朧木君の非日常生活(5)
「ダメだよ、朧木くん。鳩は神使。八幡の鳩って言ったじゃないか。八幡の神は、戦の神だよ」
「早く言ってよ」
そんなの覚えてないよ、蜻蛉さん。
戦の神なんて忘れてたよ。
「だから決して怒らせてはダメだ」
怒らせたら――命はない。
そう言うことなのだろう。
「天狗さん、マジでごめんなさい」
「よし、今ばかりは僕が喋ろう」
え? 何がいけなかったんだろう。
完璧なる反省の態度じゃないか。
「ある者探しに参りました」
「ある者とは?」
「――鬼の子、です」
『鬼の子』この単語を聞いた瞬間、天狗は蜻蛉さんの胸倉を掴んだ。
「この神域に迷い込んだ鬼は主らの仲間か!」
「仲間? 違いますよ。僕達は彼女の敵です。いわば『退魔師』です。」
蜻蛉さんは、堂々と嘘を付いた。
表情を変えず、眉ひとつ動かさずに嘘をついた。
山神を騙しているのだ。
「真か? もし偽りを語るならば主らの命はないと思えよ」
「真実です。どうか信じて頂きたい」
――沈黙。
重い空気が辺りを包む。
俺の心臓の音だけが辺りに響き渡っている・・・・・・そんな感じだ。
作品名:朧木君の非日常生活(5) 作家名:たし