小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

遼州戦記 保安隊日乗 2

INDEX|30ページ/70ページ|

次のページ前のページ
 

 誠と要を見比べる島田。要は相手にするのもわずらわしいと言うようにサングラスをかけなおして空を見上げている。 
「ずるいんだ!アイシャちゃん達が働いてるときに二人でべったりなんて!」 
 そう言ってサラが誠をにらみつける。 
「じゃあお前等、荷物番変わってもらおうか?」 
 そう言うと要は立ち上がった。
「じゃあ神前。お姉さん達の邪魔でもしにいくか」 
 要はそのまま当然と言うように誠を立たせるとバーベキュー場の方に歩き出す。
「ああ、サラ。そこのアホと一緒にちゃんと荷物を見張ってろよ。問題があったら後でぼこぼこにするからな」
 ちゃんと捨て台詞を忘れない要。誠も要に付いて歩く。
『正人が余計なこと言うから!』 
『島田君のせいじゃないわよ。余分なこと言ったのはサラじゃないの!』 
 サラとパーラの声が背中で響く。
「良いんですか?西園寺さん」 
「良いんじゃねえの?島田の奴は楽しそうだし」 
 そう言うと要はサングラスを額に載せて歩き出した。
「要ちゃん達!到着!」 
 スクール水着姿のシャムが叫ぶ。誠は何度見ても彼女が小学生低学年ではないことが不思議に思えて仕方なかった。
「肉あるか?肉!」 
 いつも通りの姿に戻った要は、すばやくテーブルから箸をつかんで、すぐにアイシャが焼いている牛肉に向かって突進する。 
「みっともないわよ、要。誠ちゃん!お姉さんのところの焼きそば出来てるから……食べたら?」 
 アイシャにそう言われてテーブルの上の紙皿を取ると奥の鉄板の上で焦げないように脇にそばを移しているリアナの隣に立った。
「じゃんじゃん食べてね。まだ材料は一杯あるから」 
 いつものほんわかした笑みを浮かべながら誠の皿に焼きそばを盛り分ける。
「お姉さん、ピーマンは避けてやってください」 
 串焼きの肉にタレを塗りながら遠火であぶっているカウラがそう言った。
「神前君もピーマン苦手なの?」 
「ピーマン好きな奴にろくな奴はいねえからな!」 
 要の冗談がカウラを刺激する。
「西園寺。それは私へのあてつけか?」 
 カウラのその言葉に、要がいつもの挑発的な視線を飛ばす。
「誠ちゃん!お肉持ってきたわよ。食べる?」 
「はあ、どうも」 
 山盛りの肉を持ってきたアイシャ。誠はさっと目配りをする。その様子を要が当然のようににらみつけている。カウラは寒々とした視線を投げてくる。 
「そう言えば島田君達はどうしたの?」 
 そんな状況を変えてくれたリアナの一言に心の奥で感謝する誠。
「ああ、あいつ等なら荷物番してるぜ」 
 アイシャから皿を奪い取った要が肉を食べながらそう言った。
「もう食べごろなのに。誰か代わってあげられないの?もう用意できてるんだから」 
 春子がそう言うと、きれいにトレーの上に食材を並べた物を人数分作っていた。
「じゃあシャムが代わりに番してるよ!」 
「師匠!私も!」 
 シャムと小夏が元気に駆けていく。
「気楽だねえ、あいつは」 
 要はビールの缶を開けた。
「それがシャムちゃんの凄いところよ、ああこれおいしいわ」 
 つまみ食いをしながらリアナがそう言った。
「カウラ、その肉の塊よこせ!」 
 突然の要の言葉にめんどくさそうに振り向くカウラ。
「つまらないことを考えたんだろ?」 
 要の口元の下品な笑みを見てタレをつけながら焼いている肉の塊を遠ざけるカウラ。
「呼ばれました!」 
「アイシャ!ごめんねー。ちょっといろいろあって」 
