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遼州戦記 保安隊日乗 3

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『ああ、みんなも知っていると思うが、現在バルキスタンの選挙管理・治安維持目的で第四小隊及びバックアップグループが展開しているわけだ。そのバルキスタンで停戦合意をしていたイスラム系反政府組織が停戦合意を破棄した。理由はありきたりだが選挙態勢に不正があり信用できないからだそうな。もうすでに政府軍の反攻作戦が展開中だろうな今頃は』 
 そう言うと嵯峨のアップからバルキスタンの地図に画面が切り替わる。ベルルカン大陸西部に広がる広大な湿原地帯と山脈を貫く乾燥した山地が続くのがバルキスタン共和国だった。そしてバルカイ川下流の都市カイザルに赤い点が打たれ、その周りの色が青色に、中央山脈からのムルガド首長国国境沿いに緑の地に染められていく。
『緑色が先週までの反政府軍の統治エリアだ。だが、今度の攻勢で……』 
 嵯峨の声の後、すぐに青色は緑色のエリアに侵食されて行った。
「あそこの組織は機動兵器はもってねえはずだよな」 
 前に立っている要が誠に声をかける。
「そんなこと僕が知るわけないじゃないですか」 
 誠が答えると要はにやりと笑いながら画面に視線を戻す。レアメタルの鉱山を奪い合うと言うバルキスタン内戦に於いてはキリスト教系民兵組織出身の現政権の首領エミール・カント将軍も敵対するイスラム教系反政府組織も潤沢な資金を注いで軍の増強に努めていた。だが、地球圏がカント将軍派を正当な政府と認証した十二年前の協定により、イスラム教系組織へのアサルト・モジュールなどの輸出は禁止され、内戦は政府軍の優位のうちに進展していた。
 その状況に不満を持っていた遼州同盟加盟国の西モスレム首長国連邦と地球圏のアラブ連盟は遼南の首都央都での協約でカント将軍に民主的な選挙の実施と言う案を飲ませてカント将軍の力を削ぐ方針を固めた。彼らは遼州同盟各国からの選挙監視団の派遣を要請、地球からも治安維持部隊の導入を進め選挙はまさに行われようとしていたところだった。
 だが、目の前の地図はその合意を反故にして反政府軍は侵攻を開始していることを示していた。
『ああ、ここで質問があるだろうから答えとくよ。これだけの規模の侵攻作戦となると反政府軍はアサルト・モジュールを所有していることが必要になってくるな。答えから言うとそのアサルト・モジュールの供給源はカント将軍様だ。まったく敵に塩どころか大砲を送るとは心が広い将軍様だなあ。お前等も見習えよ』 
 そう言う嵯峨の声に技術部のあたりで笑いが起こる。だが、それも明華の鋭い視線に収まり、そのまま画面は嵯峨の顔を映した。
『何のことはない。政府軍も反政府軍も今回の選挙は無かったことにしたいんだ。そのためには敵に鉄砲でも大砲でも送るし、明らかに民衆の支持を得られない大攻勢でも平気でやる。残念だが遼州人も地球人もそう言うところじゃ変わりはねえんだ』 
 嵯峨の口元に残忍な笑みが浮かぶ。誠達を見つめているランの顔がゆがんだのを誠は見逃さなかった。
『そこでだ。遼州同盟司法局は央都協定二十三条第三号の規定に基き甲一種出動を行う。すべての任務にこれは優先する。各隊の作戦の立案に関しては明石に全権を一任する!以上』 
 嵯峨は再びまじめな顔で敬礼する。そして画面が消えた。
「甲一種か……燃える展開になりそうじゃねえか」 
 誠を振り返る要の視線に危なげな喜びのの色が混じる。誠は冷ややかに笑いながら周りを見渡した。
 そんな誠は明らかに動揺していた。
