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遼州戦記 保安隊日乗 2

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「良いじゃないですか。リアナ中佐。焼きそば取ってあげましょうよ」 
「そうね、レベッカちゃんは一番働いてたから、お肉大盛りにしてあげる」 
 リアナはそう言うと皿一杯に焼きそばを盛り付けてレベッカに渡した。
「ありがとうございます。麺類は大好きなんです」 
 そう言うとレベッカは慣れた調子で箸を使って焼きそばを食べ始めた。
「まあいいや。お姉さん、アタシにも頂戴」 
「ちょっと待っててね、要ちゃんにはたっぷり食べてもらうから」 
 そう言うと先に作っておいた野菜炒めに麺を乗せてかき混ぜるリアナ。
「そう言えば神前曹長の機体のカラーリング。有名ですよ、合衆国でも」 
 そのレベッカの言葉に一同が凍りつく。明らかに予想していたと言うように要のタレ目がじっと誠に向けて固定された。
「本当ですか?それは良かった」
 とりあえずの返事。そう割り切って誠は照れながらそう答えた。 
「良い訳ねえだろ!馬鹿野郎!テメエの痛い機体が笑われてるだけだろうが!」 
 そんな誠の後頭部を軽く小突く要。誠は頭をさすりながらレベッカの輝く青い瞳に戸惑っていた。
「誠君大人気じゃないの。レベッカさん、ああ言うの好き?」 
「かわいい絵ですよね。漫画とか結構読んでたので好きですよ」 
 その言葉を聴いた瞬間に目の色が変わるアイシャ。
「じゃあアニ研新入部員に決定ね」 
 アイシャはそう言うと端末に手を伸ばした。
「レベッカ、悪いことは言わねえ、その腐った女から離れた方がいいぞ」 
「失礼ねえ、同好の士を迎えて歓迎しているだけよ。どこかのアル中みたいに力任せにぶん殴るしかとりえが無いわけじゃないのよ」 
「簀巻きにして魚の餌になりてえみたいだな」 
 要はにらみつけ、アイシャは口元に笑みを浮かべる。鉄板を叩きつける音が響いた。全員が振り返るとこてを焼きそばを載せた鉄板に叩きつけたリアナの姿があった。要達はさすがにこれ以上リアナの機嫌を損ねないようにと、少し離れてビールを飲み始めた。誠は缶ビールを飲みながら焼きそばを食べ終え、健一からとうもろこしをもらって食べ始める。
「菰田、串焼きはどうなってる?」 
「もう大丈夫でしょう。西園寺さん、食べます?」 
 さすがに暑いのか、菰田が汗を拭いながらひたすら串を回転させている。
「いや、これはシャムが好きそうだなって。誠、シャム達と代わってやろうぜ」 
 誠の肩をつかむと、要はそのまま歩き始めた。
「おい、西園寺!」 
「カウラちゃん良いじゃないの。それに今回の旅行では要ちゃんには結構無理言った事もあるし」 
 アイシャは悠然とビールを飲んでいた。
「あの串焼き。ナンバルゲニア中尉用ですか?」 
 手を引いて先頭を歩く要に尋ねる誠。
「分かってきたじゃねえか。あのチビ、ちっこい癖に食い意地は人一倍だからな」 
 要はそう言うと手を振るスクール水着の少女と少女らしきものに手を振った。
「要ちゃん!遅いよ!」 
 相変わらずシャムは黄色いスイムキャップを被りなおして。何度見ても誠には小学生に見えた。
「交代だ。とっとと食って来い!」 
「了解!」 
 シャムと小夏はすばやく立ち上がって敬礼すると、そのままリアナ達の下へと急いだ。
「さて、腹は膨らんだし、海でも見ながらのんびりするか」 
 そう言うと要はまたパラソルの下で横になった。誠はその横に座った。海からの風は心地よく頬を通り過ぎていく。要の横顔。サングラス越しだが、満足げに海を見つめていた。
「じろじろ見るなよ、恥ずかしい」 
 らしくも無い言葉をつぶやいてうつむく要。誠は仕方なく目をそらすと目の前の浜辺ではしゃぐ別のグループの姿を見ていた。


 保安隊海へ行く 16

「そう言えば西園寺さん。こんなことしてていいんですかね」 
 照れるのをごまかすために引き出した誠の話題がそれだった。
「なんだよ。蒸し返すんじゃねえよ」 
 めんどくさそうに要が起き上がる。額に乗せていたサングラスをかけ、眉間にしわを寄せて誠を見つめる。
「さっきの東方開発公社の件か?あれは公安と所轄の連中の仕事だ。それで飯を食ってる奴がいるんだから、アタシ等が手を出すのはお門違いだよ」 
 そう言うと再びタバコに火をつけた。
「でもまあ東方か、ずいぶんと世話になったんだがな」 
 タバコの煙を吐き出すと、サングラス越しに沖を行く貨物船を見ながら要がつぶやいた。
「やはり胡州陸軍と繋がってるんでしょうか?」 
 要は胡州帝国陸軍非正規作戦部隊の出身であることは保安隊では知られた話だ。
 五年ほど前、東都港を窓口とする非合法物資のもたらす利権をめぐり、マフィアから大国の特殊部隊までもが絡んで、約二年にわたって繰り広げられた抗争劇。その渦中に要の姿があったことは公然の事実だった。そんなことを思い出している誠を知ってか知らずか、遠くを行く貨物船を見ながら悠然とタバコをくゆらす要。
「アタシ等の作戦に関する、物資や拠点の提供、ターゲットの情報、現在の司直の捜査状況の把握。いろいろとまあ世話になったよ。昔からあそこはそう言うことも業務の一つでやってたみたいだからな」
 まるで当たり前のように口にする要の言葉の危険性に誠は冷や汗をかくが、そのまま話を続けた。 
「そんな危ない会社ならなんですぐに捜索をしなかったんですか?この一ヶ月、僕等がもたもたしていたせいで一番利益を得た人間達が東方開発公社を使って資金洗浄をして免罪符を手に入れたのかもしれないんですよ」 
 誠は正直悔しくなっていた。一応、自分も保安隊隊員である。司法実力行使部隊として、自分が出動し、一つの捜査の方向性をつけたと言える近藤事件が骨抜きにされた状態で解決されようとするのが悔しかった。
「お前、なんか勘違いしてるだろ」 
 サングラスを外した要が真剣な目で誠を見つめてくる。
「アタシ等の仕事は真実を見つけるってことじゃねえんだ。そんなことは裁判官にでも任して置け。アタシ等がしなければならないことは、利権に目が血走ったり、自分の正義で頭がいかれちまったり、名誉に目がくらんだりした戦争ジャンキーの剣を元の鞘に戻してやることだ。そいつが抜かれれば何万、いや何億の血が流れるかもしれない。それを防ぐ。かっこいい仕事じゃねえの」 
 冗談のようにそう言うと一人で笑う要。
「でも、今回の件でもうまいこと甘い汁だけ吸って逃げ延びた連中だって……」 
「いいこと教えてやるよ。遼南王朝がラスバ大后の時代、あれほど急激に勢力を拡大できた背景にはある組織の存在があった。血のネットワークを広げるその組織は、あらゆる場所に潜伏し、ひたすら時を待ち、遼南の利権に絡んだときのみ、その利益のために動き出す闇の組織だった」 
 突然要が話す言葉の意味がわからず呆然とした誠。要は無理もないというように誠の顔を見て笑顔を浮かべる。
「そんな組織があるんですか?」