ハローベイビィ
呼び出し音。一回、二回と数える。ドリの緊張が感染したみたいで、タロの心臓も忙しなく騒ぎ出す。五回を数えたところでちらりとドリの様子を盗み見ると、大きな目から今にも涙が零れ落ちそうになっていた。どうか出てくれと、祈りながらドリから目を逸らす。十回を数えると、もうドリの方を見ることが出来なかった。もうイチは電話に出ないだろうと思いながら、切ることが出来ない。破裂しそうなドリの絶望がぴりぴりと皮膚を刺激する。
「もう、いいわ。」
三十を数えたところで降ってきたドリの声は、タロの体を冷たくした。表情の抜け落ちた声。涙が出るような切なさや不安を通り越してしまった声。
タロは、ばッと勢いよく顔を上げた。
「見舞いに行こう。」
「……。」
「風邪とかでしんどくて、電話にも出られないのかもしれない。」
行くだろう? と尋ねた。
ドリは顔を歪めて、一度だけ頷いた。その表情は涙を堪えているようにも、笑っているようにも見えて。タロの胸を深く深く抉るように、灼(や)きついた。