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遼州戦記 保安隊日乗 2

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「ああ、そちらの奥の棚にありますよ」 
「サラ、とりあえず二かけくらい剥いてよ」 
 サラは棚からにんにくを取り出すと剥き始める。
「臭くなっちゃうじゃない」 
 ぽつりと呟くサラの隣のカウラが冷静にサラのにんにくを剥く手に目をやった。
「当たり前のことを言うな」 
 再び誠から受け取った慣れない包丁でにんじんを輪切りにするカウラ。その視線が食堂に注がれる。
「要ちゃん!手伝ってよ」 
 喫煙所から帰ってきた要が手持ち無沙汰にしているのを見つけたアイシャ。その言葉を聴いて躊躇する要だったが、誠と目が合うとあきらめたように厨房に入ってきた。
「何すればいいんだ?」 
「ジャガイモ剥いていくから適当な大きさに切ってよ」 
 アイシャに渡されたジャガイモをしばらく眺める要。
「所詮コイツはお姫様だ。下々のすることなど関係が無いんだろ?」 
 挑発的な言葉を発したカウラに一瞥かました後、むきになったように要はジャガイモとの格闘を始めた。
「あまり無茶はしないでね」 
 そう言うとパーラは油を引いた大鍋ににんにくのかけらを放り込んだ。
「誠君、肉とって」 
 手際よく作業を進めるパーラの声にあわせて細切れ肉を手渡す誠。
「良いねえ、アタシはこの時の音と匂いが好きなんだよ」 
 ジャガイモを手で転がしている要。
「要ちゃん、手が止まってるわよ」 
「うるせえ!」 
 アイシャに注意されたのが気に入らないのかそう言うと要はぞんざいにジャガイモを切り始めた。
「西園寺、貴様と言う奴は……」 
「カウラ。それ言ったらおしまいよ」 
 不恰好なジャガイモのかけら。カウラはつい注意する。そしてアイシャが余計なことを言って要ににらみつけられた。
「誠っち!ご飯は?」 
 サラがそう言って巨大な炊飯器の釜に入れた白米を持ってくる。
「ああ、それ僕が研ぎますから」 
 そう言うと誠はサラから釜を受け取って流しにそれを置く。 
「ずいぶんと慣れてるわね」 
「まあ週に一回は回ってきますから。どうって事は無いですよ」 
 そう言いながら器用にコメを研ぐ誠を感心したように見ている要、カウラ、アイシャ。
「じゃあここで水を」 
 パーラはサラに汲ませた水を鍋に注ぎ、コンソメの塊を放り込んだ。
「ジャガイモ、準備終わったぞ」 
「じゃあ今度はにんじんとたまねぎを頼む」 
「おい、カウラ。そのくらいテメエでやれ!」 
「切るのはお前の十八番だろ?」 
「わかったわよ!要ちゃん私がやるから包丁頂戴」 
 仕事の押し付け合いをするカウラと要に呆れたように、要から包丁を奪ったアイシャがまな板の上でにんじんとたまねぎを刻む。
「意外とうまいんですね」 
 確かにアイシャの包丁さばきはカウラや要よりもはるかに手馴れていた。
「そう?時々追い込みの時に夜食とか作るからね」 
「同人誌作りも役に立つ技量が得られるんだな」 
「そうよ、要ちゃん。冬コミの手伝い来てくれる?」 
「誰が!どうせ売り子はアタシ等に押し付けて買いだしツアーに行くくせに」 
 そう言いながら要はアイシャが切り終えた食材をざるに移した。
「いい匂いだな」 
 食堂に来たのは菰田だった。厨房の中を覗き込んで、そこにカウラがいるのを見つけるとすぐさま厨房に入ってくる。
「菰田。テメエ邪魔」 
 近づく彼に鋭く要が言い放った。
「そんな、西園寺さん。別に邪魔はしませんから」 
「ああ、あなたは存在自体が邪魔」 
 そう言うとアイシャは手で菰田を追い払うように動かす。思わず笑いを漏らした誠を、鬼の形相でにらみつける菰田。しかし、相手は要とアイシャである。仕方なく彼はそのまま出て行った。
「あの馬鹿と毎日面を合わせるわけか。こりゃあ誤算だったぜ!」 
 要がカウラを見やる。まな板を洗っていたカウラはいまいちピンと来てない様な顔をした。
「なるほど、もうそんな時間なわけね。誠君、ご飯は」 
「もうセットしましたよ」 
「後は煮えるのを待つだけだね」 
 サラがそう言うと食堂に入ってきた西の姿を捉えた。
「西園寺大尉!」 
 西は慌てていた。呼ばれた要は手を洗い終わると、そのまま厨房をでる。
「慌てんなよ。なんだ?」 
「代引きで荷物が届いてますけど」 
「そうか、ありがとな」 
 そう言って食堂から消える要。
「要ちゃんが代引き?私はよく使うけど」 
「どうせ酒じゃないのか?」 
 カウラはそう言って手にした固形のカレールーを割っている。
「さすがの要さんでもそんな……」 
 言葉を継ぐことを忘れた誠の前に、ウォッカのケースを抱えて入ってくる要の姿があった。
「おい!これがアタシの引っ越し祝いだ」 
 あまりに予想にたがわない要の行動に、カウラと誠は頭を抱えた。


