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遼州戦記 保安隊日乗 2

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 戸惑っているロナルドだが、要は急に襟首に伸ばそうとした右手を止めて静かにロナルドを見つめた。いつもならすぐに殴るか蹴るか関節を極めに行く彼女が不意に手を止めたことが誠には少しばかり不自然に見えた。ロナルドは苦笑いを浮かべながら言葉を続ける。
「失礼、では西園寺大尉とお呼びするべきなんですね。そして第二小隊隊長、カウラ・ベルガー大尉。運用艦『高雄』副長アイシャ・クラウゼ少佐。私が……」 
「オメエ、パイロット上がりじゃねえな」 
 ロナルドの言葉をさえぎって、不敵な笑いを浮かべながら要がそう言った。
「なぜそう思うんです?」 
 まるでその言葉を予想していたように、ロナルドも頬の辺りに笑みを湛えている。誠には要の言葉の意味がわからなかった。岡部と隣の軽そうな雰囲気の将校。二人とロナルドの雰囲気の違いなど誠には区別が付かなかった。だが得意げに要は話を続ける。
「なに、匂いだよ。カウラやうちのタコ隊長みたいに正規任務だけをこなしてきた人間にゃあつかない匂いだ。海軍ってことはシールチームか?」 
 一呼吸置こう、そう考えているとでも言う様に、ロナルドは呼吸を置いて話し始めた。アメリカ海軍の特殊部隊。誠も話は聞いていた。敵深くに軽装備で潜入して調査、探索、誘導などを主任務とする部隊の隊員。それぐらいの知識は誠にもあった。だがロナルドは相変わらず社交辞令のような笑みを絶やそうとはしない。
「それについては否定も肯定もしませんよ。規則上私の口からは言えないのでね。なんなら吉田少佐にでも調べてもらったらどうですか?彼のテクニックならペンタゴンのホストマシンに介入するくらいの芸当は出来るでしょうから」 
 特殊部隊上がりに良く見られる態度だ。誠は以前保安隊に配属された初日に警備部部長のマリア・シュバーキナに感じた違和感を思い出してようやくロナルドに感じて納得がいった。
「まあ、その口ぶりではっきり分かったわ。どことは言わんが非正規戦部隊出身の特務大尉殿か」 
「旦那!俺等のわかるように話してくださいよ!」 
 ラテン系と思われる髭を生やした中背の中尉がロナルドの脇をつつく。そして岡部の脇からチョコチョコと眼鏡をかけたブロンドの女性将校が誠を見ている。誠が微笑みかけると、逃げるように岡部の後ろに隠れた。そこで岡部が一歩足を踏み出して誠達を見回す。
「自分が……」 
「俺がフェデロ・マルケス海軍中尉。合衆国海軍強襲戦術集団出身で……」 
 岡部を押しのけて自己紹介を開始したフェデロだが、しらけた雰囲気に言葉を飲み込んだ。
「フェデロ。もう少し余裕を持て。それと彼がジョージ・岡部中尉だ。このフェデロとは強襲戦術集団のパイロット時代からの同期だそうだ」 
 ロナルドがそう言うと静かに歩み出た岡部が要に向かって握手を求める。
「ジョージでいいです。まあ、このうるさいのとは強襲戦術集団の頃からの腐れ縁で……」 
「腐れ縁ってなんだよ!いつもお前の無茶に付き合わされてた俺の身にもなってみろ」 
 小柄なフェデロはそう言うと岡部の手を引っ張る。
「それならお前が馬鹿やった席の尻拭いをさせられた回数を教えてもらいたいものだね」 
 にらみ合う二人。
「あのー」 
 そう言って話しかけてきた眼鏡の女性将校を見て、要の動きが止まった。
「でけえな」 