 島田とサラが一番に飛び込んでくる。
「島田さん達、こっちにとってあるわよ」
 春子が鉄板の端にある肉と野菜の山を島田達に勧める。 
「女将さんすいません。ジュン君とエダ、これだって」 
 パーラがキムとエダにトレーを渡す。
「また焼きそば、入るわよ」 
「とうもろこし、焼けたよ」 
 対抗するようにリアナが焼きそばの具を炒め始め、健一はタレのたっぷり付いたとうもろこしを差し出す。
「アタシがもらう」 
 要は悠然と皿を抱えたままもう一方の手でとうもろこしを一本確保する。
「カウラ、代わろうか?」 
 とりあえずこの中では一番空気の読める隊員、パーラが肉の塊にかかりっきりのカウラに声をかけた。
「すまない。頼む」 
 そう言うとカウラはいつの間にか隣に立っていた菰田からビールを受け取った。
「菰田君、ちょっと健一君と代わってあげてよ」 
 カウラを見守るだけで何もしない菰田にリアナが声をかける。
「すいません!気がつかなくて」 
 菰田がとうもろこし担当になると、男性隊員がその周りを囲み、次々と焼けたとうもろこしをさらっていった。
「おい!キム!またタバスコか?」 
 肉に色が変わるほどタバスコをかけているキムを見て島田が突っ込む。
「良いだろ?俺が食うんだから」 
 そう言うと肉を口に放り込むキム。
「いい風ですね」 
 そんな隊員たちを見ながら誠はゆっくりと要の隣で焼きそばを食べていた。
「まあ年に一度のお祭りだな」 
「海に来るのは年に一度だが、お祭りは年中やってる気がするが」 
 リアナから渡された焼きそばの皿を手に、カウラが誠の隣に座った。
「まあな。どうせあれだろ?帰ったらあいつ等の歓迎会とかやるんだろうし」 
 網やまな板を洗っているレベッカを指差して要はそう言う。
「だろうな、シンプソン中尉!片付けは菰田達にやらせるから食べてくれ!」 
 明らかに作業に邪魔な胸を揺らしているレベッカを見ることに飽きたカウラはそう叫んだ。
「西園寺、せっかく仲間になるんだ。もう少し大人の対応は出来ないのか?」 
 レベッカの前をうろちょろしている要はカウラのその言葉を聴きながして、とうもろこしをかじっていた。
「そうだよねえ。要ったらずっとレベッカちゃんにつんつんして、あんなに怯えてるじゃない」 
 近くに立っていた誠の陰に隠れて様子を伺っているレベッカ。今にも泣き出しそうな表情でちらちらと要を覗き見ている。
「なんだよ、ありゃ。この商売舐められたら終わりだぜ。よくあんなのが勤まるもんだな」 
 レベッカの怯えた様子に逆に満足げにとうもろこしを食べ続ける要。
「要ちゃん!」 
 急にリアナの大きな声がしたので一同が焼きそばの鉄板に視線を移した。
「みんな人それぞれ、いいところもあれば悪いところもあるのよ!そんな胸くらいのことで新しく来てくれた人を差別しちゃだめでしょ!」 
 その言葉に、とうもろこしから口を離す要。リアナの『胸』と言うところでカウラが一瞬自分のことかと言うようにリアナを見つめる光景を見つけたアイシャは噴出しそうになるのを必死にこらえていた。
「お姉さんが言うことだ。済まなかったな」 
 素直に頭をたれる要に少し戸惑いながら誠の後ろからおずおずと顔を出すレベッカ。
「すいません、アタシなんかのために」 
 金髪の長い髪をなびかせながらあわせて頭を下げるレベッカ。
「でもさあ、なんかアメリカ人ぽく無いわよね、レベッカちゃん」 
 アイシャが焼きそばをすすりながらそう言った。
「私、戸籍はテキサスなんですが、生まれも育ちも長崎なのでよくそう言われます」 
 ぽつりぽつりと過去を語るレベッカ。誠はその時彼女の瞳に光るものを見つけた。