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遼州戦記 保安隊日乗 4

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 ノリノリの要をたしなめるカウラ。だが慎重な言葉とは裏腹に一段飛ばしで颯爽と階段を駆け上がっている。呆れているラン達を尻目に誠、要、アイシャ、カウラは素早く三階の西の部屋にたどり着いていた。
「おい!上官達の訪問だ!諦めて部屋を開けろ!」 
 要がドアを叩く。誠達は呆れながら要を見つめていた。
「ああ、西園寺大尉」 
 すぐに扉が開いて西が顔を出す。すぐさま計ったように素早くアイシャが部屋に飛び込み、扉をカウラが固定しているのを見て誠も悪乗りして後に続く。
「あのー……シンプソンさん?何をしているのかしら?」 
 立ち尽くすアイシャの前にゲーム機のコントローラーを持って座り込んでいるレベッカが見えた。
「『戦国群雄伝 国盗り物語』」 
 誠も西の端末の画面を見た。そこには髭面の日本の戦国時代の武将の顔が映されている。
「渋い……って言うかなんで非番の日に部屋でこんなゲームやってるんだ?しかも二人で」 
 ただその事実に要は呆然と西達を見つめていた。
「へえ、西君がオリジナル大名で出てるんだ……国は和泉……畠山氏をいじったのね」 
 こういうゲームには詳しいアイシャはレベッカからコントローラーを奪うと武将の能力値の確認を始めた。ついてきた要も生暖かい視線でレベッカと西を見比べながら画面を覗き見ている。
「家老が叔父貴……これって能力の最高値は?」 
 今にも笑い出しそうな要。止めるべきかどうか悩みながら後ろのカウラに目を向けるが、彼女も呆れつつも興味があるようで画面をちらちらと盗み見ている。
「設定は100までだけど改造ツールを使えば150まで……ああ、ノーマルねこれ」 
 ニヤニヤが止まらないアイシャ。こうなっては誰も手が出せないので、部屋の主の西も苦笑いでアイシャと要を見守るしかなかった。
「知性98、武力99。チートねえ、でも……西君。忠誠60で不満が80になってるわよ……って義理が0じゃないの!謀反起こされるわよ!」 
「へ?これ初級ですよ。謀反は起きにくい設定なんじゃないですか?」 
 何をしても無駄だと悟っている西。苦笑いを浮かべながらそう言って画面を見る。
「馬鹿ねえ、この性格設定は松永弾正より謀反が起きやすい状況じゃないの。俸禄を増やして……」 
 完全にゲームのコントローラーを独占して操作を始めるアイシャ。入力が終わるとすぐに要がコントローラーを奪って再び武将情報の画面に切り替える。
「大名が西?いつの間にアタシ等が部下に……」 
 そこまで言って要のニヤニヤに火がついた。さらに隣のアイシャも薄ら笑いを浮かべながらレベッカを見つめる。うつむいて時々西を見つめるレベッカ。
「おい、なんで妻がレベッカなんだよ。いいねえ純情で」 
「西園寺さん!黙っていてください!お願いします!」 
 要に土下座を始めた西。だがそんな西が入り口を見て表情を硬直させたのに気づいて誠達も入り口に目をやった。
「おう、西。休暇か」 
 そう言って部屋に入って来たのは先ほどまで縛られていたようでどこか顔色の冴えない島田だった。そのまま西がちらちらと見ている端末の画面を覗き見る。
「ゲームやってたのか」 
 落ち着いている島田に誠達は胸をなでおろす。だが、いつの間にかコントローラーを手にしていた島田がすぐに情報画面を開いたのを見て西が頭を抱えるのが見えた。
「西家、妻がレベッカ・シンプソン中尉。これはかなりむなしくないですか?」 
 レベッカが大きな胸に手を当てて苦笑いを浮かべている。すぐに島田は画面を見て情報を探す。
「姫武将が多いな……西園寺要」 
「おっ!アタシか」 
 要はすっかり仕切り始めた島田の言葉で飛び上がる。そして画面の正面に座っていたアイシャを押しのけるとそこを占領して画面を食らいくつように見つめる。
「知力52、武力100」 
「西!」 
 島田から数値を聞くや、西の首には要の腕が絡みついていた。ぎりぎりと首を締め上げていく要の鋼の腕にもがき苦しむ西。レベッカやカウラが取り押さえようとするが、それに面白がるように要が今度は締め上げつつ振り回し始めた。
「次はアイシャ・クラウゼ」 
 島田は騒動を無視して相変わらず画面の操作を続けていた。
「知力82か。使えますねえ」 
「当然でしょ……って!武力72?ちょっと!西君!」 
 今度はアイシャが要に締め上げられていた首を抜いてようやく落ち着いた西を悲しげという言葉を超越した視線で見つめる。西はただ愛想笑いを浮かべながらデータを検索する島田を見つめていた。
「ああ、ベルガー大尉ですか。知力75、武力88」 
「おい、西。なんで西園寺より私の能力が劣るんだ?」 
 西はカウラの言葉に今にも泣き出しそうな表情を浮かべる。
「おい、島田。アタシのはあるか?」 
 そして先ほどまで部下達の様子を黙ってみていたランまでもが声をかける。
「ちょっと待ってくださいよ……クラウゼ中佐っと」 
 楽しげに検索する島田。完全にうつむいて動かなくなった西。
「知力83、武力96か。順当かな?」 
「じゃあ私はどのようになっておりますの?」 
 今度は茜が顔を出す。島田は言われるままに検索を続ける。
「この前の撮影会の写真を使ったのか」 
 近くの豊川八幡宮の時代行列に参加するために嵯峨の私物の鎧兜の試着をしたことを誠は思い出していた。
「でもこの時代じゃ変じゃないのか?あれは源平合戦の時期の大鎧だぞ。まあアイシャは当世具足だからこの時代の設定でも良いかもしれないけどさ」 
「こだわるわねえ。でも要ちゃんの写真良いじゃない」 
 ステータス値の出ている画面には必ず武将の顔が写っているが、そこの写真はすべて先日の鎧兜の試着の写真が使われていた。
「おい!神前!」 
 データを検索していた島田が誠の肩を掴んだ。気がついて誠もそこに映る自分の能力値を見てみた。
「知力63、武力58」 
「馬鹿だな、そっちじゃなくて妻の欄見てみろよ!」 
 島田は誠の首を抱えて画面に近づける。そこには正妻が要、側室にアイシャとカウラの名前が並んでいた。
「良かったな!モテモテじゃん」 
 笑顔の島田とサラ。だが隣で明らかに殺気を帯びている二人を見て誠は後ずさる。
「神前。お前って奴は……」 
「ひどい!私とは遊びだったのね!」 
 カウラとアイシャの殺気が部屋に充満する。
「いい身分だな。遼南皇帝にでもなれるんじゃないか?」 
 そう言いながら島田からコントローラーを取り上げて検索を続ける要。味方は誰もいないと気づいた誠はさらに後ろに下がりついに壁際に追い立てられる。
「オメー等馬鹿か?これは西の設定だろ?」 
「西きゅんがこう見てるって事は整備の隊員が同じ事を考えているって事でしょ?」 
「そうだな」 
 ランの説得もむなしく怒れる二人は壁際に追い詰められた誠を威嚇していた。
「そのーあの、皆さん。謹慎を命じられたといってもこう遊んでばかりでは……」 
「良いんだよ」 
 コントローラーをいじる要。その様子は落ち着いていた。いつもの彼女なら壁やドアにでも八つ当たりをするのではないかと思っていた誠だが別にそう言うわけでもなくただ面白そうに画面を眺めている。
「良いんじゃねーの?」