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遼州戦記 保安隊日乗 2

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 突然、吉田から話題を振られて誠は周りを見回した。シャムは吉田にけなされたまんまの視線で誠を見つめる。タバコに火をつけた要だが、こういう場面でわざと視線を泳がせている時に下手なことを言えば何をされるかわからない。
「そうですね。特に胸が……」 
 地雷を踏んだ。そう誠が思ったとき、要は誠の右手に思い切り火の付いたタバコの先を押し付けた。
「それは禁句だろ?な?」 
 要らしいサディスティックな笑顔。誠は手の甲を見るがさすがにすぐに要が火を遠ざけてくれたおかげで火傷の跡は残っていない。だが明らかに自分の振った話題で予想通りの動きをした二人を満足そうに吉田は見つめている。
「お前もそう思うか?そうだよなあ」 
 そしてついに笑い始める吉田。しかし、誠は自分で言いだした話なのに横目で見つけた要の右手のタバコが震えるのを見て顔を引きつらせた。
「あれだな。形はたぶんアイシャかマリアさんの争いだが、大きさではどこかの人工巨乳を抜いてトップにたったな」 
「おい、吉田。オメエいっぺん死んだ方が良いぞ……」 
 机に置いた銃に手を伸ばそうとする要だが、次の瞬間には銃はシャムの手の中にあった。
「だめだよ要ちゃん!こんなの持ち出したら。それよりのど渇いた!」 
「じゃあビールでも飲むか!あるんだろ?」 
 マイペースな二人に肩をすくめた要がそのまま部屋を出て行った。
「いやあ、あいつからかうと面白れえな!」 
「吉田少佐。むやみに挑発するの止めてくださいよ」
 泣き言を言う誠を相変わらず面白そうに見つめている吉田。 
「ったく気の小さい奴だな」 
「誠ちゃんは臆病だからね!」 
 あっけらかんと笑う二人についていけない誠。ドアが開いて手にした缶ビールをシャムと吉田に投げる要。
「ビール投げるなよ!泡吹くじゃねえか!」 
 そう言いながらプルタブを引き、吹き出す泡をうまく口の中に収める吉田。シャムはしばらく落ち着かせようと銃と一緒にテーブルの上に缶を置いた。
「邪魔するなよ」 
 そう言うと要は酒瓶を横に避けて床に置かれた端末の箱を開けた。いくつものコードが複雑に絡み合っている。さすがに技術屋でもある誠にはそのアバウトな要の配線を見つめるとため息が漏れた。
「とりあえずそれと寝袋だけか?運ぶのは」 
「まあな。そう言うオメエ等は出張の準備は出来たのか?」 
 端末のコードを一本一本絡んでいるのを戻しながらジャックを引き抜いてはまとめる要。
「俺はトランク一つあれば十分だ。シャム、お前はどうした?」 
「あのね。あっちで買うから大丈夫。それにアイシャちゃんにアタシのチェックしている番組の録画も頼んだし」 
「どうせ特撮とアニメだけだろ?」 
 一際長い電源コードをまとめる要。図星と言うように頭を掻くシャム。
「それにしてもずいぶん古い端末使ってんな。島田辺りに最新の奴選んでもらったらどうだ?」 
 吉田の一言、また要の表情が不機嫌なものになる。
「余計なお世話だ。それにこいつには胡州陸軍関係のデータも入ってる。そう簡単には交換できるもんじゃねえよ」 
「ふーん」 
 特に関心も無いというように吉田はビールを飲みながら作業を続ける要を眺めていた。シャムはもう良いだろうと缶を開けたが、不意に吹き出した泡に慌てて口をつけた。
「リモコン見っけ!」 
 泡を吹こうとハンカチを出してしゃがんだシャムが要の持ち上げた端末の下から薄い何かを見つけた。
「備え付けのAVシステムかよ。こりゃ良いわ」 
 そう言うと要の許可も得ずにスイッチを押す吉田。 
「邪魔になるようなことはするなよ」 
 あきらめたような顔で要はつぶやいた。天井から巨大な画面が降りてくる。シャムの目が、急に輝きだしたのが誠からも良く見えた。
「ちょっと何が入ってるのかな」 
 そう言って内部データを検索する吉田。
「ドアーズ、ツェッペリン、ピストルズかよ。ずいぶん偏っていると言うかつまみ食い趣味と言うか……」 
「なんだ、ボブ・マーリーが無いのがそんなに不満か?」 
 要が端末を緩衝材ではさんでいる。
「なんだ、クラッシックもあるじゃねえの。ホルストの惑星。展覧会の絵。ピーターと狼。ずいぶんこれもなんだかよくわからねえ趣味だな」 
「最近の曲は無いの?」 
「ちょっと待ってろよ」 
 まるで自分達の部屋のように振舞う吉田とシャムに切れた要が吉田の手からリモコンを取り上げた。
「好き勝手なこと言うんじゃねえ!これでも見てろ」 
 そう言うと要はリモコンを奪い返して浪曲専門チャンネルに合わせた。
「あのなあ。俺は隊長と違ってこう言う趣味はねえんだけどな」 
「叔父貴との付き合いはオメエ等が一番長いんだ。上司を理解するのも大事な仕事だろ?」 
 そう言うと要はリモコンをポケットに入れて緩衝材ではさんだ端末をダンボールに押し込み始めた。一方部屋の半分の大きさもあろうと言う画面で、実物大の禿げた頭の浪曲師が森の石松の一説をうなっている。
「西園寺、あっさりこれが出てきたって事は見てるのか?」
 吉田は画面を不思議そうに見ているシャムから目を離すと箱にどう見ても入りそうに無いコードの束を押し込んでいる要に声をかけた。 
「爺さんが好きだったからな。ガキの頃よく家にもそちらの方面の人間が出入りしてたし」 
「世に言う『西園寺サロン』って奴か。その割にはまるっきりそう言う趣味ないよなお前」 
 吉田はそう言うとビールの缶を空にした。その隣で床に腰を下ろしたシャムは石松の最期のくだりを聞きながらなぜか大うけしていた。
「終わった」 
 一言そう言って酒瓶に手を伸ばす要。確かに箱には入ったがコードがその隙間から飛び出していてとても箱に入れたといえる状況では無い。
「早過ぎないか?まあ西園寺らしいがな」 
 そう言うと吉田は要からリモコンを奪い取りモニターを消した。静かに上がって収納されていく画面を不思議そうに眺めるシャム。
「それじゃあ、どうする?」 
「商店街でも顔出すか」 
 そう言って立ち上がる要。そのままベランダのドアを開け、吉田の肩を叩いた。
「帰るのも当然こっちだろ?」 
 ニヤニヤとベランダの向こうに垂れ下がっているロープを指差す要。
「俺の車に乗るんだろ?ちゃんとロープは回収するから頼むわ」 
 そう言うと吉田はベランダに出てロープを一回弛ませる。すぐさま上から鉤爪が落ちて来るのを受け取るとロープをまとめ始める。
「そう言えば吉田。最近、叔父貴に仕事を頼まれたことあるか?」 
 部屋を出ようとする吉田に要が声をかける。
「仕事ねえ、年中頼まれてるがどんな仕事だ?」 
「『カネミツ』がらみ、またはこいつの『クロームナイト』の関係でも良いや」 
 そう聞いて少し怪訝な顔をする吉田。
「遼南叩きのサイトなんかで流れてたな、そんな噂。年中立つ噂だが、今回はちょっとソースが特殊なんでね」 
 頭を掻きながら靴に足を突っ込む吉田。
「やっぱりデマか。でもどこだって言うんだ?ソースは」