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遼州戦記 保安隊日乗 4

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 ヨハンの受け売りの言葉をつぶやいた誠。だが彼の前には感情を殺した表情のカウラの姿があった。
「その時はこれまでどおり爆弾として使う。それにいったんノウハウを把握できれば再生産が可能なのは私達『ラストバタリオン』の製造で分かっていることだ」 
 そう言うとカウラはメロンソーダを飲み干してその缶を握りつぶした。
 その時、突然カウラの携帯端末が着信を告げた。取り出したカウラの端末には発砲する要とそれを見ながら端末を覗きこむランの姿があった。
「中佐!大丈夫ですか!」 
 思わずカウラが叫ぶのを聞くとランは苦笑いを浮かべた。
「要の馬鹿がやりやがった!相手は胡州軍の駐留部隊だ」 
 そう言うと画面から離れてサブマシンガンで掃射を行うラン。そして全弾撃ちつくすとマガジンを代えて再び端末に向かう。
「隊長には連絡したから向こうの発砲も収まるだろうが……どうせ拘束されるから身柄の引き受けに来てくれ」 
 ランは通信を切った。
「何やったんだ?あの無鉄砲が」 
 そう言うとカウラはメロンソーダを飲み干してホルダーに缶を差し込む。そのままエンジンをかけて車は急加速で租界の入り口へ向かう幹線道路へと走り出す。
「胡州軍か。これは隊長の大目玉は確実だな」 
 カウラはそうつぶやくとさらに車を加速させる。瓦礫を運ぶトレーラーの群れを避けながら進むカウラのスポーツカー。再び端末に着信を知らせる音楽が流れる。
「頼む、見てくれ」 
 そう言われるまま手に取った端末には死んだ魚の目の嵯峨が映っていた。
「おう、駐留軍の基地に向かってるか?」 
「ええ、今急行しています」 
「うむ」 
 誠の返事を聞くと頭を掻く嵯峨。隣に目をやるのはそこに吉田がいるからだろうと推測がついた。
「同盟軍とはやりあいたくは無いんだけどな、いつかは世話になるかもしれないし。だが起きたものは仕方が無いよね。ベルガー、頼んだぞ。あくまで穏便にな」 
「了解しました!」 
 そのまま通信は途切れた。
「理由は?なんで撃ちあいなんかに?」 
「ああ、そうか。説明してなかったな」 
 急ハンドルを切って幹線道路に飛び出すカウラ。ようやくパトランプを点灯させそのまま租界へと向かう。
「例の志村とか言うチンピラを追って胡州軍の資材管理の部署までたどり着いたんだそうだ。今日はそこの調査に出るって話だったんだが。定時連絡ではそこで不審な経費の明細を提出している士官がいるって事で二人はその人物の身柄の確保に動いたんだ。だが、この状況からいてその部署どころか駐留軍の部隊長クラスが糸を引いてたらしいな。逆に捕まりそうになって要坊がたまらず拳銃を抜いたんだそうな。正当防衛って線で胡州軍とは話をつけたいんだが……難しそうだな」 
 そう言うカウラの前には租界のバリケードが見える。急ブレーキで臨検の兵士の直前で車を停止させるカウラ。バリケードの影から兵士達がわらわらと沸いて車を囲い込む。
 誠は銃口を向けられながら取り囲まれる雰囲気に圧倒されて両手を挙げて周りを見渡した。


