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遼州戦記 保安隊日乗 2

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「そう言えば姐御にはお世話になってるからな」
 するすると明華に近づいてビール瓶を差し出す要。 
「おい、西園寺。なにかたくらんでいるな」 
 明華はそう言いながらもグラスを要に差し出す。
「止めとけばいいのに。誠ちゃんもう空けたの?じゃあ私が注いであげる」 
 要を見ながらそう言うとアイシャが誠にビールを注いでやった。
「加減しておけよ。また誠が暴走したら私は知らないからな」 
 そう言いながらカウラは手をかざして鉄板の具合を見ている。
「なんだ、まだ始めて無いのか?仕方ねえなあ」 
 戻ってきた要は、すぐさまもつとキャベツを鉄板の上に広げる。他のテーブルの鉄板でも同じようにタレをつけられたもつが焼かれ、肉の焼ける香ばしい香が部屋に満ちてくる。
「おい、小夏!アタシのボトル持って来いや!」 
 叫ぶ先の小夏はあからさまに嫌そうな顔をしながら階段を下っていく。 
「貴様また小細工して誠を潰す気か?」 
「なに怖い顔してるんだよ。姐御の門出にそんなことしたらどうなるかアタシでも判るよ」 
 要が残っていたビールを飲み干す。その隣ではアイシャがニヤニヤしながら要を見つめていた。
「気持ち悪いな。アイシャ、先に言っとくがコイツはアタシの部屋じゃなんにもしてねえからな」 
「何か言ったかしら?私」 
 アイシャはグラスを持って一口飲む。そして、すぐさま誠のコップが空だとわかると手近なビール瓶を持って誠に差し出した。
「調子に乗るなよ、アイシャ」 
 カウラは叱るような調子でアイシャをにらむ。だが、誠にはアイシャの酒を拒む勇気はなかった。黙ってその有様を見つめながらパーラは一人で鉄板の上を切り盛りしていた。
「おい、外道!持って来たぞ」 
 小夏がぞんざいに要の前にウィスキーとラム、それにテキーラのボトルを並べた。
「いいねえ、こう言うささやかな幸せっていう奴を大事にしたいもんだ」 
 そう言いながらビールが少し残っていると言うのにテキーラを注ぐ要。
「出来ましたよー!」 
 パーラが声を上げると同時にアイシャがキャベツをモツのタレに絡ませて手元の皿に集めた。
「キャベツ取り過ぎだろ!アイシャ!」 
「え?そう?いつもは野菜はいいから肉食わせろって騒ぐ癖に」 
「じゃあ私はこれをもらうか」 
 大き目のもつの塊を箸でつかむカウラ。手元のもつを見つけると、誠も箸を伸ばす。
「誠。お前も飲め!」 
 コップに半分以上注いでいたテキーラを飲み干し、ウィスキーに手を伸ばした要が、そのまま誠のコップを奪い取るとそのまま注ぎ始めた。
「だからそれを止めろと言うんだ!」 
「だって注いじまったからな!ささ、ぐっとやれ!」 
 勢いだった。誠は言われるままに喉にしみるウィスキーを一息で飲み干した。
 喉を焼くウィスキーのアルコールに顔をしかめる誠。カウラは心配そうに見つめている。
「飲みましたよ!」 
「おお、いいじゃねえの!さあ次だ」 
 そう言うと誠の手からコップを奪い取り、今度はラムを注ぎ始めた。
「貴様等、いい加減にしろ……」 
「こうなったらもう駄目でしょ。ああ、やっぱり鉄板で焼いたキャベツはおいしいわ」 
 手を出そうとするカウラと無視を決め込むアイシャ。
「次、行くわよ」 
 パーラは残ったもつを自分の皿に移すと、またモツとキャベツを鉄板に拡げる。誠は景色が回り始めるのを感じていた。
「本当に大丈夫なのか?」 
