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遼州戦記 保安隊日乗 3

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「いえ、いつまでも子供で……シャムさんと一緒に馬鹿なことばかり。もう少し女の子らしくしなさいって言ってるんですけどねえ」 
 そう言って笑いあう二人。小夏はもとより、要もカウラも唖然としてその様子を見ていた。
「ちび……じゃなくて教導官はお春さんとお知り合いなんですか?」 
 無理に敬語を使おうとしながら要が言った言葉に軽く頷いたラン。
「まあな。隊長がちょっと用があるからって時々連れ出されてな。もう四年も前か?胡州陸軍の馬鹿と撃ちあいになったこともあったなあ」 
 そう言って要を見上げるラン。誠も二人がなぜ知り合いなのかすぐに分かった。四年前の東都での非合法密輸ルートの権益をめぐり、さまざまなシンジケートや支援する国家が非正規部隊を投入して行われた抗争劇『東都戦争』。春子はシンジケートの幹部の情婦として、要は胡州シンジケート、後の近藤資金を確保する非正規部隊員としてその抗争劇に参加していた。そしてその中に嵯峨の姿があったらしい言う噂も知っていた。
「ちっけえから気付かなかった……うげ!」 
 余計なことを言った要が腹にランのストレートを食らって前のめりになる。
「それより誰か先に着てるんじゃねーのか?」 
「ええ、リアナさんとマリアさんが来てますよ。それと……」 
 春子はそう言うと入り口に目をやった。携帯端末を手に持ったポーチに入れようとする明華がいる。
「ああ、着いたんだな。隊長はもうすぐ着くそうだ。それと茜はパーラ達の車に便乗するはずだったけど車がないと面倒だって。それで吉田だが……」 
 そこまで言うと、明華は急いで二階に駆け上がる。誠達もその後に続いた。
「はーあ、勘弁してくれます?」 
 宴会場の窓から顔を出す吉田。その額にはマリアのバイキングピストルが押し付けられている。
「くだらないことをするもんじゃないな」 
 そう言うとすぐにジャケットの下のホルスターに銃をしまうマリア。
「マリアちゃんたら!それと吉田君。あんまりふざけてばかりいたら駄目よ。一応、誠君達の上官なんだから。ちゃんと見本になるような態度をとらないとね」 
 そう言ってリアナは空になったマリアのグラスにビールを注ぐ。
「気のつかねー奴だな」 
 そう言ってランは誠を見上げる。誠は飛び上がるようにしてリアナのところに行って、彼女からビール瓶を受け取ろうとする。
「いいわよ、本当に」 
「でも一応、礼儀ですから」 
 そう言って遠慮するリアナから瓶を受け取ると、リアナが手のしたグラスにビールを注いだ。
「オメーラも座れよ。隊長達が来たらそん時に乾杯やり直せばいいだろ?」 
 自然と上座に腰をかけたランがそう言って一同を見回す。窓から入ってきた吉田とシャムが靴を置く為に階段を降りるのを見ながら、誠と要、そしてカウラはリアナの隣の鉄板を囲んで座った。
「それじゃあ、皆さんビールでいいかしら?ああ、カウラさんは烏龍茶だったわよね。それと要ちゃんはいつものボトルで……」 
 そう言って春子はランを見た。
「いいんじゃねーの?」 
 上座で腕組みをして座っている幼く見える上官を要とカウラは同じような生暖かい視線で見つめる。
「なんだよ!テメー等は!」 
「甘いサワーかなんかの方が良いんじゃねえのか?」 
 要のその言葉に、鋭い目つきにさらに磨きをかけるようにして要を睨むラン。
「おう、わかった!ビールだ!春子さんビールで!」 
 そう言ってすることもなく割り箸を取って割ってみせるラン。
「じゃあビールね」 
 そう言うと春子はシャムと吉田とすれ違いに階下に下りていく。
「ランちゃんビール飲めるようになったんだ!」 
 シャムのその言葉に誠はランを見つめた。
「飲めるよ!昔から。ただ……」 
「苦いのが嫌いだとか言うんだろ?ホントお子様だなあ」 
 そう言う要を睨みつけるラン。だが、そんな子供っぽい正体をさらしてしまうと、誠にも再びランが見たとおりの幼女に見えてきた。
「おう、着いたぞ!」 
 そう言って階段を上がってきたのは嵯峨だった。続いてくる茜はいつもどおり淡い紫色の地に雀が染め抜かれた着物を着て続いてくる。
「茜。和服で運転は危ねえだろうが」 
「ご心配おかけします。でもこちらの方が慣れていますの」 
 そう言うと茜はランの隣に座る。嵯峨もランが指差した上座に座って灰皿を手にするとタバコを取り出した。
「あの、隊長」 
 カウラが心配そうに声をかける。
「ああ、お子様の隣ってことか?わかったよ」 
 そう言うと嵯峨はタバコをしまった。ランはただ何も言わずにそのやり取りを見ている。
「ちょっと誠君、手伝ってくれるかしら?」 
 顔を出した春子。最近では誠はほとんど従業員のように使われている。あまさき屋には他にも源さんと言う板前がいるが、もう60を過ぎた体に無理はさせられない。いつものようにちょっとした集まりでもビール一ケースを軽く空ける保安隊の飲み方では必然的に誠のような雑用係が必要になる。
 以前は同じ役回りをシャムがしていたらしいが、今ではそれは誠の仕事になっていた。誠は立ち上がるとそのまま階段を降りて、小夏が抱えているビールのケースを受け取る。
「ああ、間に合ったみたいね」 
 そう言って店に入ってきたのはアイシャとパーラだった。
 それを見たアイシャの反応は早かった。素早く誠の手からビール瓶を奪い取り、春子の盆からグラスを取り上げると真っ直ぐにランの前に座った。
「では、中佐殿お注ぎしますね」 
 満面の笑みを浮かべて、口元が引きつっているランのグラスにビールを注ぎ始める。
「おっ、おう。ありがとーな」 
 なみなみと注がれたビールを微妙な表情で眺めるラン。気付けば茜やシャムがビールを注いで回っている。
「オメエも気がつけよ」 
 そう言うと要は誠にグラスを向ける。気付いた誠は素早く要のボトルからラム酒を注ぐ。
「おう、じゃあなんだ。とにかく新体制の基盤ができたことに乾杯!」 
 そう言って嵯峨が音頭をとって宴会は始まる。じっとランが目の前の自分のコップの中のビールを見つめている。一口だけ酒や烏龍茶を口に含んだ一同はランの冷や汗を流している姿を見ていた。
「やっぱ、餓鬼には無理かねえ」 
「無理じゃねーよ!」 
 要の挑発に乗るようにしてランはグラスに口をつける。そのまま伸びをするようにしてビールを飲み干していく。
「あ、あのう。大丈夫ですか?」 
 心配性なパーラが声をかけた。グラスのビールを飲み干したラン。彼女が思い切りゲップをする。
「汚ねえなあ……」 
 そう言う要を睨みつけた後、ランはアイシャにグラスを差し出す。
「もう一杯だ、注げ」 
 そう言われて慌てたようにアイシャは瓶を取り上げてビールを注ぐ。またなみなみと注がれたビール。覚悟を決めたと言うように一気に喉に流し込むラン。急にランの表情が変わった。飲み干して、じっとグラスを見るラン。
「うめーな」 
 ポツリとつぶやくラン。その言葉に要は慌てたような表情を浮かべる。
「嘘言うなよ、苦いの嫌いなんだろ?」 
 そう言ってラム酒を飲み干した要をタレ目で見つめるラン。