 要は一言そう言った。確かにそれは海軍の制服を着ていても分かるくらいの大きさの胸だった。要とマリアは大きい方だが、メガネの将校の胸は何かと邪魔になるだろうと心配してしまうような大きさだった。要はそれを確認すると、緑のキャミソールを着ているカウラの胸に視線を持っていった。
「平たいな」 
「おい、要。何が言いたいんだ?」 
 カウラはさすがにすぐに気がついてこぶしを固めて要をにらみ付ける。
「カウラさん落ち着いて!」 
 二人の間に入る誠。眼鏡の女性将校はおびえてしまい、また岡部の後ろに下がろうとする。
「シンプソン中尉。そんなに怯えなくてもいいですよ」 
 ロナルドのその言葉で落ち着いたシンプソンと呼ばれた女性将校がおずおずと前に出た。
「私がレベッカ・シンプソン技術中尉です。よろしくお願いします」 
 消え入るような声で頭を下げるレベッカ。要、カウラ、アイシャの視線が彼女の胸に集中する。
「そんな……見られると……私……」 
「外人だ!」 
 とつぜんのシャムの甲高い叫び声で、一同は入り口のほうを振り向いた。麦藁帽子、戦隊ヒーローの絵柄がプリントされた子供用のタンクトップ。デニムのスカート。さらに当然のように浮き輪を抱えたシャムが立っている。
「凄いよ!外人さんだよ!ほら金髪の人!」 
「おい、シャム。この眼鏡が外人ならオメエは宇宙人じゃねえか!」 
 冷たくはき捨てる要。誠も要の言う通りなので苦笑いを浮かべるしかない。
「金髪ならマリアお姉さんとかエンゲルバーグとか居るでしょz?」 
「でも私、この人たち会ったことないよ?」 
 アイシャのその言葉も、シャムには届いていない。
「もしかして……あなたがあの遼南青銅騎士団団長のナンバルゲニア中尉ですか!」 
 そう叫んだのはレベッカだった。彼女はそのままシャムのところまで近づくと。頭をなで始めた。
「この人、日本語うまいね」 
「生まれが長崎なんですよ私」 
 全員がこの奇妙な組み合わせを眺めていた。
「生まれは長崎っと。それでスリーサイズは?」 
 シャムを押しのけていつの間にか隣に立っていた島田とキムを見て飛びのくレベッカ。
「島田ちゃん。レディーにつまらない質問するとサラに言いつけるわよ」 
「それは勘弁してください。つい出来心で……」 
 アイシャの冷たい視線を浴びて引き下がる二人。だがいかにも残念そうな島田。それに対して再びレベッカの前に立ったシャムは興味深そうに金髪のレベッカを観察していた。
「でも本当におっぱい大きいね!」 
 そう言うと手を伸ばそうとするシャムだが、要がその手を叩き落とす。
「シャム、餓鬼かテメエは。三馬鹿を喜ばすようなこと言うんじゃねえ!それよりオメエさんら、ただ顔見世に来たってわけか?ご苦労なこった」 
 せせら笑うような要のいつもの表情にもロナルドはうろたえることもなかった。
「まあ嵯峨大佐にとりあえず会ってくれと言われましてね。嫌ならそのまま遼南の海軍基地に帰ってもかまわないと言うことでしたが」 
 嵯峨らしい配慮。誠はあの間抜けな顔をした部隊長がめんどくさそうに画像通信をしている場面を思い浮かべた。
「それでどうするつもりだ?帰るなら早いほうがいいぞ」 
 要がサングラスをずらして上目遣いに誠より一回り大きく見えるロナルドを見上げた。
「いえいえ、帰るなんて。なかなかいい環境のようじゃないですか。それに海軍で事前に聞いていたほど、お馬鹿な集まりじゃないと分かりましたし」 
 そんなロナルドの言葉に複雑な顔で黙り込む要。
「そうよねえ、馬鹿なのはこの三人と要だけだもんね」 
 アイシャはそう言って島田、キム、誠を眺めている。
「アイシャ……本当にいっぺん死んで見るか?」