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遼州戦記 保安隊日乗 2

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 リアナが真顔で隣に座っている要に顔を近づける。白い頬が朱に染まっているのを見て誠は逃げ出したくなるのを何とか我慢していた。要がその青い瞳、白い髪を眺めながら時が経つ。
 カウンターでは女将の春子と小夏がじっとその様を見つめていた。
 急に要の頬が赤らんだ。瞬きをし、そして手にしていた酒を一気にあおる。
「ばっ、ばっ、馬鹿じゃねえの?お姉さん冗談止めてくださいよ。誰がこんな軟弱野郎のこと好きだとか……」 
『好き?』
 その言葉を自分で口にして要はさらに顔を赤らめる。
「要ちゃんかわいい!」 
 シャムがそう言って飛び出そうとしたところで要が立ち上がり、上目がちにシャムを睨みつけた。その迫力に圧されて愛想笑いを浮かべながら自分の席に戻るシャム。
「気が変わった。お前等割り勘な。それとアタシ帰るから」 
 誠たちが予想はしていた反応の中で一番穏やかな態度で要が立ち上がる。 
「要ちゃん!」 
 呼び止めようとリアナが声を出したが、要はそのまま手を振って店を出て行く。顔を出した春子が呆れたようにリアナを見つめている。
「ああ、行っちゃった」 
 息を潜めていたパーラが伸びをして要が消えた引き戸を見つめていた。
「お姉さん!要の性格知ってるでしょ?」 
 アイシャが恨みがましい目でリアナを見つめる。同様に要の財布をあてにしていた誠や島田もリアナを見つめる輪に参加していた。
「ちょっとまずかったかしら。いいわ。みんなのお勘定健一君が払うから」 
「え?」
 突然の提案にうろたえる健一。そして給料前の出費を恐れていた一同がホッと胸をなでおろした瞬間だった。
「神前、追え」 
 カウラは確かにそう言った。静かだが明らかに命令としてカウラはその言葉を口にしていた。
「いいから追え!」 
 動こうとしない誠を見つめて再びカウラの口から出た言葉。ハッとして誠は店から飛び出していた。
「西園寺さん!」 
 あまさき屋から出てすぐ誠は要を見つけた。そばの小道でタバコをくゆらしながら、店じまいしたラーメン屋の土塀にもたれかかって空を見ている。誠の言葉を聞くと要はわざと早足で歩き出した。
「待ってくださいよ、西園寺さん」 
 誠はそのまま走って要に追いつくと彼女の前に立った。咥えているタバコからの煙が誠を包んだ。
「邪魔だ。どけ」 
 静かな声で要が言いつける。しかし誠には動くつもりは無かった。
「どうせアイシャあたりからお前が払えって言われて来たんだろ?気が変わったんだ。ほっとけ」 
 下を向いたままの要。誠は何も言えずにいた。
「お前だって迷惑だろ?あんなこと言われたらさ。だからアタシは帰る」
 まるで聞き分けの無い少女だった。子供時代がわからない。三歳で今の機械化された体を受け入れることでしか生きることが出来なくなった要。その寂しげな表情に誠は惹きつけられた。 
「そんな事無いですよ!西園寺さんは……素敵な人ですから」 
 誠のその言葉でようやく西園寺が誠の顔を見上げた。呆れたようなまるで同情するような感情がその目に映っている。
「素敵な人……ねえ。アタシみたいな暴力馬鹿が素敵だってのは驚きだ」 
 自虐的な笑いを浮かべる要。それでも誠は言葉を続けた。
「そうですよ。僕が誘拐された時だってちゃんと助けに来てくれたじゃないですか!西園寺さんは優しい人です!」 
 誠は真剣な顔でそう説いた。お互い見つめあう目と目。そして要が笑い出した。まるで自分自身を笑っているとでも言うように腹を抱えて大笑いする要。誠は何が起きたのかわからないままじっと笑い続ける要を見つめていた。
「ったく。アタシの負けだ」
 そう言うと要は誠の左肩に手を乗せる。
「……ずるいぜそんなの」 
 要が自分自身にそう呟いた。誠の横をすり抜けて再び大通りに向かう要。
「西園寺さん……」
 説得できたと言う事実より要の言葉の意味がわからず呆然としている誠。 
「こりゃあテメエのさっきの死にそうな顔を忘れる為には飲み直さないといけねえな。まあアタシのおごりだ。潰れるまで飲ませるから覚悟しろよ」 
 要はそう言うと笑顔に戻ってあまさき屋に向かった。誠は要の言葉の最後に身を凍らせながら派手に引き戸を開いた要の後に続いた。


 保安隊海へ行く 6

「良い天気!」 
 ハンガーの前で両手を横に広げて走り回るシャム。お気に入りの戦隊モノのプリントがされたTタンクトップにデニムの半ズボン。さすがに旅行と言うこともあって毎度おなじみの猫耳はつけていなかった。しかしそれだからこそ彼女は小学校低学年の児童にしか見えなくなる。
「あの、西園寺さん。あの人、本当に三十過ぎなんですか?」
 誠はシャムを指差して要に尋ねる。シャムが活躍した遼南内戦から逆算すればそうなるとは理解していても誠にはその現実は受け入れられなかった。 
「まあオメエのお袋よりは年下なんじゃねえの?どっちも実年齢は信じられねえけどな」 
 そのはしゃぎぶりを眺めて呆れる要。要はいつも通り黒いタンクトップにジーパンと言うラフな姿だった。誠も無地の水色のTシャツ。痛い格好はするなと寮長の島田から釘を刺されていたからこそのチョイスだった。
「シャムちゃん!そこにバス停めるからどいてね!」 
 白い髪に白いワンピース姿のリアナと、その後ろで荷物を抱えながらついてくる健一。
「そのまま!ハンドル切らずにまっすぐで!」 
 そう叫んでいるのは青いTシャツを着た西。いつもこう言うときに気を利かせる彼の機転に誠は感心しながらその後姿を眺めていた。
「もっとでかい声出せよ!真っ直ぐで良いんだな!」 
 サングラスをかけてバスの運転席から顔を出しているのは島田だった。電気式の大型車らしく静かに西の誘導でバックを続けている。
「随分本格的ですねえ……レンタルですか?」 
 エメラルドグリーンの髪に合わせたような緑色のキャミソール姿のカウラに誠は声をかけた。
「備品には出来る値段じゃないだろ?去年は二台バスを借り切ったが、今年は一台で済んだな」
 あっさりとそう言うカウラの横顔を見つめて目を見開いて驚いてみせる誠。 
「それってほとんど隊が空っぽになるんじゃないですか?まだ準備段階で今より人数も少なかったって話ですし……」
 誠は驚いて見せるが要もカウラも当然と言うような顔をしている。
「去年は機体も無い、機材も無い。することも無いって有様だったからな。それに整備班の参加者が少ないのは第四小隊の噂が本当みたいだからな。その準備とか色々あんだろ?」 
 要がポツリと呟いた。
「第四小隊?第三が先じゃないんですか?」 
「第三小隊は選抜は終わったが、同盟会議の決済がまだ下りないそうだ。そこで同時進行で進んでいた第四小隊の増設が来月の頭にあるらしい」 
 穏やかに答えるカウラ。目の前ではバスの止める位置をめぐり西がもう少し寄せろと言い出して島田と揉め始めていた。
「そうなんですか?……でも変じゃないのか?なんで第三小隊の増設が出来ないで……」
 そんな誠の疑問だが、要もカウラも逆に不思議そうに誠を見つめてきた。