 保安隊のあらゆる武装と能力を制限無しに使用可能な甲一種出動態勢。以前の胡州のクーデターである『近藤事件』ですら下りなかった全武装使用を許される作戦行動。隊員達の視線は壇上の明石に集まった。
「おう!今のを見ての通りじゃ。ワレ等もそんだけの覚悟せいっつうこっちゃ」 
 そう言いながら隣に立つ吉田に目配せをする明石。再び画面に映像がでる。大型輸送機が映し出される。
「P23。東和軍北井基地の所属の機体じゃ。これに第二小隊……ベルガー!」 
「はっ!」 
 明石に呼ばれたカウラが一歩歩み出る。
「お前んとこの三人がこいつで敵陣に斬りこんでもらう。輸送機のパイロットは……菰田!」 
「はい!」 
 管理部の先頭に立っていた菰田が一歩進む。
「お前さんはこいつの飛行時間が一番長いんじゃ。パイロットをやれ」 
「了解しました」 
 そう言ってカウラに微笑みかける菰田をカウラは完全に無視した。そんな中、思わず笑いを漏らすアイシャを明石の視線が捉えた。
「クラウゼの……。ワレが前線で仕切れ。そんぐらいの仕事はせえよ」 
「了解しました」 
 アイシャがすぐにまじめな顔で敬礼する。
「第一段階担当は以上じゃ!それでは各員、吉田から指示書のディスクを受け取って解散!」 
 そのまま演台から下りる明石。カウラ、菰田、アイシャがそれぞれ吉田からディスクを受け取っている。
「おい、タコ。あれだけ広がった戦線に3機のアサルト・モジュールでどうしろって言うんだよ」 
 要のその言葉で誠は我に返った。広大な領域に戦線を拡大させたイスラム武装勢力をたった三機の戦力でどうこうできるものではないことは誰にでも分かることだった。だが、そんな作戦の立案を依頼された明石には奇妙なほどに余裕が感じられた。そして彼はそのまま視線をランに向ける。
「わからねー奴だな。第一小隊じゃなくてオメー等にお鉢が回ってきた理由。考えてみろよ」 
 そう言うランにいたっては勝利を確信しているように見えた。
「確かに戦線は急激に拡大しているな。でもよー配備されている治安維持部隊も激しく抵抗して戦線は入り乱れて大混乱状態なんだぜ。そこで核だの気化爆弾だの敵味方関係なく皆殺しにするような兵器を使ってみろや。同盟崩壊だけじゃすまねー話になるだろ?そこで先日の秘密兵器だ」 
 不適な笑いを浮かべる一見少女のようなランの言葉に誠もようやく事態を飲み込んだ。
「法術非破壊広域制圧兵器?」 
 なんとなく口に出た誠の言葉。ランは笑いながら頷いた。
「そういうわけだ。タコ!冷蔵庫借りるぞ」 
 そう言うと返事も待たずに歩き出すラン。カウラはその後に続く。
「ですが、中佐。あの兵器の実用のめどは……」 
「あれで十分だ。アタシが保障するぜ。出力は上がることはあっても下がらねーはずだからな」 
 小さな上司ランが余裕たっぷりの表情で振り返る。
「あんな実験だけでそのままの実力が出せるかどうかなんて……」 
 そうこぼす要をランがいつもの睨んでいるとしか思えない視線で見つめる。要は気おされるようにそのまま黙り込んだ。ハンガーの階段を上り、誰もいない管理部と実働部隊の部屋を通り過ぎる。隊長室は留守だった。だが、先ほど見た嵯峨の映像が誠の脳裏に写り、いつもは感じない隊長である嵯峨への控えめな敬意が芽生えていることに気づいた。
「アイシャ。ついて来てるか?」 
 その声に誠が振り向くとそこにはアイシャとパーラがいた。
「当たり前じゃないの。それより今回の作戦の成功は……」 
 セキュリティーを解除して振り返るランの視線に迷いは無かった。
「失敗すると分かって動く馬鹿は珍しいんじゃねーの?アタシとしては任務成功の確立は八割は堅てーと思うがね」