朧木君の非日常生活(5)
――殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す・・・・・・殺して、やる。
・・・・・・尋問?
これは尋問ではなく――拷問だ。
殺意。この感情だけが自分を取り巻き始めた。冷静とはかけ離れた感情。沈着と
はかけ離れた状況。
「落ち着くんだ。朧木くん」
落ち着ける訳がない。
鬼火ちゃんにこんなことをした奴を目の前に落ち着ける訳がない。
「今、キレたらお仕舞いだ。全てが最悪の方向に進む」
無理だ。
「それによく見てみろ。体に目立った傷はない。気絶しているだけだ」
それでも――それでも、俺は。
「許せはしないよ、蜻蛉さん」
許してはダメなんだ。
天狗は鬼火ちゃんを片手一本で軽々と持ち上げた。
もちろん胸ぐらを掴み、乱暴に。
「離せよ、お前」
理性が消える。
「やめるんだ、朧木くん」
蜻蛉さんの制止が耳に入ってきても、頭は受け付かないない。
その時、天狗が鬼火ちゃんを俺たちの方へ投げた。
いや投げ捨てた。ゴミのように。目障りだと言わんばかりに。
――ドン!
鬼火ちゃんが音を立てて俺の目の前に落下してきた。
「・・・・・・・・・・・・お前!」
キレた。俺の中で何かがキレた。何かが外れた。
「お前とは…?」
天狗が言った。
「ははは、天狗さん。あなたはまた勘違いをなさっている。この青年は、鬼に両親を喰われたんです。この青年には鬼に対する憎悪しかない」
――憎悪。
間違いではない。俺は今、目の前にいる天狗に対して憎悪を抱いている。
憎悪どころの話ではない――殺意。
「うぅ・・・・・・」
鬼火ちゃんが落下の衝撃で目を覚ました。
しかし、まだ意識がはっきりしないのであろう。俺たちがいることには気づいていない。
――鬼火ちゃん!
「鬼が弱っている間に作業を行います。さ、その鬼を外に運んで」
「分かった」
俺は、頭の中で外れたものを無理矢理元通りにし、鬼火ちゃんを背負った。
――大丈夫、今助けるから。
作品名:朧木君の非日常生活(5) 作家名:たし