任務のライラの部隊も、戦場ではない東都で出来ることは任意の調査活動だけだろうしな。東都警察が対処療法以上の捜査はしない以上、同盟司法局が発行権限を持っている捜査令状は喉から手が出るくらい欲しいんじゃないかな」 
 カウラはそう言うと麺を啜りこんだ。
「明石さんてずいぶん偉くなったんですね」 
 誠は明石のつるつる頭を思い出す。本部に転属になった後も、週に二三度は野球部の練習に顔を出す明石清海中佐。
「司法局での対外窓口ってのが今のアイツのお仕事だからな。今回の件もライラが令状が欲しければ明石に頭を下げるのが手順と言う奴だ」 
 ランがもぐもぐとうどんを頬張っている。その姿に誠は萌えを感じてしまっていた。そして周りを見回してみるとアイシャとサラ、そして要までもが小さな口でもぐもぐとうどんを頬張るランをちらちらと眺めているのが見えた。
「おい、オメー等。アタシの顔に何かついてるのか?」 
「クバルカ中佐!」 
 突然大声でアイシャが叫んだ。
「おっ?おい、なんだ?」 
「抱きしめても良いですか?」 
「はあ?」 
「馬鹿言ってんじゃねえ!」 
 目を輝かせているアイシャを思い切りはたく要。だが、要もまたちらちらと不思議そうな顔をしてうどんを頬張るランを見つめてはため息をついていた。
「でも本当にランの姐さんはかわいいですねえ」 
「撫でるんじゃねえ!」 
 ランの頭に手を伸ばそうとした小夏をランは力の限りにらみつけた。だがどう見ても小学校一二年生にしか見えないランの迫力ではたかが知れていた。
「そのなりじゃあ、すごんでも無駄だろ?」 
 白い調理服の久間の言葉にランは照れるように頷いてうどんを啜る。
「ああ、そうだ。抜刀隊は動いているはずだよな」 
 口元にねぎをつけたまま汁を啜って一息ついたラン。幼く見える面差しが自分の麺を喜んで食べている様を微笑みながら見ている久間に向いた。
 『抜刀隊』嵯峨に従う遼南での憲兵隊時代からの部下達。多くが前の大戦が終わり、戦争犯罪容疑で軍籍を剥奪された後も嵯峨の私的な援助で活動しているまさに嵯峨家の犬だった。
「それがねえ……」 
 そう言うと久間はタバコを取り出す。
「タバコを吸ってもいいのか?」 
「ここは俺の店なんで。西園寺の姫様には遠慮していただきたいですね」 
 久間がライターに火をともす。沈黙の中、小夏が一人うどんを啜った。
「俺達も黙って見ていたわけじゃないんだ。実際、三つの研究施設の破壊に成功している」 
「じゃあなんで……」