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遼州戦記 保安隊日乗 2

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「どっかの馬鹿が法術使って大暴れしたせいなんだがなあ!」 
「助けられた人間の言う台詞じゃないな」 
 カウラの一言にまたもや要とカウラのにらみ合いが始まる。リアナは見守ってはいるがいつも通り止める様子は無い。
「喧嘩はいけないの!」 
 シャムの甲高い叫びがむなしく響いた。
「明石と吉田はいるかー」 
 間の抜けた声の男。とろんとした寝不足のような目が誠の視界に入ってくる。保安隊隊長である嵯峨惟基特務大佐が入り口に突っ立っていた。
「俺等をセットで呼ぶなんて珍しいですね」
 吉田はようやくこの部屋から解放されるきっかけが出来たと喜んで立ち上がる。 
「まあな。用事はそれぞれあるし……まず吉田は同盟司法会議にリンクされるシステムのチェックの依頼が来てるぞ」 
 嵯峨の言葉に吉田の表情が不機嫌なものに変わった。嵯峨もそうなると予想していたようで頭を掻きながら手を目の前にかざして誤るようなポーズをした。
「あれかよ。使えないシステム作りやがったから俺が自力で要件定義からやり直したんすよ!まあ局長クラスからの指示でしょ?分かりました。じゃあ……」 
 吉田がアイシャを見つめる。珍しい吉田の真剣な表情に噴出すのを抑えながら見守る誠。
「俺は絶対行かないからな!」 
 そう言うと早足で入り口で立ち尽くしている嵯峨を残して吉田が消えた。
「明石は俺の用事だ。ちょっと顔貸してくれねえかな。同盟司法局の本部で面接試験だとさ」
 重要なことをあっけらかんと言う嵯峨らしいその態度に一同は顔を見合わせる。
「面接……ですか?」 
 豆鉄砲を食らったようにつぶやく明石。
「ああ、増設予定の実働部隊の隊員候補を選ばにゃならんだろ?元々部隊活動規模は四個小隊を基本に据えてあるんだから」 
 明石の顔を見て困ったような表情で嵯峨がそう言った。そしてようやく上司の意図がわかったのか、明石の表情が明るくなる。サングラス越しだというのに反応がわかりやすい明石に誠はまた噴出しそうになってこらえるのに必死だった。
「ようやく同盟も重い腰あげよったわけですか」 
 うれしそうに立ち上がる明石。その視線はカウラに向けられた。
「大丈夫ですよこの場はなんとか収めますから」 
「そうか」 
 カウラのしっかりした声に明石が大きく頷く。そんな二人を不満そうに見つめている要に思わずうつむいてしまう誠。
「そんじゃあ海、楽しんできてよ」 
 嵯峨は軽く手を振りながら明石をつれて出て行った。
「なんだか腰折られたな」 
 喧嘩のタイミングを失った要がぼんやりと天井を見つめている。一回、誠がその髪型を『変形おかっぱ』と呼んで張り倒された、耳元の髪が襟元まで届くのに後ろは少し刈り上げているスタイルの黒い髪がなびく。
「それにしても、誠のお袋。若かったよなあ……本当にオメエのお袋か?姉ちゃんじゃねえのか?」 
 先週、コミケの前線基地として誠の家の剣道場が使用された。職場の上司が来ると言う事で神前家は上へ下への大騒ぎだった。こう言ったお祭り騒ぎを仕切る事に慣れている誠の母、神前薫は上機嫌でアイシャや要を受け入れた。炊き出しや道場で仮眠を取るブリッジクルーの為の布団運びを笑顔で引き受けて動き回ったのを思い出して恥ずかしくなる誠。
 また彼女は色々と要やアイシャ、なぜかついてきたカウラなどを喜んで世話していた。本来は家族の話は地雷である要から、そんな話が出てきたと言う事で少し不思議に思いながら、その場の全員が要の方を見やった。
「そう言えばそうよね。お化粧とかしないって言ってたけどホント?」 
 アイシャが誠に話を振る。誠はしばらく意味がわからないと言う表情を浮かべた後、昔からの母の姿を思い返してみる。
「そうですかね。特に気にした事は無いですけど」
 誠は肉親の話題を取り上げられてただ照れたように無意識のうちにテーブルを左手の人差し指で突いていた。 
「確かにどちらかと言うと、お母さんと言うよりお姉さんよね。色々お世話になったから今度挨拶に行かないと」 
 高校時代から誠の実家に遊びに来る同級生達と同じ台詞である。確かに父の誠一と比べて、母親の面差しが物心付いた頃から変わらないのは気になっていた。しかし深くその事について考えた事は今まで無かった。
「自慢じゃないが、アタシは三歳からこの身体だぞ!」 
 突然の要のその言葉。彼女の境遇を語ることがタブーとなっているので自分でそれをひけらかす彼女に誠は凍りついた。だがどこにでも空気を読まない人間はいる。
「そりゃ、要ちゃんのは義体だからでしょ?」 
 アイシャ。彼女は得意げにそう言うと切れ長の目に紺色の瞳を光らせる。
「オメエ等だって遺伝子操作されてるじゃねえか……。髪の色。なんだその色?」 
 そう言いながら少し不機嫌になったように見える要。呆れたように大きくため息をついたカウラを見て要は我に返る。そして自分が切り出した話題があまり歓迎されていないことを知って気分を切り替える為にアイシャをにらみつけている目を誠に向けた。
「水着の買い物に行くのはアタシとカウラ、サラとパーラ。それに誠でいいんだな?」 
「要ちゃん、わざと私をハブったでしょ」 
 アイシャがしなだれかかるように要に寄りかかる。めんどくさそうにそれを振り払って腕組みをする要。
「何のことかなあ?」 
「正人も来る?」 
 赤い髪のサラが島田に声をかける。
「まあ俺が行くしかないだろうな。神前の趣味だとまた『痛い』って話になるだろうから」 
 苦笑いを浮かべている島田。誠の機体のマーキング。その塗装の画像が一部マニアに大うけしているのは事実だった。ライトグレーのステルス塗装の上に派手に書かれたアニメのヒロインキャラ達。実際デザインした誠もその案が通るとは思っていなかったほどインパクトのある機体のデザインは全銀河の失笑を浴びていた。
「それじゃあ……」 
「シャムは?アタシは仲間に入れてくれないの!」 
 仲間はずれにされたシャムが叫んだ。
「お前はトランクの中でも入るか?」 
 冷ややかにそう言って笑う要。それを見ると今にも泣きそうな表情のシャムが出来上がる。
「要、乗れるわよ、まだ」 
 世話好きなパーラの一言に安心するシャム。うれしそうにパーラの手を取ると上下に振って喜んで見せるのがシャム流の喜びの表現だった。そんな光景を見ていると誠達もなんとなく心が温かくなる。
 だが、そんな状況が許せない。自分が中心にいないと気がすまない隊員もいる。
「まあ、今回の買い物はアタシが主役だからな!アタシが!」 
 そう言うと要は立ち上がって、モデルの真似事を始めた。確かにスタイルは保安隊でもマリアとそのトップを競うほどである。誠と島田の視線が要に注がれるのもいつものことだった。当然島田は隣のサラにわき腹をつつかれ、誠はカウラににらみつけられる。
「それじゃあとりあえず終業後、駐車場に集合ってことで」 
 要はそう言うと颯爽と部屋を出て行く。いつもこういう時はと理由をつけてタバコを吸いに行く要を見て、カウラは諦めたように自分の席に戻った。
「失敗したかなあ」