 保安隊海へ行く 30


 翌朝、誠は焼けるような腹痛で飛び起きた。そのままトイレに駆け込み用を済ませて部屋に帰ろうとした彼の前にいつの間か要が立っていた。
「おい、顔色悪りいぜ。何かあったのか?」 
 昨日、ウォッカの箱を開けるやいなや、すぐさま彼の口にアルコール度40の液体を流し込んだ要。それが原因だとは思っていないような要に呆れながらそのまま部屋に向かう誠。
「挨拶ぐらいしていけよな」 
 小さな声でつぶやくと、要はそのまま喫煙所に向かった。部屋に戻り、Tシャツとジーパンに着替えて部屋を出る。今度はカウラが立っている。
「おはよう」 
 それだけ言うと、カウラは階段を下りていく。誠も食堂に行こうと歩き始めた。腹の違和感と頭痛は続いている。
「昨日は災難だったわねえ」 
 階段の途中で待っていたのはアイシャだった。さすがに彼女は要にやたらと酒を飲まされた誠に同情しているように見えた。
「酒が嫌いになれそうですね。このままだと」 
 誠は話題を振られた方向が予想と違っていたことに照れながら頭を掻く。
「それはまあ、要ちゃんのことは隊長に言ってもらうわよ。それにしてもシャワー室、汚すぎない?」 
「これまでは男所帯だったわけですからね。島田先輩に言ってくださいよ」
 そんな誠の言葉にアイシャは大きくため息をついた。 
「その島田君がしばらく本部に泊り込みになりそうだって話よ」 
 食堂の前はいつものだらけた隊員達が雑談をしていたが、カウラとアイシャの姿を見ると急に背筋を伸ばして直立不動の体勢を取った。
「ああ、気にしなくて良いわよ」 
 アイシャは軽く敬礼をするとそのまま食堂に入った。厨房で忙しく隊員に指示を出しているヨハンが見える。とりあえず誠は空いているテーブルに腰を下ろす。当然と言った風にカウラが正面に、そしてアイシャは誠の右隣に座った。
「とりあえず麦茶でも飲みなさいよ」 
 やかんに入った麦茶を注いで誠に渡すアイシャ。誠は受け取ったコップをすぐさま空にした。ともかく喉が渇いた。誠は空のコップをアイシャの前に置いた。
「食事、取ってきて」 
 誠の態度を無視して顔をまじまじと見つめたアイシャがそう言った。
「あの、一応セルフサービスなんですけど」 
「上官命令。取ってきて」