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遼州戦記 保安隊日乗 2

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「仕方ないでしょう。我々は力を持っている。そして他の人々は持っていない。力のあるものが生き延びるのは宇宙の摂理で……」 
 再び遼州人の力を誇示するような言葉を口にした男に顔を上げて強くにらみつけた。男は誠の表情の変化に少しばかり動揺したように見えたがすぐさまポーカーフェイスに戻る。
「つまり交渉決裂と言うわけですか」 
『そうみたいですわね』 
 三人の頭の中に言葉が響く。男は周りを見回している。
「この声……茜(あかね)?」 
 要がつぶやくその視線の前に金色の干渉空間が拡がる。
 そこから現れたのは黒い髪。それは肩にかからない程度に切りそろえられなびいている。まとっているのは軍服か警察の制服か、凛々しい顔立ちの女性が金色の干渉空間から現れようとしていた。
 アロハの男は突然表情を変えて走り始めた。逃げている、誠達が男の状況を把握したとき、要に茜と呼ばれた女性はそのまま腰に下げていた軍刀を抜いた。そのまま彼女は大地をすべるように滑空して男に迫る。
 男が銀色の干渉空間を形成し、茜の剣を凌いだ。
「違法法術使用の現行犯で逮捕させていただきますわ!」 
 そう叫んだ茜が再び剣を振り上げたとき、男の後ろに干渉空間が展開され、その中に引き込まれるようにして男は消えた。
「逃げましたわね」
 その場に立ち止まった茜は剣を収める。誠は突然の出来事と極度の緊張でその場にへたり込んだ。
「茜さん?もしかして、師範代の娘さんの……」 
 近づいてくる東都警察の制服を着た女性を見上げる誠。
「お久しぶりですわね、誠君。それと要お姉さま」 
「気持ちわりいから要と呼べ!」 
 頭をかきながら要がそう言った。
「それよりその制服は?」 
 誠の言葉に茜は自分の着ている制服を見回す。
「ああ、これですね。要さん、私一応、司法局法術特捜の筆頭捜査官を拝命させていただきましたの」 
 誠と要はその言葉に思わず顔を見合わせた。
「マジで?」 
 明らかにあきれているように要がつぶやく。
「嘘をついても得になりませんわ。まあお父様が推薦したとか聞きましたけど」 
 淡々と答える茜に、要は天を見上げた。
「最悪だぜ……」
 要の叫びがむなしく傾いた日差しが照らす岬の公園に響いた。


 保安隊海へ行く 18


「それにしても要様の水着姿って初めて見ましたわ。たぶんクラウゼ少佐は写真を撮られているでしょうから楓さんに送ってあげましょうかしら?」
 ポツリとつぶやく茜。銃をホルスターにしまっていた要がにらみつける。
「おい、茜!そんなことしたらどうなるかわかってるだろ?」 
 こめかみをひく付かせて要が答える。日は大きく傾き始めていた。夕日がこの海岸を彩る時間もそう先ではないだろう。
「でも、茜さんの剣裁き、見事でしたよ」 
 ようやく平静を取り戻して立ち上がった誠。もう最後に彼女と手合わせしてから十年くらい経つが、明らかに当時とは違う鋭い踏み込みを褒めて見せた。茜はそのまま歩き始める。
「待てよ!」 
 追いかける要。誠もその後に続いて早足で歩く茜に追いついた。
「次期師範にそう言ってもらえるとは、ここに来ただけのことはありますわね」 
 浜辺に向かう道を歩きながらいつもの余裕に満ちた表情を浮かべる茜。松並木が切れた辺り、もう着替えを済ましたカウラとアイシャが走ってくる。
「何してたのよ!」 
「発砲音があったろ。心配したぞ」 
 肩で息をしながら二人は誠達の前に立ちはだかった。そして二人は先頭を歩く東都警察の制服を着た茜に驚いた表情を浮かべていた。
「なあに。奇特なテロリストとお話してたんだよ」 
 要が吐いたその言葉に目をむく二人。
「そして私が追い払っただけですわ」 
 得意げに話す茜。初対面では無いものの、東都警察の制服を着た彼女に違和感を感じているような二人の面差しが誠にも見えた。
「何でお嬢様がここにいるの?」 
 アイシャは怪訝そうな顔をして誠の方を見る。
「そうね、お二人の危機を知って宇宙の果てからやってきたと言うことにでもしましょうか?」 
 さすがに嵯峨の娘である。とぼけてみせる話題の振り方がそのまんまだと誠は感心した。
「まじめに答えてくださいよ。しかもその制服は?」 
 人のペースを崩すことには慣れていても、自分が崩されることには慣れていない。そんな感じでアイシャが茜の顔を見た。
「法術特捜の主席捜査官と言うお仕事が見つかったんですもの。同盟機構の後ろ盾つきの安定したお仕事ですわ。弁護士のお仕事は収入にムラがあるのがどうしても気になるものですから」 
 そう言うと茜は四人を置いて浜辺に向かう道を進む。どこまでもそれが嵯峨の娘らしいと感じられて思わずにやけそうになる誠を誤解した要が叩く。
「早く行かないと海の家閉まってしまいますわよ。すぐに着替えないといけないんじゃなくて?」 
 茜にそう言われて、気づいた要と誠は走り出さずにはいられなかった。
「そんなに急がなくても大丈夫よ!海の家の人には話しといたから!」 
 背中で叫んでいるアイシャ。
「あいつの世話にはなりたくねえからな」 
 走る要が誠にそう漏らした。
「要さんならもっと早く走れるんじゃないですか?」 
 誠はビーチサンダルと言うこともあって普段の四割くらいの速度で走った。
「良いじゃねえか。さっきもそうだけど今回も一緒に走りたかっただけなんだ」 
 余裕の表情で答える要。砂浜が始まると、重い義体をもてあますように速度を落とす要にあわせて誠も走る。
「オメエこそ早く行ったらどうだ」 
 そう言う要に誠はいつも見せられているいたずらっぽい笑顔を浮かべて答えた。
「僕も一緒に走りたかったんです」 
 二人は店の前に置かれた自分のバッグをひったくると、海の家の更衣室に飛び込んだ。
 誰もいない更衣室。シャワーを浴び、海水パンツを脱いでタオルで体を拭う。
「いつ見ても全裸だな」 
「なに?なんですか!島田先輩!」 
 全裸の誠を呆れたように見ている島田。
「お前さんが全裸で暴れたりすると大変だから見て来いってお姉さんに言われて来てみれば……」 
 島田が来ることは予想が出来てもその指示が穏やかなリアナのものだと知って落ち込みながらパンツを履く誠。
「クラウゼ少佐の指示じゃないんですか?」 
「違うよ。まあすっかりそう言うキャラに認識されたみたいだなあ……ご愁傷様」
 にんまりと笑いながら入り口に寄りかかっている島田。誠はすばやくズボンを履いてシャツの袖に手を入れる。
「はい!急いで!行くぞ!」 
 島田が出て行くのを見て慌てて海水パンツとタオルをバッグに押し込み飛び出す誠。
「誠ちゃん」 
 更衣室を出て浜辺の真ん中で海を見つめている。そんな誠の肩を叩いたのがシャムだった。
「シャムさん、何ですか?」 
 さすがにいろいろあった一日で、心地よい疲労感のようなものが誠を包んでいた。
「これ拾ったんだけど、要ちゃんにあげてね」 
 シャムが差し出したのはピンク色の殻を光らせる巻貝だった。子供のこぶし程度の大きさの貝は次第に朱の色が増し始めている日の光を反射しながら、誠の手の上に乗った。
「良いんですか?」