 声をかけるカウラの声に少しばかりためらいが感じられるのは、誠の顔の色が変わってきているからだろう。要に渡されたコップを一度テーブルに置くと、誠はパーラが盛り付けてくれたモツに取り掛かった。
「遅くなりました」 
 マリアの声が響く。続くのはロナルド、岡部、フェデロ。そして遠慮がちに入ってくるのはレベッカだった。
「おい!眼鏡っ子!」 
 周りを気にしながら一人部屋に入るのを躊躇しているレベッカに要が声をかけた。
「私ですか?」 
「他に誰がいるんだよ。ここ座れ!」 
 要はそう言うと自分の隣の座布団を叩く。
「でも……」 
「でもじゃねえ!一応アタシが上官だ!上官命令って奴だ」 
 元々たれ目の要がさらに目じりを下げながら叫ぶ。
「じゃあ、すみません」 
 そう言いながらレベッカはパーラの後ろをすり抜けて要の隣の座布団に腰をかけた。
「畳の暮らしにゃ慣れてねえか?」 
「いえ、大丈夫です」 
 恐る恐る要を見つめるレベッカ。上機嫌にテキーラを煽る要。
「まずどれで行く?」 
 そう言うと要は三本の酒瓶をレベッカの前に並べて見せた。
「どれがいい?」 
 さらにそう言いながらにじり寄る要に眉をひそめるレベッカ。
「私は……ビールでいいです」 
「遠慮するなよ」 
 要の手がレベッカの肩をつかんだ。怯えるように低く声を上げるレベッカ。
「ビールで良いんだな?パーラ、一本取ってくれ。それにコップも!」 
 そう頼みながら今度は顔を近づける要。レベッカは怯えたようにあたりを見回す。
「西園寺さん。止めた方が良いですよ」 
「誠!一体何を止めるんだ?こう言う事か?」 
 要の右手がレベッカの胸に伸びる。
「あ!」 
 思わずアイシャが吹いた。カウラの烏龍茶の入ったコップを握る手に力が入る。
「だからそれを止めろと……」 
「だってぷにぷにして気持ち良いぜ!」 
 要の大声が部屋に響く。他のテーブルの隊員の表情は明らかに一つの言葉で説明がついた。
『またか』 
 そう思った彼等はそのまま誠の座るテーブルから視線をそらした。
「いいだろ?カウラ。おい、アタシの胸も触って良いぞ」 
 そう言ってレベッカの手を握ると自分の胸に当てる。
「要!」 
 いつの間にか要の隣まで歩いてきた明華がレベッカから要を引き剥がす。
「これ没収!」 
 そう言って要の前のボトルを次々と取り上げる。
「姐御!勘弁!マジで!」 
 少しろれつが回っていない要を見下ろしている明華。さすがに悪乗りが過ぎたと言うように要はレベッカから手を放した。
「ごめんねレベッカ。コイツ変態だから」 
「姐御酷いですよ!」 
 そう言いながらコップに残ったラムを飲み干す要。それを聞いていた誠の視界が急激に狭まってくる。
「そう言えばもう一人の問題児が……、大丈夫?」 
 明華の声が耳の奥で響く。轟音が誠の頭を襲っていた。
「いつもこんな感じなんですか?」 
 恐る恐るずれた眼鏡を直しながら、レベッカが尋ねた。
「まあそうね。こんなもんじゃないの?ねえ、アイシャ」 
「まあそうですね。いつもこんなものじゃないですか?」 
「確かにこういうものだ」 
 ゆっくりと烏龍茶を飲みながら、モツをつつくカウラ。
 レベッカは笑いを浮かべようとしていたが、引きつった頬は不器用な笑顔しか作れなかった。キャベツをつつく誠。彼がテキーラが入ったコップに手を伸ばすと、そのコップを明華が奪った。
「あんたも懲りないわね。もうぐだぐだじゃないの!」 
「大丈夫ですよ。平気ですから」 
 そう言いながら首がくらくらと回っているのは誠自身もよくわかっていた。
「どこが大丈夫なの?じゃあ、ビールにしましょう」 
 そう言うと明華はレベッカの前に置かれた瓶を手に取った。