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遼州戦記 保安隊日乗 2

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「そうよねえ。この部屋の賃料なら近くにロッカールーム借りても今の半分の値段だもの」 
 アイシャはゆっくりとリゾットをすする。
「しかし、島田の奴。将校に昇進したくせに何でここを出ないんですかね」 
「それは俺へのあてつけか?」 
 隣のテーブルにはいつの間にかヨハンが座っていた。
「シュペルター中尉は良いんですよ」 
 キムはそのまま誠達に向き直る。
「おい、キム。何しに来たんだ?」 
 高菜の握り飯を手にする菰田は明らかに不機嫌そうに見えた。
「決まってるじゃないですか。島田の馬鹿が手を貸せっていうもんで来たんですよ」 
「島田ねえ……」 
 そう言いながら高菜の握り飯を飲み込む菰田。
「そういえばグリファン少尉が来てないですね」 
「サラか?あいつは低血圧だからな」 
 リゾットを満足げに食べる要。携帯をいじっているアイシャはサラとパーラに連絡をつけるつもりだろう。周りを見れば当番の隊員達が食器を戻している。
「キム、また有給か?残りあるのかよ」 
「西園寺さんに心配されるほどじゃないですよ」 
 そう言うとキムはほおばっていたサンドイッチをコーラで胃に流し込んだ。
「サラとパーラなら駐車場まで来てるって。島田の馬鹿がメンチカツ弁当じゃなきゃ嫌だとか言ったもんで5件もコンビニ回って見つけてきたって怒ってたわよ」 
 携帯をしまうアイシャ。要はその隣で含み笑いを浮かべていた。
「すいませんねえ、待っていただいちゃって」 
 島田、サラ、パーラが出勤しようとする当番隊員を押しのけて入ってくる。
「別に待ってなんかいねえよ」 
 そう言いながらトレーの隅に残ったリゾットをかき集める要。カウラは散々文句を言いながら旨そうにリゾットを食べる要をいつものような冷めた目で見ている。
「ちゃんとおやつも買ってきたよ」 
 サラが机の上にポテトチップスの袋を置いた。さらに島田、パーラも手一杯の菓子やジュースをテーブルに広げる。
「ちょっと弁当食いますから。ジュン!後のことは頼むわ」 
 コンビニ弁当を広げる島田。愛称のジュンと呼ばれたキムはやかんから注いだ番茶を飲み干すと立ち上がった。
「じゃあ自分等は掃除の準備にかかります」 
 キムはエダ、そして食堂の入り口で待っている西をつれて消えた。
「誠、食い終わったか?」 
 番茶をすする要の視線が誠を捕らえる。
「まあどうにか。それじゃあ島田先輩、僕達も行きますよ」 
「頼むわ。すぐ追いつくと思うけど」 
 誠は島田の弁当を見て驚いた。もう半分以上食べている。
「島田先輩、よくそんな速度で食えますね」 
「まあな。俺等の仕事は時間との戦いだからな。神前もやる気になれば出来ると思うぞ」 
 一口でメンチカツを飲み込む島田。
「そんなことはどうでも良いんだ。サラとパーラ。ヨハン達を手伝ってやれよ。それじゃあ行くぜ」 
 立ち上がった要は、トレーをカウンターに持っていく。
「私達の分も持ってってくれたら良かったのに」 
 そう言いながらカウラと誠のトレーを自分の上に乗せ、カウンターまで運ぶアイシャ。
「別にそれくらいで文句言われることじゃねえよ」 
 要は頭を掻いた。
「それじゃあ行くか」 
 立ち上がったカウラと誠。ようやく決心がついたとでも言うように、菰田とヒンヌー教徒もその後に続く。
「菰田達!バケツと雑巾もう少し物置にあるはずだから持ってきてくれ」 
 食堂の入り口から覗き込んでいるキム。仕方が無いという表情で菰田、ヤコブ、ソンが物置へ歩き始めた。


 保安隊海へ行く 22


「ほんじゃあ行くぞー」 
 投げやりに歩き出す要。アイシャ、カウラもその後に続く。誠も仕方なく通路に出た。当番の隊員はすでに寮を出た後で、人気の無い通路を西館に向けて歩き続ける。
「しかし、ずいぶん使いかけの洗剤があるのね」 
 エダが持っている洗剤の瓶を入れたバケツを見ているアイシャ。
「ああ、これはいつも島田が掃除と言うと洗剤を買ってこさせるから……毎回掃除のたびにあまりが溜まっていってしまうんですよ」 
 誠は仕方がないというように理由を説明した。
「ああ、あいつ。そう言うところはいい加減だもんな」 
 窓から外を眺める要。マンションが立ち並んでいることもあり、ビルの壁くらいしか見ることが出来ない。とりあえず彼らは西館一階の目的地へとたどり着いた。奥の部屋にカウラが、その隣の部屋にアイシャが、そして一番手前の部屋に要が入った。
「なんやかんや言いながら気があってるんじゃないか」 
 ポツリとつぶやくキム。
「エダ、ベルガー大尉を手伝ってくれ、俺はクラウゼ少佐の手伝いをする」 
「私は誠ちゃんの方が良いなあ」 
 入り口から顔を出すアイシャをキムと要がにらみつける。
「お前と誠を一緒にすると仕事しねえからな。アニメの話とか一日中してたら明日の引越しの手伝いしてやらねえぞ」 
「わかりました、がんばりまーす」 
 すごすごと引っ込んでいくアイシャ。誠は左腕を引っ張られて要の部屋に入り込む。
「とりあえず雑巾絞れ」 
 そう言って雑巾の入ったバケツを突きつけてくる要。誠はすぐに彼女が何もしないつもりなのがわかった。
「わかりましたよ」 
 誠はとりあえず二枚の雑巾をバケツに放り込んで絞り始めた。要はその様子を見つめている。
「西園寺さんも手伝ってくださいよ。ここ西園寺さんの部屋になるんですよ」 
 無理とはわかりつつも二枚目の雑巾を絞る誠。正直心の中の半分以上は要の行動には期待していなかった。しかし、思いもしないほど素直に要は搾った雑巾を受け取った。
「まあ一回ぐらいは手伝ってやるよ。一回ぐらいはな」 
 要は雑巾を手に持つと、そのまま部屋の畳を拭い始めた。
「誠、聞いて良いか?」 
 一つ畳を拭き終わった要が起き上がり、手の上で雑巾をひっくりかえす。
「はい」 
 誠は壁についたシミを洗剤でこすって落とそうとしていた。
「オメエ自分の力をどう思ってる?二度も襲われてるんだ、それについてどう見るよ?」 
 要の言葉に誠の手が止まる。誠はとりあえず洗剤を置き、雑巾でシミのついた壁をこすり始めた。
「そうですね。何も知らない時の方が気楽だったかも知れませんね」 
「意外だな、お前のことだから怖いですって即答すると思ったんだけどな。わけわからねえで浚われた方が怖くないのか?」 
 誠の顔が要の方に向き直る。要は照れたように次の畳を拭き始める。
「自分に力があるなんていうことを知らなければ、ただの偶然でまとめられるじゃないですか。嵯峨隊長はあっちこっちで恨みを買ってますから、そのとばっちりってことで納得できる。自分に原因は無いんだってね。でも今回のは違いましたね。僕はもう自分が法術適正者だと知ってしまった。相手は他の誰でもなく僕を狙ってくるのがわかる。どこへ行っても、どこに隠れても、僕であるというだけで狙われ続けるんですから」 
 いくらこすっても取れないシミ。誠は今度は雑巾にクレンザーを振りかける。