 魔物の街 14


 保安隊隊長室。保安隊隊長嵯峨惟基特務大佐は渋い顔で目の前の部下達を眺めていた。隊長の机の前に立たされている誠。膝が震えているのが自分でもすぐにわかった。租界の警備兵の向けてくる銃口が誠のトラウマになりかけてその結果が誠のひざを震えさせていた。
 おかげで嵯峨が何とか胡州陸軍の上層部に頭を下げて回ったおかげで要とランが暴れまわったことの釈明の書類を提出することで話をつけていた。被害は警備車両三台に負傷者十二人。胡州の醍醐文隆陸軍大臣とのコネクションでなんとか要とランも駐留軍の警備施設の監獄でなく保安隊の隊長室に立って嵯峨の困り果てた顔を見ることができた。
 ともかくさまざまな出来事に振り回された誠の頭の中は何も考えられない状況だった。
「で?」 
「ですから今回の件に関しては私の見通しの甘さが原因であると……」 
 幼く見えるランが銃撃事件の責任を一人でかぶろうとする。その姿はあまりにもいとおしくて誠は抱きしめたい衝動に駆られた。隣で立っているカウラも同じように思っているようでじっとランを見つめている。
「まあ起きちゃったんだからしょうがないよね。死人が無かったのは何よりだ。おかげで何とかマスコミにはばれないで済んだけど」 
 そう言って手元の端末の画面を覗きこむ嵯峨。
「今後は気をつけます!」 
 ランの言葉に頷いた後、嵯峨は要を見つめた。
「……出来るだけ自重します」 
「そう」 
 嵯峨は端末のキーボードを素早く叩く。
「一応決まりだからさ。始末書と反省文。今日中に提出な」 
 ランと要に目を向けた後、そのまま端末の画面を切り替えて自分の仕事をはじめる嵯峨。ラン、要、カウラ、誠は敬礼をするとそのまま隊長室を後にした。
「大変ねえ」 
 部屋の外で待っていたのはアイシャだった。要はつかつかとその目の前まで行くとにらみつける。
「タレ目ににらまれても怖くないわよ」 
 挑発するように顔を近づけるアイシャだが、その光景を涙目で見ている楓の気配に気おされるように身を引いた。
「お姉さま!」 
 心配そうな顔の楓はそう叫ぶと要に抱きついた。
「嫌です!僕は嫌です!せっかくお姉さまと同じ部隊になれたのに!お姉さまが解雇なら僕も!」 
「誰が解雇だよ?おい、アイシャ」 
 楓に抱きつかれて身動きできない要が逃げ出そうとしているアイシャを見つける。
「デマは止めておけ」 
 そう言うとカウラは呆れたように実働部隊の執務室に向かう。誠が見回すとランの姿ももう無かった。
「神前!見捨てるのか?テメエ!」 
 しかしこの二人に関わるとろくなことがないだろうと思えてきたので、誠はそのまま要を見捨てて実働部隊執務室へと入った。
「仲が良いのか、悪いのか」 
 そう言って笑うカウラ。部屋の中では外の三人の漫才をはらはらしながら見つめている渡辺の姿があった。一方すでに書類の作成に集中しているランの隣にはいやらしい笑みを浮かべるシャムの姿があった。
「おっこられた!」 
 実働部隊の詰め所に響く彼女の叫びを無視して、ランは作業を続ける。猫耳をつけたシャムが絡み付こうとするがその襟首を吉田が掴んでいる。
「離せー!」 
 暴れるシャムだが120kgの重さの義体の吉田を動かすことは出来なかった。
「でもいきなり街中で発砲なんて……」 
 つい誠の口をついてそんな言葉が出ていた。
「東都戦争のときの方が凄かったらしいぞ。シンジケートの抗争が24時間絶え間なく行われていたんだからな」 
 そう言うとカウラも自分の端末を起動する。仕方ないと言うように誠も席についた。いつものように第四小隊は任務中で空。奥で第三小隊の三番機担当のアン・ナン・パク軍曹が一人でかりんとうを食べていた。
「二人とも今のうちに日常業務を済ませておけよ。忙しくなるかも知れねーからな」 
 始末書を書き始めたランの一言。カウラも端末の画面に目が釘付けになっている。起動した画面を誠は見つめて呆然とした。
 そこには銃撃戦を行うランと要の姿とその射線から逃げる胡州陸軍の戦闘の様子が映っていた。
「どこでこんな映像!」